帰還
窓から差し込む眩しい光が、私の目を覚まさせた。
『う、うーん』
気がついたら、部室の中にいる。先輩と部長も机に突っ伏して寝ている。あの手帳に書かれていたことは、相変わらず思い出せない。
あの学校は一体どこだったのか、あの死体はなんだったのか、どうして私達は戻ってこれたのか、分からないことだらけである。
だが、全てはあの手帳が発端だということは確かだろう。
『ふぁ〜』
寝ていた先輩達も目を覚ました。
『ここは、、部室?』
部長が目を擦りながら聞いてくる。
『はい、部室です』
『じゃあ俺たち戻ってきたってことか』
そう言うと、先輩はふぅ〜と力の抜けた様子で椅子にもたれかかる。私もそれを見て、今まで無視してきた頭の疲れがどっと湧いてきた。
『ね、ねぇ、私たち、流石にもうあんな所に飛ばされたりはしないよね?』
『おい、それはフラグってやつだぞ』
『部長、多分まだ続きます、この怪奇現象』
そう言って、私はなぜかポケットに戻っている例の手帳を取り出した。
『部長、落ち着いて聞いてください』
『う、うん』
いつになく真剣なトーンで言うと、部長は慌てたように姿勢を正した。
『私がさっきの死体を見てたとき、窒息死と呟いたんです。そしたらいきなりこの手帳が目の前に現れて開きました。そして今は開かなくなっています。つまり——
『その手帳が開いた時、別の場所に飛ばされる、もしくは戻ってくるってことか...』
『はい、その通りです。この手帳がここにある限り、また同じようなことが起きる可能性が高いです』
『...よし、燃やそう!』
部長が意を決したように立ち上がった。
『いやいや危険だろ。それで呪われて死ぬなんてゴメンだぜ?』
『私も危険だと思います』
部長はよろよろと椅子に座る。
『さて、これからどうするかな、、』
そう言いながら先輩は腕を組む。その姿を見て、何か違和感を感じる。
茶色に染めている髪に、黒い靴、そして紺色のブレザーを身にまとい......ブレザー?
『先輩、いつブレザー回収したんですか?』
『...ん?うわ!?なんで着てるんだ!?』
先輩は驚きのあまり椅子から立ち上がる。
私が意識を失う直前までは確かに先輩のブレザーは死体の横にあった。なのに今、先輩はそれを着ている...メモすべきことがまた一つ増えた。
『まぁ何にせよ、戻ってきたなら良かったぜ』
『...あ!もうお昼過ぎてるじゃん!わたしこの後士富高祭の手伝いあるんだった。ランちゃんもそうだよね?』
『あ、はい』
『じゃあ一緒に行こう!』
『なんだ、みんな用事があるのか...』
『先輩は勉強でもしててください!』
部長はそう言って私の手を取る。あんな出来事があったのに、いつもより何故かハイテンションだ。
二人は何事もなかったかのように日常に戻ろうとしている。精神を安定させるにはそれが一番だろう。だがしかし、
このまま何もしないで良いのだろうか...。
『あの、皆さん明日は空いていますか?』
部室から出る前に私が足を止めると、部長もつられて足を止めた。
『うん、空いてるけど、どうして?』
『ちょっと調べたいことがあって、図書館に行きたいんです』
『何を調べたいんだ?』
『1956年に起こった事件を知りたいんです』