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アイの独白  作者: 川口 黒子
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帰還2

 


 あの後、部長とは部長の教室の前で別れて、私は足早に自分の教室へと向かった。教室の中ではお化け屋敷の準備が進められている。私は飾り付けを少し手伝った後、用事があるからと言って学校を出た。


 《生徒コード334425 藤岡ラン 16:09》


 私たちが起きた頃には、もう十二時を過ぎており、昼食を食べずに手伝いをしに行ったので、お腹の虫が鳴り止まない。このまま家に帰るまで私の体力がもつとは思えなかった。


『AI、ゴメン。今日は外で食べるよ』


『かしこまりました。栄養統計を調整しておきます』


 士富高校の近くには大型の複合型ショッピングモールがある。多種多様な店舗に加えて広いフードコートが存在している。


 日が少し沈み始め、橙色の夕焼けが灰色の町を包み込んでいる。道に見える私の影が、今日は少し、大きく見えた。




 ショッピングモールに着くと、私は早速フードコートへと向かった。やはり夏休みだからか、平日だというのに人で溢れている。私は窓際のカウンター席に座り、近くにあるタブレットでラーメンを注文した。

 昔は席を離れて買わなければならなかったらしいが、今は全て席で完結する。


 しばらくして、ロボットが注文したラーメンを運んできた。それを食べながら、今日あったことを振り返る。


(あそこは一体何処なのだろうか。明らかに現実世界とはかけ離れている。だが、あの学校が1956年にあったことは間違いないだろう。なぜだかそういう予感がする。建物自体も古いし)


 ———ピロン


 スマホに一通のメールがきた。


 [明日は九時に学校の校門前な。遅れたらまたアイス奢ってもらうぞ!!]


 ———先輩からのメールに、思わず笑みがこぼれる。


 私は今まで、ずっと独りだった。両親が死んで、親戚のおじに引き取られてからは、本ばかり読む毎日だった。この都市に来て初めて、私は仲間と出会えた。同じ本好きで、今は賞をとるという同じ目標に向かって進んでいる。AIのお陰で生活も随分と楽になった。こんな"日常"が、私はずっと欲しかった。だから、


 こんな馬鹿げた"落とし穴"に、私の"日常"を奪わせはしない。


 飲み干した器を、ロボットが回収する。


 暗闇の窓に映る私の顔は、まるで別人のようだった。



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