表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/182

悪意と進化

時は少し遡る。

世界の悪意が今動き出そうとしていた。

その歩みは計算されつくしていた。

あの凄惨な戦争から早百年。

頃合いと考えた首謀者一同は、これまでの計画を加速させることにしたのだった。

その計画とはいったい・・・


場所は『新興宗教国家イヤーズ』の王城の一室。

場は静まり返っていた。

ここに『五人の老師』と呼ばれる者達が集まっている。

重い空気感が覆い被っていて、息をするのがやっとというぐらいである。

この集まりの全貌は外部には一切明かされていない。

そのメンバーも内容も完全に秘匿されているのだ。

全てはこの場でのみの出来事になる。

完全な密室での会議であった。


老師と呼ばれてはいるものの、その顔を見る限り決して老齢を感じさせる者は一人もいない。

少年の様な姿の者や、まるで女子高生の出で立ちの者、そして不気味なほどに能面の女性もいる。

そして顎髭を蓄えた壮年の男性と、まるで漫画から飛び出してきた様な美男子がいた。

その様相だけでも、全員が癖者であると認識できる。

実際、この姿は仮の姿である者もいるぐらいであった。

それぐらい秘匿性が高いということになる。

仲間内でも真の姿をさらすことはないと考える者もいるということだ。

静まり返った会場に不意に言葉が告げられる。

それは会議の始まりの合図でもあった。


「あれから百年が経ったな」

髭面の男性が言い放った声がよく響いている。

バリトンボイスが凛として緊張感を煽っていた。


「そうでありますわね」

今度は女子高生の様な女性が口元を隠しながら話していた。

続いて美男子が口を開く。


「そろそろ次に移ってもいいんじゃないかな?」


「そうだな」


「ですわね」


「だな」

了承を得ていた。


「では、狩りを始めようか!」

少年がニヤケながら叫んだ。

悍ましいほどの笑顔だ。

その笑顔は悪意に満ちていた。

裂けた口元が耳に達しそうなほどに。


「オクトーバー、楽しそうだわね」

能面の女性が表情を一切変えることなく口にする。

その様は返って不気味さを感じさせる。


「これが楽しく無いなんてあり得ないだろう?だって忌々しい神を狩るんだよ!最高じゃないか!!」

どこか壊れたかの如くオクトーバーは破顔していた。


「それに捉えている神も、もう青色吐息ですわね」

女子高生のなりをした女性が顎を上げて満足気にしている。

それはこの世の全てを我物にしたと言わんかの如く、全ての物を下に見た高圧感に満ちている表情だった。

傲岸不遜とは正にこの事だった。


「ジュライも人が悪いよね」

オクトーバーは更に顔を歪める。

悪意を通り越して恐怖すら感じるほどに。

人格が崩壊しているのが表情からも読み取れる程だった。


「ジュライ、まさか殺してはないだろうな?」

髭面の男性が片眉を上げていた。

それは命令口調になっている。


「ディッセンバー、大丈夫だって、心配しすぎ!」

ジュライは心外だとディッセンバーを睨んでいる。


「万が一死んでしまったとしても、それはそれで良くなくて?」

あたかも同意を得ようとその表情が優雅に語っていた。

面白く無さそうにディッセンバーが口を開く。


「それは舐め過ぎだジュライ、神気が薄くなっているのは確かだが、まだ我らの動きを察知される訳にはいかんのだ、現にエンシェントドラゴンは千里眼を持っておるのだぞ!舐めるべきではない!」


「でもここまで神気が薄くなったら能力は使えないんじゃないかな?」

美少年が事も無げに言った。


「ノーベンバー、その考えが甘いのだ!」

ディッセンバーは強く主張する。

どうやらディッセンバーは慎重な性格のようだ。

その発言からもそれが良く分かる。


「現に薄くなった神気だが、あのお方に言わせれば、ここ最近盛り返しているとの話だったのだぞ!」

数名が分からないという表情を浮かべた。

意外だと感じている者もいる様だった。


「嘘でしょ!」


「なんで?」


「はぁ?」

そのことに困惑する一同。

それをディッセンバーが手を挙げて制する。


「我らとしても計画を進めねばなるまい、でも障害は取り除きたい。あの御方は慎重だ。ここで計画を踏み外す訳にはいかないのだ、先ずは我々としては計画を進めつつ。情報を集めねばなるまいて」

ジュライが徐に話し出した。


「もしかしてそれは・・・最近建国した『シマーノ』が関係しているかもしれないわね・・・」

これは予想の粋をはみ出している発言だった。

ジュライ本人も確信的に話している訳ではない。

それにノーベンバーが喰い付く。


「何それ?そんな話聞いたことが無いんだけど?!!」

その反応を受けて雄弁にジュライが話し出す。

ジュライは上から目線を崩さない。


「それはね、最近モエラの大森林に魔物の国が建国されたらしいのよ。それも急速にね、私には訳が分からないわ」


「はあ?魔物の国だと?」


「あの知能の低い魔物に国など興せる訳がないだろう?」


「あり得ん!」

鼻白む一同。

その情報は嘘であると断罪する気だ。


「でもね、本当のことらしいのよ。ルイベントでは普通に魔物達が闊歩しているみたいだし、それに人族と変わらないぐらいの知能があったっていう話よ」

驚愕する一同。


「嘘だろ?」


「人族と変わらないって・・・」


「あり得んな」


「情報部の報告だから間違いは無くってよ」

全員が考え込んでいた。

静寂が会場を包んでいる。

ディッセンバーが不意に静寂を打ち破った。


「魔物の国が建国されたことは事実としてだ、それと神気の上昇にどう関係があるというのだ?」


「それは分からないわよ、ただここ最近での北半球での大きな動きとしてはそれぐらいしかなくってよ、外にあって?」


「どうも信憑性が窺わしいな」


「ピンとこないな」

ディッセンバーが追随する。


「まあよい、今は調べるしかないだろう、情報部の者達にその魔物の国を調べさせるんだジュライ」


「もうやってますわよ!」

ジュライはむくれている、そんな指示を与えられたことが心外と言わんばかりに。

それを鼻で笑ったディッセンバーが続ける。


「話を戻そう、計画を進めるぞ、まずはどの神から狙うかだが・・・」


「それならいっそのことエンシェントドラゴンでもいっちゃう?」

オクトーバーは楽し気だ。


「馬鹿を言うな!一歩間違うと世界が滅ぶぞ!」


「そうよ、私達は世界を手に入れたいのであって、滅ぼしたいのではなくってよ!」

攻められて小さくなるオクトーバー。


「そっか、エヘヘ」


「まあよい、狙うなら下級神からしかなかろう」


「ですわね、そうなると狙い処としては、織物の神か仕掛けの神かってところじゃないかしら?」


「細工の神もいいかもね」

全員がほくそ笑んでいる。

神を狩ることを楽しんでいるようだ。


「まあそのあたりが現実的だろうな、して、神殺しは手配出来ているのか?」


「そこは僕に任せてよ!最高のアサシンを揃えたからさ!」

オクトーバーが前のめりに言う。


「そうかそれは重畳だ」

頷く一同。


「ではまずはその三柱から狙うとしようか」


「賛成!」


「ですわね」


「よろしいかと」


「異議なし!」

こうして会議は合意を得て終了した。


一人残ったジュライは考える。

実はこのジュライ、女子高生の様な身なりで、その態度も世を偲ぶ仮の姿である。

魔物の国・・・

私も行くべきかしら・・・

これが事実としたら、北半球に大きな動きが訪れるかもしれないわね、と考えを巡らせるのだった。

その考えは正解であった。




ゼノンはそれはそれは上機嫌だった。

その表情を見る限りこれ以上の幸せがあるのか?というぐらいだ。

ワイルドパンサーのステーキに舌鼓を打ち。

野菜の炒め物やご飯、味噌汁を味わい。

サービスで樽ごと贈呈した日本酒を堪能し、ギルの成長ぶりに目を細めていた。

調理したのはギルだ。

ギルも誇らしげにしている。

ゼノンはまるで好々爺だ。

気が付くとギルを眼で追っており、にこやかにしている。

常に目尻が緩んでいる。


この村に住むリザードマン達もギルを甲斐甲斐しく世話を焼こうとしていた。

それをギルはちょっと嫌そうにしている。

それはそうだろう、自分のことは自分で出来るように俺はギルを育ててきたからだ。

ギルも自分の事は自分でやるものだと自覚している。

いきなり家政婦さんが数十名も現れても対処に困るだろう。


そもそもギルは自立心が旺盛だ。

小さい頃から何でも自分でやりたがった。

それは料理だけではなく、家事全般や狩り等を自分でやりたがった。

もっと言うと、自分の事だけでなく、他人にすらも手を差し伸べるのがギルなのだ。

実際テリー達の事はギルが世話を焼いたと言える。

どちらかといえば世話を焼きたがる側なのだ。

そんな俺の自慢の息子だ。

それにしても、どうしてこんなにもリザードマン達はドラゴンの世話を焼きだがるのだろうか?

その意味が俺には分からない。

俺はその疑問をゼノンにぶつけてみた。


「ゼノン、どうしてリザードマン達はドラゴンの世話を焼きたがるんだ?」


「それはのう、リザードマンは進化すると竜種に到達すると本能的に感じておるんじゃよ」


「進化?」

どういうことだ?


「そうじゃ、魔物は進化するのじゃ、それはお主も知っておろう?」

それは知っている、現に俺は名づけを通じて加護を与えてきたからな。


「ああ、俺が名付けて加護を与えたら進化したからな」


「進化には実は何通りかあってのう」

はい?

どういうこと?

これ以上の進化があるということか?


「ちょっと待った!何通りかあるってどういうことだ?」

ここはちゃんと聞かないといけない気がする。


「そうか、守はまだこの世界に来てまだ数年じゃったな」


「ああ」


「なら教えておこうかのう」

これはちゃんと聞かなくてはならないな。

プルゴブ達魔物は俺の名付けだけで進化した。

それ以外にもまだ進化の余地があるということに他ならない。

より進化出来るのならば、それは高みを目指すという生物の本能にとっては重大なことになる。

常により進化したいと誰もが思うものだろう。

場合によっては俺もその対象になるのかもしれないし、ノン達聖獣もその枠に嵌るのかもしれない。

今よりもより高みの存在に慣れるのならなりたいに決まっている。

俺はそう考えるのだが、どうだろうか?


「先ずは名付けによる進化じゃ、これは実は魔物達だけの話ではなく、人族にとっても同様のことなんじゃよ」

マジで?


「人族もなのか?」

じゃあ俺もか?


「そうじゃ、じゃが、人族は習慣的に生まれて直ぐに名を与えられるから進化しておる事に気付いておらんのじゃ、それにその名づけも親からのものじゃからあまりその効果がないのじゃ」

神様からなら加護が付くということか?

ということは俺がマーク達を名付けていたら、あいつらも進化したということなのか?

上書きはできるのか?

仇名でもいいのか?


「ということはもし仮に俺が名付けたらどうなるんだ?」


「それは神が名付けたらその進化の具合は大きくなるに決まっておろう、名付けとはそれぐらい重要なことなんじゃ」

マジかよ?

確かに名は体を表すとは言うがそこまでなのか?

姓名判断は当てにならないと思っていたが、そうではないんだな。

でも姓名判断は違うか?

あれは文字数とかだし。

この考えは今はいいか・・・


「名前は真名と言ってのう、その意味合いは大きいのじゃ、その子の人生を左右すると言ってもいいかもしれんのう」

なるほど、分からなくはないな。

ていうか結構適当に名付けた魔物達がいたな・・・

ごめんね。

ゴブAとか可哀そうだよね。

許してくれよ。

悪気はなかったんだ・・・

ちょっと面倒臭くなって・・・


「そしてその他の進化じゃが、大きくは二通りあるのじゃ」


「二つもあるのか?」

おいおい勘弁してくれよ。


「そうじゃ、まずは修業による進化じゃ」


「修業?」


「修業とは己の鍛錬に寄って、自らを突き詰めることで訪れる進化を指すのじゃ」

修業僧みたいなものか?

滝行とか山籠もりで自らを追い込むみたいな?

分からなくはないけど・・・辛過ぎないか?

それに滝行や山籠りしたぐらいで進化なんてできるのだろうか?

ちょっと眉唾ものだな。

理解に苦しむな・・・


「それはしんどくないか?」


「じゃのう、それはそうじゃろうて」

でしょうね。

過酷な修業なんて下手すると命に係わるしな。

悟りを開くということなんだろうがどうにもピンとこない。

自分を極限にまで晒して進化するということだろうが、どうにも的を得ないな。


「そしてもう一つは己の中に眠る進化の魂を見極めることじゃ」

はい?それって・・・俺にとっては簡単なことなんじゃないか?

だって自分の中に向き合って進化の魂とやらを見つけるということなんだろ?

自己催眠を得意とする俺には容易としか思えない。

・・・

やってみるか?

折角だし。


「少し時間を貰ってもいいか?」


「なんじゃいきなり」


「その理論が間違ってなければ俺はすぐにでも進化できると思ってさ」


「はあ?」

ゼノンは何を言っているのだと呆れている。

隣にいるギルも同様だ。


「いいからさ、ちょっとやってみるよ」

そういうと俺は自己催眠状態に陥った。

最早手慣れた作業だ。

直ぐに俺は自己催眠状態に移行する。

深い催眠状態に入ると早速魂の在りかを探した。


それは不思議な世界だった。

暗闇の中で俺は一条の光を求めてさ迷っている状態。

その光に引き寄せられ俺は心地よい感覚のまま、その光に吸い寄せられるのだった。

そして光り輝く魂に俺は辿り着いた。

その魂に俺は問いかける。

進化は可能かと・・・

魂は答える、あなたは充分にその力を蓄えています。

進化は可能だと。

ならばそれに従い俺は進化することを選択する。


すると俺は不思議な光に包まれて俺を構成する肉体の変化を感じた。

そしてこれまで以上に頭がクリアになることを体感する。

そうそれはまるで脳内を最適化している様な感覚だ。

無駄にちらばっていた脳内の情報がどんどん整理されていく。

これまでの無数に蓄えられていた情報が纏まっていく。

自分の肉体が再構築されると共に脳内の情報が最適化されることによって、俺は生まれ変わったのが分かった。


これが進化か・・・

自分の進化を俺は堪能していた。

力が湧き出てくる感覚に充足感を感じていた。

俺は感じていた、俺は人では無くなってしまったと・・・

そもそも半人半神なんだけどね。

これはステータスを確認しなければならない。

俺は眼を空けてステータスを確認してみた。


『鑑定』


名前:島野 守

種族:半仙半神

職業:神様見習いLv68

神気:計測不能

体力:4805

魔力:0

能力:加工L8 分離Lv8 神気操作Lv9 神気放出Lv6 合成Lv8 熟成Lv7 身体強化Lv6 両替Lv3 行動予測Lv4 自然操作Lv8 結界Lv4 同調Lv2 変身Lv2 念話Lv3 探索Lv5 転移Lv7 透明化Lv3 浮遊Lv5 照明Lv3 睡眠Lv3 催眠Lv5 複写Lv6 未来予測Lv1 限定Lv4 神力贈呈Lv3 神力吸収Lv3 念動Lv3 豊穣の祈りLv2 演算Lv1 初心者パック

預金:9645万3342円


・・・

体力が倍になっている。

それに演算ってなんだ?

確かに頭はすっきりしたけども・・・

計算が早くなるってことか?

あれ?全然ステータスチェックしてなかったけど預金がそろそろ一億円になりそうだな。

それはどうでもいいか。


俺は人間から仙人になったみたいだ。

この進化がこの後俺にどんな影響を与えるのだろうか?

今は何ともいえないな。

にしても半仙半神って、もう完全に人では無くなったな。

俺は皆に告げた。


「俺、完全に人間卒業しちゃったみたい」


「「「「「ええー!!!!!!」」」」」

場が凍り付いてしまっていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ