第1話 コンビニ
昔、一人の天才遺伝子学者がいた。
彼は世界統一を目指す秘密組織Kに所属していたが、力を増すにつれ過激になっていく組織を見かねて、
研究データと共に組織を抜けた。
そのあと、彼は持ち出したデータと秘密裏に建てた研究所で5人の子供を創り出した。
5人の子供にはそれぞれ特別な力が与えられた。
一人は速さを、一人は知性を、一人は光を、一人は愛情を、そして一人は不屈の精神を。
彼らにはそれぞれ、「ブルー」、「グリーン」、「イエロー」、「ピンク」、「レッド」のコードネームを与えられ秘密組織Kの計画を阻止すべく、戦い続けた。
そしてついに、彼らは組織のボスを倒し、長きに渡る戦いは幕を閉じた。
その後、彼らは学者の遺言で新たな身分を手に入れ自由に暮らし始めた。
6月 日本 加藤(元ブルー) 夜
雨がシトシトと降っている、今住んでいる部屋にはクーラーがない。近所の中古屋で買った扇風機が生ぬるい風をゆっくりとかき回している。
親父の死後、遺言によりあらかじめ用意されていた身分を使い、この町に引っ越した。
雨のせいでこの2日間、何も食べてない。
何か食べに行くか、そう思い立ち、玄関に向かいサンダルをはく、このサンダルは近くの量販店で3足1セット250円という破格の値段だった。
傘を持ってドアを開けるとギイイイといつにも増してひどい音がする、梅雨のせいだろうか。
階段を降りて、傘をさす、近所のコンビニまでは徒歩5分ほど、最近はコンビニの商品を全種類食べるという密かな挑戦をしている、現時点では全体の3割ほどだが、これが中々に楽しいのだ、一つの商品に一つの発見があり、死体と戦いの連続だったあの頃には味わえない感情がある。今日は何を買おう、と考えているうちにコンビニに着いた。傘を畳んで自動ドアが開くのを待つ、この瞬間はいつもワクワクする。
「うるせー!レジの中にあるだろ!早く出せ!」
上下黒のジャージにサングラスとマスクを被った男が包丁を女性店員に向けて声を荒らげているいるのが目に入る。
時刻は午前2時、この時間は誰も来ないと踏んでの犯行だろう、面倒な場面に出くわしてしまった。
助けるべきだろうか、いや、目立つのは避けたい、この付近には少なくとも24個の監視カメラがある、犯人は逃げてもすぐに捕まるだろう。
「お、おい!動くな!、通報したらぶっ殺すぞ!」
強盗がこちらに包丁を向ける、
「落ち着け、ほら」
持っていた携帯を強盗の方に滑らせると強盗はそれを踏み潰そうと足を上げる。
その瞬間、店員が強盗の頭をトングで殴ろうとする、しかしトングは頭を外れ、肩に当たる。
強盗は少し怯んだ後に、包丁を店員に向ける。
もう間に合わない、彼女は刺される、助けられる者はいない、自分以外は。
体を流れる血液が加速していき、頭からつま先までを電気が走る、周りの音が伸びていきながら、雨粒が静止していく。周りが少しずつ、遅くなっていく、加速が始まった。顔を上げ、強盗を見る。
目の前にいるのは組織の強化人間ではなく、一般人だ、いつもの調子でいけば殺してしまうだろう、ゆっくり丁寧に動く必要がある、まずは近づかなくては。
一歩踏み出す、すると履いていたサンダルが弾け飛ぶ、こういう事態を想定しているから、履物は全て安物で統一している。弾け飛んだサンダルの破片は空中を舞っている。二歩目を踏み出す、視界の端で週刊誌が風圧で舞い上がっている。強盗までの距離は残り1メートルほど、そろそろ止まらなければ、つま先からゆっくりと地面に足をつけ、停止する、強盗との距離は30センチ、手を伸ばして包丁を取り上げ地面に置く、次に強盗の腹を人差し指で少し小突く、こうしておけば少しの間、無力化しておける。強盗を持ち上げて、店の外まで運び、近くにあった自転車からロックチェーンを拝借して、強盗の手を電柱に固定する。
これで一先ず上手くいっただろう、元いたところに戻り、加速を終了する。
店員は無事、先程までいた強盗がいなくなっていることに驚いている、強盗は外で胃酸が逆流して吐いている。痛みと疲労感で数日は、まともに過ごせないだろう。
警察が来て面倒なことになる前に離れるほうがいい、ぐったりした強盗を横目に家に帰る。
帰り道、コンビニから拝借したおにぎりを食べる、強盗を拘束し、被害を最小限に抑えたのだ、これぐらいもらってもいいだろう。
部屋に帰り、床につく、良いことをした後は気分がいい、ゆっくり目を閉じていく、今日はいい夢が観れそうだ。
まだまだ続きます。ご期待下さい。