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エンシェントドラゴンがシマーノにやってきた

リザードマン達は驚きと共に感嘆の声を挙げる者、腰が引けている者など反応は様々だった。

始めての転移は様々な反応を引き出していた。

そして『シマーノ』に降り立ったリザードマン達は、まるで田舎から出てきたお上りさんみたいだ。

皆が皆キョロキョロとしている。

ちょっとした挙動不審者だ。


そして『シマーノ』の魔物達が俺達に気づく。

魔物達が一斉に駆け寄ってくる。


「島野様!」


「お帰りなさいませ!」


「先生!お早いお帰りで!」


「ノン様、待っておりました!」

俺だけではなく島野一家全員が手厚い歓迎を受けることになった。

次々に魔物達が駆け寄ってくる。

ちょっとした騒動だ。

街が活気に沸いていた。


「お前達、首領陣を呼んで来てくれ!頼むぞ!」

魔物達が一斉に頷く。


「畏まりました!」


「お待ちください!」


「お任せください!」

従順で助かります。

その声を受けて速攻で首領陣達が集まってきた。

全員が息を切らしている。


「はあ、はあ。島野様お帰りなさいませ!」


「ふう、ふう。お待ちしておりました!」

そんな走って来なくてもいいのに。

まるでご主人のお帰りを待っていた小型犬みたいだな。

可愛らしい奴らだ。

オクボスはランドールさんの所にいる為今日は不在とのこと。

うーん、一番いて欲しかったのに。

残念!

しょうがないよね、仕事だもん。

俺は手を挙げて注目を集める。


「お前達、紹介させてくれ。エンシェントドラゴンのゼノンだ。よろしく頼む!」

その声を受けてゼノンが前に出る。


「儂がエンシェントドラゴンのゼノンじゃ、よろしくのう」

その発言に『シマーノ』のリザードマン達が一斉に跪いた。

ここのリザードマン達もドラゴンに本能的に従うことになっているみたいだ。

リザードマン達の気配が一様に変わった。

緊張感が高まっている。

彼らにとってはエンシェントドラゴンとはそれぐらいの存在なのだろう。

正に神だ。

静かに涙を流す者、御尊顔を見ることすら儘ならない者、泡を吹いて倒れる者までいた。

とんでも無いなこれは・・・


他の魔物達もまるで神話の世界の登場人物を見るかの如く、跪く者や、頭を下げる者、中には拝む者までいた。

横を見るとゼノンは満更でもない顔をしていた。

良きに計らえとでも言いた気だ。

この爺い、分かってやってるな。

まあ良いでしょう。

ギルが誇らしそうにしているから見逃そう。

そんなに崇められたいのか?

まあそれで神気を集められるのだから、そうなるのかもしれないな。

ここの街のリザードマン達の為にゼノンの石像でも造ってやろうかな?

間違っても俺の石像は造らないぞ。

もし作ったらどうなるんだろう?

俺の背筋が凍るな。

やれやれだ。

俺は周りを見渡した。


「ゴブロウはいるか?」

その声にゴブロウが反応する。


「島野様!ここです!」

遠くの方でゴブロウが手を挙げている。


「ゴブロウ!こっちに来てくれ!」


「ただ今!」


ゴブロウが民衆を掻き分けて駆け寄ってくる。

「ゴブロウ、明日からでいいんだが仕事を頼みたい」


「は!何なりと!」

ゴブロウが跪く。


「ドラゴムを発展させたいんだ。大工や土木工事に従事できる者達を集めておいてくれ。出来るな?」


「承知いたしました」

心強い返事を頂いた。


「お前達には作業を行いつつも、ドラゴムのリザードマン達に技術指導を任せたい」


「畏まりました!」

ゴブロウは我が意を得たりと頷いていた。

その後も料理班、鍛冶班、畑班、裁縫班の主だった者達にリザードマン達への技術指導をお願いした。

全員快く応諾してくれた。

これで一先ずは安心だな。

手配は完了っと。


後は俺達お得意の娯楽だが此処は俺が仕切りたい。

敢えて余白を残しておこう。

何を持ち込もうかな?

サウナと風呂と、漫画喫茶と・・・




さて、まずはドラゴムのリザードマン達が持参した鱗を換金しなければならない。

誰に買い取らせようかと考えていると、丁度そこにフィリップとルーベンがやってきた。

何とタイミングのいいことでしょう。


「フィリップ、ルーベン、最高のタイミングだな。良いところにきたな」

何のことかと二人は首を傾げている。


「何のことですか?島野さん」


「リザードマンの鱗が大量にあるから買い取ってくれ」

二人の表情が明るくなった。


「ほんとですか?それはありがたいです。俺達も買い取りに来てた処だったんですよ」

どうやらタイミングばっちりだったみたいだ。


今ではリザードマンの鱗は南半球では高額に販売されている素材となっている。

その多様性に富む素材は高値で買い取られており、引手あまたとなっているのだ。

堅い上に柔軟性もあり頑丈な素材は、何にでも転用可能と、とても重宝がられているのだった。

特にリザードマンの鱗で造られた鎧が軽い上に頑丈だと、ハンター達からの人気が高い。

勿論作成者はゴンガスの親父さんとその弟子達だ。

赤レンガ工房で親父さんは我物顔で作業を行っている。

あの親父さんはこれはヒット作だと自慢しているらしい。

その様は眼に浮かぶな。

そしてその稼いだお金を全て酒に費やすところまで想像出来てしまう。

いっそのこと酒工房もサウナ島に造ろうかな?

そうなると親父さんはサウナ島の住民に成りかねないな。

またでいいかな?


リザードマン達が我先にとフィリップとルーベンに集まっている。

換金作業にてんやわんやだ。

二人から渡されるのは南半球の金貨だ、これは両替してやらないとな。

どうしよう・・・ここは金貨の含有量を参考にレートは八十%でいいかな。

今の相場はよく分からんからね。

俺は両替商となってサクサクと両替を行ってやった。

その様をゼノンが感心して眺めていたのだった。


俺は『収納』から北半球の金貨を十枚取り出した。

ゼノンに手渡す。


「ゼノン、小遣いだ」

ゼノンがにやける。


「おお!よいのか?」


「これが無いと食えないし、飲めないぞ」

実は俺達島野一家は北半球の通貨をそれなりに持っている。

というのも、ルイベントとの国交を開始してから、『シマーノ』には北半球の通貨が集まってきていた。

今では魔物達も給料制である。

いちいち月給いくらなのかは聞いてはいないが、どうやら北半球の金貨と南半球の金貨の両方を渡しているみたいだ。

因みに管理部門の代表はソバルが行っている。


魔物達はとにかくサウナ島に行きたがるのだ。

その気持ちはよく分かる。

あの島は魅惑の楽園だからな。

我ながらよく言うよってか?

そしてその南半球の金貨のほとんどが、サウナ島に落とされることになっている。

マッチポンプとは正にこのことである。


転移扉はエクスが決まった時間に開け閉めしている。

たまに休日にエクスが『シマーノ』の漫画喫茶に出入りしているのを見かける。

見た目がギルそっくりな所為か、エクスは魔物達からの人気が高い。


実は毎月俺は金貨二十枚、家族達は金貨十枚を指導料という名目で、北半球の金貨をソバル達から貰ってくれと渡されているのだった。

少し抵抗はあったが、今後の旅のことも考えて頂くことにした。

だって旅にはお金は必須でしょ?

逆にお金が無いのも心許ない。

なんなら昔の様に野菜の屋台で稼ぐこともできるのだが、そうしなくてもいいならそれに越したことは無いのだ。


それに実は俺には副業的に収入がいくつもあったのだ。

それはとても褒められたものではないのだが、漫画喫茶の漫画の権利料を徴収しているのだ。

その金額はなんと毎月金貨四十枚近くにもなる、それでも経営は真っ黒というのだから漫画喫茶の人気の高さが伺える。

その他にもいろいろと権利収入を得ており、実はそれなりの・・・否、かなりの北半球の通貨を持っているのだった。

お金はあったに越したことは無いからね。

貰えるものは貰っておきましょうってね。




ゼノンは金貨を受け取ると、ならばと急に獣化して、自分の鱗を剥がしていた。

なにをやってんだ?この爺さんは。


「守よ、これでどうにかなるかのう?」

俺はデカい鱗を渡されてしまった。

何だこれは・・・感触としてはかなり堅い。

いやそんなもんじゃない、鉄板以上だ。

それにどういうことか柔軟性もある。

明らかにリザードマンの鱗の上位素材だ。

これは困ったな。

こんな素材、価値があり過ぎて金貨十枚なんてあり得ないだろう。

これを手にしたゴンガスの親父さんの興奮が手に取る様に分るものだ。

これはいけない、一旦俺の『収納』に保管だな。

ドラゴンの鱗って・・・伝説級の素材に決まっている。

間違いなくレジェンド級以上の武具になるに違いない。

これは一旦棚上げだな。

場合によっては塩漬けだ。

やれやれだ。


俺はゼノンにどうせそうなんでしょ?と話し掛ける、

「ゼノン、風呂とサウナに入りたいんだろ?」

そうに決まっている。


「ばれておったか!」

ゼノンは笑っていた。

千里眼で覗いていたのなら、風呂やサウナが気にならない訳がないだろう。

それに黄金の整いもバレているに違いない。

慢性的に神気が足りていないのだ、興味が無いなんてことはありえないだろう。


「どうせ知ってるんだろ?」


「黄金の整いじゃな?知っておるよ」

ゼノンは意味ありげな表情を浮かべている。

教えろということだな。


「どうしたもんかな・・・創造神様からは広めるなと言われているんだけど・・・知ってるならしょうがないよな?」


「ならば本人に聞いてみるかのう?」

創造神の爺さんと直接話すってか?

それはそれで面倒なことにならなければいいのだが・・・


「爺さんに念話でもするのか?」

ゼノンは頷いている。


「そうじゃ」

やっぱりか・・・

否な予感がする。

しょうがないか。


「分かった」

俺は観念することにした。

それを受けてゼノンは念話を始めた。

何故だか俺も通話に巻き込まれてしまった様だ。

俺にもゼノンの声が聞こえる。

ふざけんな!


「創造神様、儂じゃよ。今いいかのう?」

返信が返って来る。


「もしもし、ゼノンか?何じゃ?ん?守もおるのか?」

もしもしって・・・この爺さん現代に毒されてるのか?

爺い、大概だな。


「いますよ・・・」

不本意ですがね・・・

なんでグループ通話になってるんだよ。

ゼノンめ、俺を撒き込むんじゃないよ!


「黄金の整いを儂もやっていいかのう?」

ゼノンは甘えるように伺っている。

爺いの甘え声ってなんだかムカつくな。


「よいぞ、北半球もだいぶ神気が濃くなっているみたいじゃからな、でも他の神達には内緒じゃぞ」

軽!

良いんかい!

これまで俺がずっと気を使ってきたことは無視かよ!

ふざけんな!

状況が変わったからいいということか?

ならば教えてくれよな・・・

なんか腹立つな・・・

そろそろ五郎さん辺りにはバレてるんだよ!


「じゃあ遠慮なく、儂も整わせてもらうかのう」

もう好きにしてくれ!

くそぅ!


「あ!そうそう、守よ。今度手が空いた時に念話で話し掛けてくれんかのう?ちょっとお主に話があるんじゃ」

はあ?

否なんですけど・・・

絶対無理難題を押し付けるんだよね?

それ以外考えられない。

あんたと話したくはないんですけど?

それに俺の質問には真面に答えてくれないんだよね?

どうせさ。


「今じゃ駄目なんですか?」

なんならゼノンも巻き込んでやろう。

そうすればちょっとは気が紛れる。

この爺いも巻き込んでしまえ。


「ちょっと今取り込んでおってな、なんなら儂から連絡するか?」

流石にそうはいかんだろう。

一応上司みたいなもんだし。


「いや、俺から連絡しますよ」

くそう、ゼノンを巻き込めなかったな。


「すまんな、じゃあのう!」

一方的に切られてしまった。

おい!

失礼だろうが!

なんだったんだ・・・全く。

ゼノンは嬉しそうにしていた。

そりゃあ、あんたは嬉しいよね。

にしても創造神の爺さんと念話で繋がる様になっちゃったよ。

なんだかな・・・今後いろいろ押し付けられないといいけど・・・悪い予感しかしないんだけど。


俺は頭を抱えたくなったがこのストレスは俺にしか分からないだろう。

俺の様子を家族は不思議そうに眺めていた。

お前達には関係無いから安心してくれ。

はあ、やれやれだ。


気分を変えてまずはゼノンを引き連れて買い食いを行った。

ゼノンは上機嫌だ。

たこ焼き、ラーメン、カツカレーと、それなりに大食漢だ。

まだまだ食う気らしい。

ドラゴンはフードファイターの家系なんだろうか?

ギルもそうだがゼノンも半端無く食っている。

その後定食屋でとんかつ定食とエビフライ定食、から揚げ定食をペロリと平らげていた。

まだ食い足りないと今はたい焼きの屋台に並んでいる。

付き合いきれん。

ここはギルに任せることにした。

俺は一人先に温泉へと向かうのだった。




温泉で寛いでいると、やっとギルとゼノンがやってきた。

外の家族達も自由にしているらしい。


「ほほう、これが温泉じゃな、どれどれ」

ゼノンはちゃんと掛け湯をしてから温泉に浸かっていた。

おお!マナーも分かっているみたいだ。

ならばよし!

後で聞いたのだが、ギルが風呂とサウナのマナーを前もって教えてくれていたらしい。

ほんとに良く出来た息子です。

大変助かります。


「ああー、染みわたるー」

思わず声を漏らすゼノン。

その表情が緩みまくっている。


「温泉って気持ちいいよね?ジイジ」

ギルも至福の表情を浮かべていた。


「長湯は厳禁だぞ、ほどほどにな」

一応注意はしておいた。

ギルがいるから大丈夫だとは分かっているけどね。

爺いの長湯はよくないからね。


「ああ、にしても守よ、温泉は最高じゃな」


「そうか、それは良かったな」

念願の温泉ってか?

千里眼で眺めて心待ちにしていたのだろうな。


「ドラゴムにも温泉は出来るじゃろうか?」

おっと、これは聞きづてならないな。

でも欲張る気持ちも分からないでもないな。

これが村興しに繋がると考えても不思議ではない。

現にファメラの村では村興しになったからね。

今ではあの町は温泉愛好家の訪れたい街ランキング第二位だからな。

勿論第一位は温泉街ゴロウだ。


「それは何とも分からないな、今度探ってみるよ」

俺なりの泉源探索だな。

そろそろ泉源探索も能力になりそうなものなのだが。

でもとても五郎さんには適わない。

俺の専門はサウナであって温泉ではない。


「そうか、それは助かるのう。ふうー、にしても心地よいのう」

ゼノンは気持ち良さそうにしている。


「あるといいね、温泉」

ギルもほんわかとしていた。

それにしても何とも分かり易い関係だな。

祖父と孫。

激アマの爺さんとそれに甘える孫。

でも孫は賢く自分の領分を分かっている。

それを見抜き更に頬を緩める祖父。

ギルがこんなに甘えるのも五郎さん以来だな。

五郎さんがこれを見たらどう思うんだろう?

もしかして嫉妬したりして。

あの人にそれはないかな?

前に五郎さんもエンシェントドラゴンに会いたいと言っていたから、合わせてみようかな。

それにどうせゼノンは今度はサウナ島に連れていけと言うに決まっている。

千里眼で見ていたのなら間違いない。

一先ず言われるまで黙っておくとしよう。

さて、そろそろかな。


俺達は連れ立ってサウナに向かった。

サウナの流儀はギルに任せることにした。

俺は自分の流儀に従いサウナを堪能することにした。

『黄金の整い』に関してもギルに指導を任せてみた。

もう俺が口を挟む必要は無いだろう。

後は後進に任せるが正解だろう。

俺は自分の好きに過ごすことにした。

そして俺はサウナ明けの生ビールを堪能し、ゼノンもサウナ明けの生ビールを堪能していた。


「守るよ、これが至福の一杯というやつじゃな?」


「ああ、分かるか?」


「分かろうものよ」


「・・・」

ジト目で沈黙するギル。

俺達は何も言葉を発することなく、染み渡る感覚に身を任せるのだった。

こればかりはまだまだお子様のギルには分かるまい。

吐き出す息に全てのストレスを乗せて、俺達は整いまくっていたのだった。

あー!最高!!


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