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ハンター

更なる能力の開発に取り組んでいる。

今行っているのは『浮遊』の能力開発だ。

要は飛ぶということ、ギルとエルは魔法によって既に取得している能力だ。

ならば俺もといった具合だ。

相変わらず安易に考えている。


先ずは自然操作で風を起こして浮かんでみる。

手の平と足の裏から風を地面に打ち付けて浮かぶ方法を試してみた。

何とか三十センチほど浮いたが、なかなかバランスが上手くとれない。

更に風を強くしてみたが思うほど浮かばなかった。

ただ宙に浮く感覚は何となく分かった気がする。


次に今の感覚をイメージして体に神気を纏ってみた。

駄目だった。


ならばと今度は自分の体から質量が無くなったところをイメージしてみた。

駄目だった。


ここはプロに聞いてみようと言うことでエルにコツを聞いてみる。


「なあエル、浮遊のコツって何だと思う?」


「コツですか?そうですの。私くしの場合は浮かぶというより上に引っ張られるような感じで浮かび、翼でバランを取るようにしておりますの」

なるほどね、上に引っ張られるイメージか。

そして体重移動でバランスを取るということか。

良いかもしれない、やはり経験者に教わるに限るな。


上に引っ張られるイメージを強く持ち体に神気を纏ってみた。

体が宙に浮かんでいる。

更に体重を前に移し前に進む。

左に体を傾けて左に進んだ。


ピンピロリーン!


「熟練度が一定に達しました、ステータスをご確認ください」


よし!これで飛べるぞ!

ファンタジー世界である意味最もやりたかったことだ。

空を飛べるようになるなんて考えてもみなかった。


『鑑定』


名前:島野 守

種族:人間

職業:神様見習いLv9

神気:計測不能

体力:1233

魔力:0

能力:加工Lv5 分離Lv5 神気操作Lv4 神気放出Lv3 合成Lv4 熟成Lv4 身体強化Lv3 両替Lv1 行動予測Lv2 自然操作Lv3 結界Lv2同調Lv2 変身Lv1 念話Lv1 探索Lv1 転移Lv2 透明化Lv1 浮遊Lv1 初心者パック

預金:2793万7734円


その後調子に乗って飛びまくる俺を見てノンは口をあんぐりと開けていた。



俺達は養蜂の村「カナン」に訪れている。

コロンの街から北に五時間ほどの距離、エルとギルに乗って移動した。


カナンの村は森に囲まれた集落が集まった村といった処か、森林地帯独特の匂いがする。

それにしてもこの村は獣人が多い、それもいろいろな獣人がいる。

体の一部だけ獣の獣人がいれば、ほぼ獣といった獣人もいる。

二足歩行で衣服がなければ獣か?と疑ってしまうほどだ。

中には人間も見かけるが圧倒的に獣人が多い。


聞くところによると、カナンの下級神様は元獣人とのことらしく、それが影響しているのだろう。

先ずは下級神様にご挨拶をと、道行く人にどこにいるかと尋ねてみたたところ、養蜂場にいけばデカい熊がいるから行けば分かると言われた。

デカい熊?なんのことやら。


養蜂場に行くと、ひと際お腹の出たデカい熊がいた。

デカい熊のプーさんじゃん!

なんでよりによって赤色の服を着てるのかな?


笑いを堪えるのに必死だった。

不味い!流石に始めましての挨拶で笑うなんて失礼過ぎる。

落ち着くために一呼吸置いてから挨拶に向かった。


「僕ー、レイモンドだよー、養蜂のー神様だよー」

なんで間延びした話し方するんだよ!

ワザとだろ!寄せ過ぎだって!


「ククッ!」

しまった!

笑ってしまった。


「面白かったー?」


「あっ、すいません、知り合いによく似てましたので思わず・・・」

何とか胡麻化せたか?どうだろう?


「申し遅れました、俺は島野守と申します。村の見学に来させていただきました。こちらは手土産です、どうぞ!」

野菜の詰め合わせとワインを三本手渡した。


「ありがとー、美味しそうだねー、ぜひ見学していってねー」

少し慣れて来た、なんとか大丈夫だろう。

俺はこっそりと腹式呼吸をした。


「あと、この野菜の販売をしたいのですが、よろしいでしょうか?」


「あー、それはー、商人組合にー、聞いてくれるかなー、僕では決められないからねー」

組合があるのか?コロンではアグネスが普通に販売してたけど、アグネスは組合員ってことなのかな?


「分かりました、ありがとうございます」

一礼してその場を立ち去った。


距離が離れてからノンが呟いた。

「デッカイ熊のプーさんだな」


「ププッ!それは言っちゃ駄目!」

笑いのお替りが始まってしまった。


村人に声を掛け商人組合の場所を尋ねた。

早速行ってみる事にした。

とても大きな建物だった『商人組合』と看板がある。


ドアをノックする。

ドンドン!

ドアを開けて中から犬の獣人が出てきた。


「どうしましたか?」


「突然すいません、俺は島野と申します。この村で野菜の販売をしたく、許可を貰いにこちらに参りました」

こちらの犬の獣人はほぼ犬だった。

ビーグル犬かな?


「あーそうでしたか、では中へどうぞ」

誘われるが儘に商人組合の中に入った。


高い天井の家だ、数人が机に向かって何かしらの作業をしていた。

事務仕事かな?

中央にあるテーブルに誘導される。


「こちらにどうぞ」

俺だけ椅子に腰かけた。

他の家族は俺の後ろに控えている。


「で?どんな野菜の販売をお考えで?」


『収納』から野菜の詰め合わせを取り出す。

「こちらなんですが・・・」

犬の獣人が目を丸くしていた。


「これはまた立派な野菜ですねー、凄い大きさに色艶ですね!絶対に売れますね!これは素晴らしい!」

野菜をまじまじと眺めている。


「どのように販売する予定ですか?」


「簡単な屋台でと考えておりまして、如何でしょうか?」

屋台ならば何かと都合がいいと考えての選択だった。

店舗を構えて行うつもりなどさらさら無い。

コストが掛かる上に腰を据えて商売するつもりなど毛頭無いからだ。

好きな時に好きなだけ野菜を売るとしか考えてない。

そうなると屋台が一番手取り早い。

というよりその選択肢しか無い。


「そうですか、いいですよ、ではこちらの書類にサインをお願いします」


サインをするといくつかのルールを説明された。

販売高の一割を商人組合に収めること、販売場所は定められた場所のみ、価格の設定は各自自由、商人同士の揉め事に商人組合は一切関与しない。

等々・・・普通サインする前に説明するよね?

まぁいいや。

どうやら商人組合の会員に登録するということになってしまったらしい。

会員証のような物を手渡された。


販売場所へと移動した。

結構人が多く賑わっている。

これは期待できるな。


指定の場所に大きな長いテーブルを準備し、白いシーツを広げた。

野菜を取り出す前に周りの状況を見る。

ほとんどが屋台で売っている商品は食料品が多いが、中には陶磁器や衣類なども見うけられた。

簡素な市のような雰囲気だ。


野菜を取り出して並べていく。

これでもかと高く積み上げる。


「さあさあ皆さん!美味しい野菜はいかがですかー!こちらの野菜の販売は本日のみとなっております。先ずは見てやってください。大きくて、美味しい野菜ですよー!」

俺は敢えて大きな声で話し掛けた。


何だ何だと市がざわついている。

遠巻きに見ていた人達がこちらに注目し出した。

やはり大きな声は注目を集める、商売の基本だ。


「良かったらこちらを試食していってください、試食は無料ですよ、どうぞどうぞ!」

数名が無料に反応したのか近づいてきた。

日本では定番のセールストーク、これが上手くいかない訳が無い。


「こちらの試食をどうぞ、こちらはスイカと言いまして、瑞々しくて甘くて美味しいですよ」


「無料でいいのかい?」

狐の獣人女性が話し掛けてきた。


「もちろん無料でいいですよ、気に入ったらぜひお買い求めください」

俺は試食用のスイカの一切れを爪楊枝に刺して渡した。

狐の獣人女性が軽く頭を下げてからスイカを食べた。


「なにこれ?・・・美味しい!・・・一つ頂戴!いくらなの?」

よし!狙い道りだ。


「銀貨十枚になります」


「じゃあ二つ頂くわ!」


「ありがとうございます!」

これを機にお客の波は止まらなかった。

ものの三十分も掛からずに完売してしまった。


見知らぬ新参者で敬遠されるだろうからと、試食販売にしてみたのが大当たりだった。

気が付けば持ってきた野菜が全部売れてしまった。

念の為にと多めに持ってきていたが、まったく足りなかった。

結果としてはアグネス便の三倍以上の売上になった。


「すごい売れてたねー、すごいねー」

振り返るとデカいプーさん、じゃなくてレイモンド様がいた。


「ありがとうございます。いやー、疲れましたよ。ハハハ!」

本当に疲れた、たったの三十分の出来事だったが、怒涛の勢いとはこのことかと実感した。


「大したもんだねー、試食なんてー、初めてみたよー、頭いいねー、君ー」

デカいプーさんに褒められた。

悪い気はしない。


「あっ!そういえば、はちみつはどこに行けば買えますか?」


「じゃあー、僕に付いておいでよー」


「ありがとうございます」


早速屋台の片づけをしてレイモンド様の後を付いていった。

すると何か村が騒がしくなってきていた。

人があちらこちらと走り周っている。


「何かあったのでしょうか?」

レイモンド様に尋ねてみた。


「多分ー、魔獣が出たんじゃー、ないかなー?」


「魔獣ですか?大変じゃないですか?」

魔獣とは穏やかじゃないな、人的被害が出ないといいが。


「そうだねー、でも僕は何もできないからねー、でもー、ハンターがー、対処してくれると思うよー」

ハンターとは?そのままの意味で狩人ってことかな?


「ハンターですか?」


「うんー、魔獣や獣を狩るー、専門の職業だよー、知らないのー?」

そんな職業があってもおかしくはないか、獣や魔獣がいる世界だからな。

異世界物でよく聞く冒険者みたいなものなんだろう。


「興味があるな、見学に行ってもいいですか?」


「いいけどー、気を付けてねー。魔獣はー、獣より強いからねー」


「ありがとうございます」

ゴンとエルにはちみつの買い付けは任せて、騒ぎのする方にノンとギルを伴って向かう事にした。

森の中に入っていった。

『探索』で状況を把握する、魔獣が三匹にハンターらしき者が五名二百メートル先にいる。

ノンは気配で察知しているようだ。

ギルには状況を伝えた。


「もしハンターが劣勢なら手を貸そう、そうじゃなければ見学だな」

無言で頷く二人。


距離二十メートル、ハンターと魔獣が対峙していた。


『鑑定』 


グレートウルフ(魔) 森の奥に住む獣 食用可


グレートウルフは身を低くして、ハンターに今にも飛び掛からんとしている。

黒い瘴気を身に纏っていた。

なんとも禍々しい。

ハンターはグレートウルフの周りを円状に囲み包囲している状態。


一頭のグレートウルフが一人のハンターに狙いを定めて一気に距離を詰めた。

頭から猛然と突っ込んでいる。

ハンターは盾でその突進を受けたが後ろに吹っ飛ばされていた。

後ろの木に背中を打ち付けている。

おー、痛そう。


それを機に他の二頭のグレートウルフも動き出した。

明らかにハンターの劣勢。

ノンとギルにサインを送る。


吹っ飛ばされたハンターを今にも噛みつこうとしているグレートウルフに、俺は『転移』で距離を詰め、背後から首を掴んで一気に首の骨を折った。

ゴリッという音が腕から伝わって来る。


獣化したノンは風魔法でグレートウルフを巻き上げ、爪で首を切断していた。


ギルは体当たりでグレートウルフを吹っ飛ばし、倒れたグレートウルフの首にエルボードロップで息の根を止めていた。


五人のハンターは固まっていた。

何が起きたか分かっていない様子。

一先ず片付けたグレートウルフを一ヶ所に纏めて五人の様子を眺めて見た。

未だフリーズ中。


うーん、ちょっと待ったほうがいいのかな?

すると一人が正気に戻ったようで、こちらにヨロヨロと近づいてきた。


「ありがとうございます!」

いきなり泣かれた。


目の前で両膝をついたハンターが大泣きしだした。

あーあ、勘弁してよ・・・


徐々に正気を取り戻した他のハンター達が同じように大号泣しだした。

こりゃあ時間がかかるぞー、やっちまったか?

泣く程のことなのか?


少し冷静になったハンター達が次々に、

「ありがとう!本当に助かった!死ぬかと思った」

「こんなところに魔獣化したグレートウルフが出るなんて、運が悪すぎるって」

「グレートウルフに襲われた時、ノエルちゃんにもっと強引に迫るべきだった、と思いました!」

うん、お前は何かが違う・・・

口々に感謝の念を伝えてくれた。


恐らくこの人達には魔獣化したグレートウルフはかなり格上だったようだ。

相当な覚悟で挑んだことだろう。

窮地を脱したといったところかな?


「で、この先はどうしましょうか?」

ハンター達に問いかける。


「失礼しました、私はこのハンターグループ『サンライズ』のリーダーをしておりますライドと申します。この度はお助けいただきまして、本当にありがとうございました。この獲物らはそちらでお納めください」


ライドさんは牛の獣人で力には自信があるといった風貌の男性だった。

頭に角が生えていて筋骨隆々だ。

おそらくミノタウロスだろう。


「俺は島野です。こちらはノンとギルです。ところでお納めくださいって何ですか?ハンターのことは何も知らないので・・・」

はい、私達は通りすがりの一般人です。


「そうですか、ハンターの流儀として仕留めた者が獲物を確保できるということです、なのでこの三匹のグレートウルフはそちらでお納めください」

そういえば食用可ってなってたな。


「これはどちらかで買い取っていただけるのでしょうか?」


「ハンター協会で買取可能です、グレートウルフは貴重でその牙は高値で取引されています。他にも癖はありますが肉は上手く毛皮も高く買い取って貰えます。あと魔獣は魔石を持っておりますので、こちらはかなり高く買い取って貰えますよ」

どうやら狩った獣がお金になるらしい。

ありがたいことだ。

旅費の足しになりそうだ。


グレートウルフを三匹回収して『サンライズ』の方達とハンター協会に向かうことにした。


ハンター協会も大きな建物だった。

入口に入ると奥に大きなカウンターがあり職員の方が受付をしていた。

左側にもカウンターがあるがこちらは飲食店の様な雰囲気、椅子とテーブルが適当に配置されており好きに使ってください的な雰囲気だった。

そして何人かのハンターが自由に飲み食いしていた。


「島野さん、こちらです!」

正面奥にあるカウンターに招かれた。


「メイちゃん、こちら島野さん、なんと!魔獣化したグレートウルフを三匹も倒したんだぜ!」

先程助けた猿の獣人が自慢げに言っていた。

話が聞こえたのか他のハンター達がざわめきだした。


「えっ!凄い!」

メイちゃんと呼ばれた兎の獣人が驚いていた。


取り敢えず名乗ることにした。

「あのー、初めまして、俺は島野といいます。ハンター協会は初めてでして・・・」

ハンター達が耳をそばだてている気配がする。

あんまり注目されたく無いのだがこれはしょうがないか。


「そうなんですね、こちらこそ初めまして!私は受付を担当してますメイです。初めてということですと、ハンター登録はされていないということでしょうか?」

こちらも商人組合と一緒で登録制のようだ。


「ええ、そうです。何か不味かったですか?」

商人組合と同じ仕組みなのかな?


「いえ、そんなことはないです。ではさっそくグレートウルフを見せて頂けますでしょうか?」

メイさんがカウンターの上に手をやった。

『収納』から三匹のグレートウルフを取り出すと回りから声が漏れてきた。


「すげー!」

「本物見るの始めてだぜ!」

「ただのウルフの間違いじゃないか?」

メイさんがグレートウルフをしげしげと眺めている。


「うん、間違いないですね。グレートウルフ三匹、こちらは買い取りでよかったでしょうか?」


「ええ、そうしてください」


「では先にハンター登録をしてはいかがでしょうか?ハンター登録しますと解体費用が半額になりますので」

はやりその流れになるのか。


「なるほど、因みに解体費用はいくらぐらいでしょうか?」

解体は自分でも出来るが聞いてみることにした。


「解体は物にもよりますが、このサイズのグレートウルフですと一匹で銀貨五十枚ぐらいですね」

だいたい五千円ぐらい。

三匹で一万五千円か、結構するな。

半額でも七千五百円か、解体は自分で出来るけど。

この流れに乗らないのは良くないな。

頼んだ方が正解だろう。


「あと、ハンター登録することで何か義務とかが発生したりするのでしょうか?」

これがとても重要な気がする。


「そういったことは無いですが、稀に魔獣が大量発生したりした時には協力を依頼することはあります」

基本的に縛られることは無いか。

にしても魔獣の大量発生って・・・

まあいいか・・・無い事を祈ろう。


「分かりました、じゃあ登録でお願いします」

俺はサインしてハンター登録した。

買い取りの清算は明後日ということになった。

パーティー名は『島野一家』にした。

登録すると商人組合と同様に会員証のような物を渡された。


ハンター協会を出ようとしたところで『サンライズ』の面々に呼び止められた。

なんでもお礼に晩御飯を奢ってくれるということらしい。

あと二人増えますが大丈夫ですか?と伝えたが全然構わないとの事だった。


はちみつの買い付けに行っていたゴンとエルと合流し、俺達は商人組合に売上金の一割を納めにいった。


「本当にこんなに売れたんですか?」

驚かれてしまったがこちらとしては何も誤魔化してはいない。

組合側としても上納金が少しでも多い方が良いに決まっている。

何を疑うことがあるのか?

もし誤魔化すのなら低く言うに決まっているのだが。


「多いに越したことがないのでは?」

と言うと理解できたのか


「そうですね、すいませんでした」

犬の獣人が頭を下げていた。


商人組合を出て待ち合わせの酒場に到着した。

お店に入ると凄い賑わいだった。

かなり繁盛している。

真ん中のテーブルに既に『サンライズ』御一行が席を取ってくれていた。

ライドさんがこちらに手を振っている。


「すいません、遅くなりました」


「いえいえ、こちらも今着いた処ですよ」

ライドさんが答える。


「島野さん、紹介させてください。こちらが斥候のウィル。魔法使いのジョー、こっちが剣士のカイ、回復役のジュース、そして最後に俺が盾役のライドです、よろしくお願いします」


ウィルさんは猿の獣人でとても身軽そうだ。

ジョーさんは人間だ、見た目は魔法使いというより商人の雰囲気だ。

カイさんはゴリラの獣人でごつい剣士そのもの。

ジュースさんは人間で神官のような出で立ちだ。

皆なそれなりのベテランハンターらしい。

こちらも一家全員を紹介した。


「島野さんはテイマーなのか?」

ジョーさんが聞いてきた。


「いや、そうではないです」

テイマーって獣使いってことだよな?そんな者では断じてありません。


「そうなのか?テイマーでも無いのに聖獣を従えてるってどういうことだよ」


横からライドさんが口を挟んできた、

「ジョー、お前何言ってんだよ?ハンター同士は詮索しないのが礼儀だろ」

そうだったと言わんかの如くジョーさんが顔の前で両手を揃えた。

すまなかったということなんだろう。


「しかし島野さん達は本当に強えーよな。ノン君なんて爪で首をサクッ、だもんな」

ウィルさんに褒められてノンが照れている。


「まぁ取り敢えず注文しようぜ。皆なエールでいいか?」

ライドさんが取り纏めるようだ、仕切り役なのかな?


「ギルはエールは駄目だぞ、まだ早い!」

俺は横目でギルに目線を送った。


「えー、いいじゃん」

ギルは駄々を捏ねている。

駄目なもんは駄目です。


「駄目だ!別の物にしろ!」

そうだそうだと言わんばかりに他の家族達が頷いている。


「じゃあ、お茶で・・・」


食事と酒が運ばれてきた。

「ライドさんはこの世界の事には詳しいですか?」


「この世界とは?」


「ああ、すいません。実は俺達はずっと島暮らしでして、世情のこととか殆ど知らないもので・・・」


横からカイさんが割り込んできた、

「だったら俺に任せな、噂好きのカイとは俺のことだぜ」


「誰も言ってねえよ!」

ライドさんがツッコんでいた。


「へへ、まあ聞きなよ、島野さん」

顎の周りを触りながらカイさんは話しだした。


「そうだな、先ずは南半球最大の王国『タイロン』その名の通り王政の国さ、王様は『ハノイ十三世』って言って、ふざけた名前の割には腕っぷしがめっぽう強いって噂だ。あと軍隊もあるってよ。それから南半球最強と呼ばれる剣士がいるっていう噂だ。次は魔法国『メッサーラ』だな、この国はなんといっても魔法の研究が盛んで、魔法が得意な人ならこの国に行けなんていわれるほどさ」

ゴンがビクッ!と反応している。

それにしてもここは南半球だったんだな、初めて知ったよ。


「たださっきの『タイロン』とはあまり上手くいっていないらしい、国境ではちょっとした小競り合いがちらほらとあるみたいだ。まぁ、とは言っても死人が出る程では無いらしいがな」


「何が原因で揉めてるんですか?」

気になるので聞いてみた。


「それがどうやら剣が最強か?魔法が最強か?で揉めているらしい。何とも揉める程のことかと俺は思うがね」

確かにそう思う、どっちが強いかなんてどうでもいいと思うが、当人達にとってはそうはいかない、ということなんだろう。

だが答えは簡単じゃないか、両方極めた者が一番最強に決まってるでしょうが。


「他にはどんな国があるんですか?」

情報収集は欠かせない。

聞けるだけ聞いてみたい。


「そうだな、いろいろあるが、魔王国の『メルラド』他には国と呼べるほどの規模の街はないかな。あとは漁師の街『ゴルゴラド』ここの海鮮は絶品だぞって行ったことのある奴に自慢されたよ。何でも生で魚が食えるって話だ。考えられねえだろ普通。なんだかそういった技術が開発されたって噂だ。他には大工の街『ボルン』ここの街の家は歴史的な遺産レベルだって聞いているが何が凄いのかよく分からねえな。他にもエルフの村、鍛冶師の街、ダンジョンの街などいろいろだな。他にもいろいろあるが切りが無えかな、あぁでもこれは話しておきたいな、最後に温泉街『ゴロウ』なんでもここの神様は転移者だって話だぞ」


「えっ!温泉があるんですか?」

ワクワクする!

それにゴロウってどう考えても日本人ですよね!


「ああ、そうだよ、何だい?島野さんは温泉を知ってるのかい?」


「知ってるも何も大好きです!ありがとうございます。絶対に行きます!」

俺は思わずガッツポーズをした。

やっべー!興奮してきた!

早く行きたいなー、どんな温泉なんだろう?

サウナあるかな?あるよね?あってくれよ!

と物思いに耽ってしまっていた。


あっ、『サンライズ』の皆さんが引いてる。

これはいけない、気を取り直して情報収集再開。


「処で、今日狩ったグレートウルフなんですが、どれぐらいの脅威なんですか?」


ライドさんが答えてくれた、

「脅威というかなんというか、正直俺達は死ぬ気で挑みましたよ」


「というと?」


「いやぁ、自分達これでもベテランのBランクハンターなんですけどね、流石に魔獣化したグレートウルフ三匹は無理ですよ」

強さがランクで管理されているということかな?


「すいません、Bランクとは?ランクがあるんですか?」


「ああ、そうかすまない、島野さんはハンターすらも知らなかったんですよね。俺達ハンターにはランクがあって、最高はSランク、最低でEランクです。討伐出来る獣や数でランクが決まるんです。今回の魔獣化したグレートウルフ三匹の討伐となるとAランクの仕事なんですよ、下手すりゃあSランクかも」

ということは俺達はAランク以上ということだな。


「なので魔獣化したグレートウルフなんて、一匹でもAランクの仕事なのに・・・たまたまハンターで直ぐ出れるのが俺達しかいなくて・・・本当にこれで人生終わったと思いましたよ・・・討伐に出ない訳にもいかないしってね・・・」

勇気を振り絞って行くしかないという事だった訳だ。


改めて『サンライズ』の皆さんを見ると、狩りには装備を揃えた方が良いのかな?と思ってしまうが、これはまた今度でいいだろう。


「そういえば、魔獣ってよく出るもんなんですか?」


「いやいや!魔獣なんて滅多に出るもんじゃないですよ!」


「そうなんですね」


「ただ最近よく出るようになったって、ハンター協会の職員が言ってましたけど、どうなんでしょうね?」

なんだかここ最近ってのが気になるけど、まぁいっか。

いろいろありましたが楽しい飲み会となりました。




翌日、

寝て冷静になった俺は温泉行きについて考えた。

魔獣の買い取りの清算は明日なので今の直ぐには行けない。

なので取り敢えず後回しにしていた畑の拡張を行った。


アイリスさんに畑の拡張を行うことを伝えたところ、せっかくなので倍にして欲しいと言われたが、流石に管理に手が回らないと思い。

五割増し程度にしておいた。


今回は販売用の根菜と葉物野菜を中心に増やしている。

屋台販売の売れ行きを見る限り、次の屋台販売も飛ぶように売れることは間違いないと思う。


温泉街『ゴロウ』の場所は『タイロン』王国の北側にあるということで結構距離がある。

カイさんが言うには、歩いていけば一ヶ月近くはかかるんじゃないか?ということだった。


また厄介なことに『タイロン』王国の城下町を通過しないと行けない場所にある。

上空を飛んで行って大丈夫なのだろうか?


あと温泉の神様は転移者ということなので、念には念を入れてある能力を開発しておく必要がある。

取り敢えず先にそちらに取り掛かろうと思う。


能力開発は早々に終了した。

自分がもう一人いるところをイメージし、その俺から『鑑定』を受けるイメージ、そこに透明の何も通さない壁をイメージし神気を纏って簡単に成功した。


『鑑定無効』の能力を取得した。


取り敢えず移動には転移で『タイロン』王国に一番近い『カナン』まで行き、そこからはエルとギルに乗って移動。


『タイロン』王国内には普通に旅人として通過することにした。

余裕があったら野菜の販売も行う予定。

もし空の移動が可能であったらそちらを使うが、これは許可されるかは聞いてみないと分からない。


あとは道中での食事が必要な為、弁当をたくさん作っておこうと思う。

メニューとしてはおにぎりを中心にハンバーグやから揚げ辺りかな。


温泉街『ゴロウ』は高地にある為、ここより少し寒いとカイさんが言っていたので上着も作っておこうと思う。

今では綿なども豊富に育っている為、材料には事掛か無い。


そういった要領で温泉の街『ゴロウ』に向かうことにした。

さて先ずは弁当作りから開始だな。




カナンの村のハンター協会に来ている。

前に買い取りをお願いしたグレートウルフの清算の為だ。

受付で要件を伝えると奥の部屋へと案内された。

中に入るとウィルさんに似た猿の獣人がいた。


「島野さんですね、ウィルの兄のフェルです。ここのハンター協会の会長をやっております。この度は弟を救っていただきましてありがとうございました」

どうりで似ている訳だ。


「いえいえ、たまたまですのでお気になさらず」


「早速ですが、買い取りの金額なんですがよろしいでしょうか?」


「はい、お願いします」


「先ずは討伐報酬として金貨金貨四十五枚、毛皮が三匹で金貨十二枚、牙が三匹で金貨十五枚、肉が三匹で金貨二十四枚、最後に魔石が三個で金貨七十二枚、の合計金貨百六十八枚となります。後、残りの骨なんですがこちらで廃棄してしまってもよろしいでしょうか?」

金貨百六十八枚?結構な臨時収入じゃないか、ありがたくいただきましょう。


「骨はこちらで回収させてください、畑の良い肥料になりますので」


「肥料ですか?」


「ええ畑には必要なんですよ」

コロンと一緒でここも畑は大したことはなかったもんな、知らなくて当然だな。


「畑のことは良く分かりませんが分かりました。あとでご案内させていただきます」


その後報酬を頂き、骨の回収を行ってからカナンの村を後にした。

それにしても早く温泉に浸かりたいな。


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