ドラゴム
結局の所ドラゴンを祭る村は『ドラゴム』と呼ばれる村だと判明した。
安易な名づけだなと思ってしまった。
ドラゴンと村をモジったのだろうか?
名付けのセンスに物申したい所だったが、自分の名付けのセンスの無さを棚に上げてはいけないという理由から止めておいた。
名付けなんてのは人生の上では五回も訪れるかどうかのイベントだ。
それを何千回と行う羽目になってしまうことを想像してみて欲しい。
そりゃあ適当になることもあるでしょうよ?
違うかね?
同意して貰えたら本望です。
さて、この名付けに関して少し補足をすると。
まずゴンやエルに前に俺が名付けを行ったが大きな進化はなかったと思う。
加護は与えられなかったということだ。
その理由はまだ俺が神に目覚めていなかったからだとゼノンが教えてくれた。
そのことになるほどと頷いてしまった。
まめにステータスを確認しない俺がよく無いのだが、俺が神に目覚めたのはおそらくダンジョンを攻略してからだと思う。
それまではまだ人間だったはず。
多分・・・
それに仙人というものよく分からない。
変化としては体力が倍増したのと演算という能力を得たことぐらいだろう。
あとは妙に頭がすっきりしたぐらいか。
イメージで言うとパソコンのデフラグみたいなものかな?
情報が整理されて容量が増えたみたいな感じだな。
演算に関してはよく分かっていないのだが、俺はよく自問自答を行うことがある。
先程もゼノンと会話しながら頭の中で物事を想像し、考えを巡らせてから言葉を発している。
その考えを纏める体感が時間として早くなった気がする。
思考の加速とでもいうのだろうか?
この演算を得てからというもの、自問自答のスピードが増したように感じるのだ。
時間の引き延ばしとまでは言わないが、体感的にはそう感じてしまう。
そして単純に計算も早くなったと思う。
頭の回転が速くなった気がするのだ。
今では暗算キングのノンよりも早く計算が出来る自信がある。
まあ挑戦はしないけどね。
負けたらムカつくからね。
じゃなくてノンの自信を喪失させたくはないからさ。
といった具合だ。
そしてゼノン曰く。
「どの方向に進化するのかは人其々」
ということらしい。
俺は人の部分が仙人に進化したのだがこれは稀な事らしい。
ゼノンに言わせると俺は稀有な存在らしい。
人間であるならば進化するのはハイヒューマンになることが一般的で、ハイヒューマンに進化した際に受ける恩恵としては、体力や魔力が二割増しになり力が増す程度とのこと。
更に寿命が延びるらしいのだが、どこまで伸びるのかは人其々らしい。
後は病気に掛かりずらくなるということだった。
進化はその個人の特性や性格、個性に合わせて進化するということだった。
少々分かりずらいか?・・・
例えるならば、ゴブリンは進化するとホブゴブリンになることが多いだが、魔法の適正の高いゴブリンならゴブリンメイジに進化するし、戦闘力の高い者であればゴブリンウォリヤーに進化する。
統率力の高い者であればゴブリンリーダーや、中にはゴブリンキングに進化する者もいるということだ。
進化はその個性に大いに引っ張られるということらしい。
それにしても俺の何処に仙人なるという個性があるというのか?
理解に苦しむが自分自身の事だからこそよく分からない。
だがゴンに言わせると、
「主らしいですね」
ということだった。
俺の何処にそんな達観するような要素があるというのだろうか?
仙人になる要素なんて俺には思いつかない。
まあなってしまったものは仕方が無い。
仙人である自分を受け入れるとしよう。
でも仙人って凄く爺いのイメージなのだが・・・
顎髭でも伸ばせばいいのだろうか?
それっぽく山籠もりでもしてみようかな?
直ぐに飽きるのは眼に見えている。
よくない固定概念だろうな・・・
まあ直に慣れるだろう。
そして更に補足として神は進化しない。
だが昇格はするということだった。
これは既に分かっていることだ。
オズのように下級神から中級神になった例があるのだからよく分かっている。
そして昇格の際に得る恩恵は能力を取得するということだった。
これも聞いていたことだから驚く事ではなかった。
オズは今の法律の神に成った時に、法律の制定という能力を得たと教えてくれたことがあった。
まんまではあるが、俺はそんなものだろうと受け止めていた。
そして神が神に加護を与えることは出来ない。
だが唯一それが出来るのが創造神様らしい。
ということは俺も将来的には神に加護を与えられる様になるということだ。
それにこの世界に来た時の俺の最初から持っていた能力は、創造神様からの加護で得た物かもしれない。
『分離』と『加工』がそうだ。
ステータス上では創造神の加護とは表示されてはいないが実際はそうなのかもしれないな。
ステータスを弄るなんてあの爺さんにはお手の物だろう。
そもそもあの爺さんにとっては何でも簡単に弄ることができるに決まっている。
神様システムはまだまだ謎が多いが、案外すっきりしているのかもしれない。
結局は実績と得を積むことが重要だと俺は考えている。
そこまで複雑な要素はないだろうと思う。
俺は得を積むことによってレベルがアップしているし、他の神達の話を聞く限り実績によって神になったというのがほとんどだからだ。
もしかしたら外にも加点されるポイントがあるのかもしれないが、この二つに重きが置かれていることは紛れも無い事実だと感じている。
そしてその者の心が慈悲深くあるのかどうか?
此処が重要であると考えている。
これまでに出会ってきた神達は全員が慈悲深かった。
曲者ではあるが漏れなく慈悲深いのだ。
逆説的に言えば慈悲深く無い者が神になることはあり得ない。
此処は最低限度の資質と思われるのだった。
急にゼノンからお願いされてしまった、
「守よ、ドラゴムのリザードマン達に加護を与えたいのだが協力して貰えんかのう?」
どうやらゼノンはこの村のリザードマン達に加護を与えたいのだが、神力が膨大に必要な為、俺の神力贈呈を頼みにサポートして欲しいということだった。
勿論OK!
そんなことでよければ協力させていただきましょう。
神力の量には自信がありますので!
なにせ計測不能なんでね。
じゃんじゃん使ってくださいな。
俺は一行に構いませんよ。
ということで俺は神力贈呈装置と化して絶賛稼働中である。
どんどんと神力が減っていくが俺の神力の量は相変わらずの計測不能。
結局の所俺の神力ってどれぐらいの量があるのかさっぱり分かりません。
それなりに神力が減った気がするがステータスを見る限り変化無し。
相変わらずのやりたい放題である。
でも今週末は念の為日本に帰っておでんの湯に行こうと思う。
地球の神気を大いに取り込んでこよう。
サウナ島でもいいのだがやはり地球の神気は旨いのだ。
グルメな俺には必要なことである。
一日中かけてゼノンは二百名近いリザードマン達に名付けを終えた。
その加護は知能を得ることと体力量と魔力量が増えることに特化していた。
だが俺の加護程知能は高くならなかったようだ。
それでも今では全員が流暢に話をしているし、屈強な戦士の面影をした者達が多かった。
リザードマン達はゼノンだけではなく、俺にもお礼を述べていた。
というのも、俺から分け与えられた神力で名付けが行われたことを理解しているからだ。
リザードマン達は敬意を払って俺に接してくれていた。
いや敬意なんて生易しい物ではないな、これはあれだ、崇拝だ。
『シマーノ』の魔物達と全く変わらない。
ここでも信者が増えてしまったみたいだ。
まぁその分、たくさんの神気をこの世界に作り出してくれれば御の字です。
早速リザードマン達は俺とゼノンに祈りを捧げている。
神気が濛々と立ち上っていた。
大変ありがたいことだ。
でもちょっと照れるから、要らないとは言われたがお地蔵さんを適当に配置した。
リザードマン達には俺に祈りを捧げる時は、これを俺だと思って祈りを捧げてくれとお願いしておいた。
リザードマン達は何故?という表情をしていたが、俺がそう言うのならと納得してくれた。
だって照れるじゃないか?
祈りを捧げられるんだよ?
メタンに背後から祈られた時には背筋が凍ったよ、最近はちょっと慣れてきたけどまだまだ慣れないな。
こればっかりはどうしてもねえ?
慣れないものは慣れないのだ。
さて、ゼノン曰くギルは神である為進化しないということだったが、能力は得られるかもしれないということだった。
聖獣達はどうかというと、分からないということになった。
というのも、名前の上書きが出来るのかが不明だったからだ。
既に魂に真名が刻まれているので出来ないのでは?
とゼノンは言っていたがどうなんだろうか?
実際の所ではソバルに俺は加護を与えることができたのだから、可能であると考えている。
だがソバルは魔物であって聖獣や神獣ではない。
どうしたものかと考えていたのだがノンからは、
「主、僕は加護を貰えなくてもいいし、進化しなくてもいいよ。僕は今でも充分強いしさ。へへ」
ノンはへらへらしながら言っていた。
「主、興味深いですが私も不要です。今の自分が好きですし、私は自らの力で魔法を極めてみたいのです」
とてもゴンらしいコメントだった。
「私しも不要ですの、私し最速ですので!」
エルは歯茎剥き出しの全開で笑っていた。
ギルは、
「僕は考えさせて」
真剣に悩んでいた。
何か思う処があるみたいだ。
ギルのことだ、自分の為というより誰かの為に強くなれるのならなりたい、とか考えていそうだな。
こうなるとギルからの申し入れが無い限り、俺に出番はないみたいだ。
確かにお釣りがくるほどこいつらは強い。
これ以上極める必要があるのか?と思えてしまう。
実際こいつらに敵う者なんていないだろう。
五郎さんでは無いが、国軍を相手しても負けないだろう。
というより蹂躙してしまうに決まっている。
それぐらいの過剰戦力なのだ。
本人達が不要と言うからには、俺は余計なことはしないでおこうと思う。
不要なお節介は返って良くないということだ。
マーク達はどうなんだろうか?
あいつらもノン達と同様の事を言い出すかもしれないな。
今でも充分ですと言われかねないし、そんなことをあいつらはしょっちゅう言っているのを耳にする。
ソバル達はどうだろうか?
あいつらは進化したいと言い出しかねないな。
というのも、加護の効果で進化を体験しているのだから、更にと思っても不思議ではないだろう。
これ以上強くなるとそれこそ北半球においての過剰戦力に成りかねないのだが・・・
各国間のパワーバランスが変わりかねないな。
加護と進化に関しては取りえず塩漬けにしておこうと思う。
今はそれがいいと本能的にも感じている。
いつでも簡単に出来るのだ、必要に迫られたらでいいのかもしれないな。
なにも強くなるばかりが良いとは限らないしね。
それに力をつけて嫉まれるのもどうかと思うし。
それ目当てに言い寄って来られても困るのだ。
これは今後の課題としておこう。
そういえばダイコクさんに連絡を取らなければいけなかった。
すっかり忘れていた。
決して彼を軽んじている訳では無いからね。
面倒ではあるがしょうがない、約束したからね。
連絡しようか。
俺は『収納』から通信用の神具を取り出した。
ふと手が止まる。
第一声はもしもしで合っているのか?
たぶん違うよな?
これは日本の常識だし・・・
思わずもしもしと言ってしまいそうだな。
習慣って怖いよね。
俺は神具に神力を流してみた。
「ダイコクさん、聞こえますか?」
少しすると応答があった。
「島野はんか?聞こえとるで」
神具から声が返ってきた。
通信状態は良好である。
何時ものダイコクさんの声が返ってきているし、タイムラグも感じない。
おおー、ダイコクさんの神具も馬鹿にならないな。
それなりの高性能だ。
「ドラゴンを祭る村に着きましたよ」
「さようか、お疲れさんやったな。丁度良かったで、島野はんに連絡をしようと思っとったんや」
ん?何かあったのか?
ゴブオクンが腹を壊したとか?
「どうしたんですか?」
「ちょっときな臭くなってきたんや、ちょっと長くなるかもしれんけど時間はええか?」
はて?きな臭いとは?
どうやら些事ではなさそうだ。
「どうぞ」
俺は逸る気持ちを抑えて先を促した。
「実はな、わての手の者に暗部がおるんやがな」
暗部?裏側稼業ってことか?
「暗部ですか?」
「せや、主に情報集めをさせとるんや」
ダイコクさんならそれぐらいの組織を持っていても不思議ではないな。
それに俺も実は持っているしね。
「・・・」
「その暗部から報告があってな、どうやら『シマーノ』の事を嗅ぎ周っとる者達がおるっちゅうことなんや」
それのどこがきな臭いんだ?
注目度の高い『シマーノ』ならあり得ることなんだが?
別に物珍しとも思えんけど。
「それで」
「そいつらやがな、身元が不明なんや。どうにも怪しいんや」
「それはダイコクさんのセンサーに反応しているということですか?」
商売人の勘は見過ごせない。
商売人は独自の勘が働いているからね。
「せや、どうにも引っ掛かるんや、武装国家ドミニオンの商人を装っているようやが、儂の鼻は誤魔化されんで、動きが可笑し過ぎるんや」
「というと?」
「商人の癖に買い付けは行わんし、売り物も真面やあらへん。その癖『シマーノ』のことばかり聞き周っとる、正直素人かと笑うてまうであんなもん」
確かにそうなると怪しさ満点だな。
それに間抜けだな。
あっさり見抜かれるなんてたかが知れている。
スパイ失格だな。
「それでどうすると?」
「どうもせん、今はな。でもマークはさせて貰うで、そいつらは『シマーノ』に向かうっちゅうことやったからな」
「まあ、そんな間抜けは放置でもいいのでは?」
「そうは言うがな島野はん、流石に放置とはいかんで、というのもな、わての知る神が消息不明なんや」
それは確かにきな臭くなってくるな。
それをこの似非スパイに結び付けるものどうかとも思うのだが。
「それはどういうことですか?」
「わての知り合いに陶芸の神ってのがおるんやがな、そいつが連絡がつかへんのや」
陶芸の神か、ゴンガスの親父さんに類似性がありそうだな。
そこはいいとして、今はその神の安否が気になるな。
「それはどれぐらいの期間なんですか?」
「もう半年近くやねん、島野はんと同様にそいつにも通信用の神具を渡してあるんやがな、ひとたび創作作業に入ると繋がらん奴やねん。けど流石に半年も連絡がつかんとなると心配っちゅうことやで」
それは芳しくないな。
この神具では着信履歴なんて残らないもんな。
たまたまって可能性もあるにはあるが、半年ともなるとちょっと心配にもなるよな。
それに神殺しなんて物騒な噂もあるしな。
どうしたものか・・・
「それはよく無いですね」
「せやろ?という事があってな、念の為島野はんには警戒をして欲しいということやねん」
警戒と言われてもな・・・
出来ることは限られるのだが・・・
「まぁ、しておきますよ・・・」
「いらん噂もあるし、念の為な」
確かに要らない噂はあると知ってはいるのだが・・・
遅れを取る島野一家ではないのですがね。
俺達に不意打ちを出来る者なんているのだろうか?
少々慢心が過ぎるのだろうか?
「分かりました」
「それで手が空いたら『シマーノ』に帰って来てくれんか?どうにも気になるんや」
とはいっても、実は『シマーノ』にも暗部はあるのだ。
クロマルとシロマルが街に訪れた者達の身辺調査を行っている。
クロマルとシロマルはまるで忍者だ。
裏方作業はお手のもので、アラクネ達は暗部として今は活躍しているのである。
というのも実はアラクネ達は小さな蜘蛛を操ることが出来、様々な情報を集めることが出来るのだ。
これは種族的な特性らしいのだが、正に傍聴活動等には打って付けなのだ。
暗部は俺達が旅立つ前に設立した部署で、クロマルが首領を受け継ぐと同時にシロマル、アカマル、アオマルが任務に当たっている。
俺達の不在時に何があってもいいようにと、ソバル達と考えて創設した部署なのだ。
クロマル達はこれまでは俺に報告を上げていたが、旅を機に首領陣に怪しい者達の報告をするようにと引継ぎは済んでいる。
状況によっては念話でクモマルに通信を行う様に指示してあるのだ。
最悪の場合は俺にも瞬時に情報は伝わるのである。
既に万全の対策がなされているのであった。
そしてクロマルとシロマルに手落ちはない。
こいつらはかなり優秀だ。
敵意を持つ者達を見逃すことはあり得ない。
俺はアラクネ達に一定以上の信頼を置いている。
これは正当な評価だと思っている。
こいつらに掛れば逃げ追うせることは出来ないだろう。
全幅の信頼を置いているこいつらに任せておけば問題はないだろう。
『シマーノ』に悪意の手を向けるのは、イコール俺の敵に周るということだ。
その際は全力で迎え撃ってあげよう。
なんなら島野一家の過剰戦力で迎え打ってもいいのだよ。
本音はそんなことはしたくないのだが、手を出されて黙っている程俺もお人好しでは無い。
荒事には決してなっては欲しくないのだが、必要とあれば武力行使も辞さない覚悟はあるのだ。
とは言っても人命第一だけどね。
「分かりました、手が空いたら一度帰ります」
「それで、エンシェントドラゴンはどないや?」
ダイコクさんは話を切り替えてきた。
「気さくで面白い爺さんですよ」
「さようか、わても一度挨拶がしたいねん」
「そうですか、ここと『シマーノ』を転移扉で繋ごうと考えてますので、そうなったら挨拶に伺いやすくなりますね」
一応その予定。
まだゼノンには話して無いのだけどね。
「ほんまか?そうか、その手があったな。にしても転移扉は便利やな。わてにも一つ貰えんか?」
ダイコクさんのテンションが上がった。
「何処と繋ぎたいんですか?」
「そりゃあ『シマーノ』やがな、馬車の移動では一日以上はかかるからな。それが一瞬なんて便利を通り越しとるやないか」
確かに、ていうか通行税を取ろうってか?これはちょっと考えもんだな。
せっかく街道を整備したのにそれが使われなくなるのはいただけないな。
通行税を主張したいのはこっちなんだけどな。
とは言っても転移扉の使用にルールを設けることは出来るけど・・・そこまでお人好しにはなれないな。
てか、街道の整備はこっちがしたってのにその上をいこうってか?
結構えげつないこと考えますね、このおっさん。
一先ず保留だな。
てか今は無しだな。
「考えてはみますよ」
「さようか?宜しゅう頼むで」
期待はしないでくださいね。
とは決して口には出さないけどね。
「じゃあ、そろそろ戻りますね」
「そうか、ほなな」
「では」
俺は通信を終了した。
一家の所に戻るとゼノンがギルと甲斐甲斐しくもじゃれ合っていた。
おい!獣スタイルでは止めてくれ!
皆の迷惑でしょうが!
「ゼノン!ギル!周りをよく見てみろ!」
戦々恐々と恐れをなしたリザードマン達が諤々と震えていた。
「おお、これは済まぬことをしたな。やれ嬉しくなってしまってのう」
「ごめん皆、楽しくなっちゃった」
悪びれることなくギルが答える。
「二人共、獣スタイルでじゃれ合うんじゃありません、特にゼノン!自分の身体のサイズを考えなさい!」
ゼノンは項垂れていた。
ゼノンを平気で叱る俺に今度はリザードマン達から羨望の眼差しが向けられた。
「おお!」
「ゼノン様を叱るとは」
「なんと・・・」
だって俺以外言える奴居ないでしょ?
リザードマンの一人が俺の元に駆け寄ってきた。
「島野様、折り入ってご相談があるのですが・・・」
申し訳無いとその眼が語っていた。
「どうした?」
「名を頂いてからというもの、知性を得た我々はこの村の惨状に気づきまして・・・」
懐かしいな『シマーノ』でも始めはそうだったな。
ゴブリン達が知性に目覚めて、同じ様に村の有り様を恥ずかしがっていたな。
始めに大掃除したことを想い出すな。
ここでも村興しが必要かな?
「知恵を貸してくれということかな?」
「左様でございます」
そうだな、じゃあこうしよう。
「魔物同盟国『シマーノ』に全員で行ってみないか?そこで技術を学び、そこから村を発展させていくってのはどうだ?」
「一度この村を捨てろと仰るのですか?」
「いや、そうじゃないんだ。ちょっと待ってろよ」
俺は転移扉を『収納』から取り出した。
実はこんなこともあろうかと『シマーノ』にある俺達のロッジに、転移扉を既に設置済なんだよね。
「いいか、これは転移扉と言って、俺の転移の能力を付与してある扉なんだ」
「転移ですか?」
はて?とリザードマンは首を傾けている。
「そうだ、ただこれは神力を扱う者にしか開けることは出来ない」
「はぁ・・・」
いまいち的を得ていない様子。
「まあいい、使えば分かるさ」
俺はゼノンに協力を申し入れた。
ならばと人型に変化したゼノンがこちらに向かってくる。
ギルも人型に変化しゼノンの後を追う。
「じゃあゼノン、この扉の事は分かってるよな?」
「勿論じゃ、羨ましく思っておったぞ」
「そうか魔物同盟国『シマーノ』に繋がっているから早速行ってみないか?」
「それはよいな、ほれ皆の者、集まっておくれ」
ぞろぞろとリザードマン達が集まってくる。
何事かと騒がしい。
「そうだ、剥がれた鱗があったら持参してくれ。それがお金になるから多ければ多い程いいぞ」
俺のその言葉に血相を変えてリザードマン達が右往左往し出した。
何とも落ち着きがない。
各々が我先にと鱗を取りにいった。
数分後、全員が集まったみたいだ。
両手で収まりきらない程の鱗を抱えている者もいた。
お金の効果は凄いですね。
「じゃあゼノン、扉を開けてくれ」
「あい分かった」
転移扉を開くと俺達のロッジに出た。
俺は転移扉をロッジからロッジの入口前に念動で移動させる。
転移扉からリザードマン達がぞろぞろと出てくる。
皆ないきなりの転移に仰天していた。
これはあれだな、ちょっとした社会見学だな。
そしてゼノンが『シマーノ』に降り立った。
はたして魔物達の反応や如何に?