一階の事件
———逃げなきゃ
彼女の手に持つ包丁を見た時、私は直感的にそう感じた。
するとその白い女は突然走りだして私に迫ってきた。
(殺される!!)
そう思い目を閉じた。
、、、、、、、あ、、、れ、、?
私の体は、痛くも痒くもない。
ゆっくり瞼を上げると、そこには誰もいなかった。
(私の見間違い、、?)
いや、そんなはずは無い。あの不気味な姿はハッキリと記憶されている。では何故ここにいない?あの包丁は間違いなく、人を殺すためのものだった。だったら、、
(あの二人が危ない!)
私を殺さなかったということは、先に先輩達を殺そうとしているのかもしれない。
向かおうとしたその時
『きゃーーー!!』
部長の大きな悲鳴が聞こえた。
自分の顔が青ざめていくのが分かる。
私は全速力で今来た廊下を戻った。
『部長!どこにいるんですか!!』
私は走りながら必死に声を出す。今まで通った教室にはいなかった。
すると先輩の声が前から聞こえてきた。
『おーい!こっちだ!』
先輩はトイレらしき場所の前にいた。
『先輩!部長は!?女の人は今どこに!?』
『女の人?誰だそれ?それより中に来てくれ!、、、やばいもん見つけちまった、、』
そう言うと、先輩は女子トイレの中に入っていった。私も後についていく。中に入ると、部長が一番奥の個室の前で、泣きながらへたりこんでいる。
『ランちゃん、、、』
『部長、大丈夫ですか?』
『ランちゃん、中、見ない方がいいよ、、』
『なか?』
部長は目の前にある扉の閉まった個室を指差した。
『...部長、開けますね』
『...うん、見たくないから、あっちいってるね...』
そう言うと、部長は先輩の方へと向かった。
私はゆっくりと前の扉を開ける。
『う、、、、』
そこには、血まみれの少女の死体があった。
『私がトイレに行きたくて、ここの扉を開けたら中に、、、』
部長は声を震わせながら、見つけた時の状況を説明してくれた。
『こんな訳の分からない場所のことだから、何かが出てくるとは思ったが、まさか死体だとはな、、』
『先輩、この死体の女の子、誰だか知ってます?』
『いや、知らないぞ。けど少なくともうちの生徒ではないのは確かだ』
先輩は着ている服を指差して言った。彼女が着ている服は学校の制服のようだが、私たちの制服とは色もデザインも異なっている。
『ラン、死体を隠すぞ。流石にこのままの状態というのは忍びない』
『はい』
そう言うと、先輩は自分の着ていたブレザーを脱ぎ、死体に被せた。
『...一度外に出よう』
『...はい』
『部長、大丈夫ですか?』
『...うん』
こうして、私たちが一旦トイレから出ようとしたその時
———ドン
さっきまで座った体勢だった死体が突然前屈みに倒れた。
『......おい、誰か動かしたか...?』
『いや、私は動かしてません、、』
『私も...』
動いたことそれ自体にも驚いたが、私たちがそれ以上に目を見開いたものは、死体のうしろに隠れていた、
血で書かれた文字であった。
【死因を探れ】
『...死因?この死体のか?』
『多分そうですね...どうします?』
『何か意味がありそうだな。少し調べてみるか』
そう言うと、先輩は死体にかぶさっているブレザーをどかした。忍びないと言って隠した後で申し訳ないと思ったが、これもここから出るためだと割り切った。死体は相変わらず全身が血まみれだった。
先輩は血が流れて出ている所に顔を近づける。
『よく見てみると、何か鋭利なもので刺されているな』
私はそれを聞いて、包丁を持った白い女性のことを思い出した。
『先輩、私さっき包丁を持った、白い服を着た女の人に会ったんですよ』
『なに!?』
『はい、会ったときは襲われると思いましたが、何故か私のことを無視して消えてしまったんです。てっきり先輩達の方に行ったんだと思いましたが、、』
『いや、俺もココロもそんな奴は見ていない』
『じゃあ、彼女を殺したのはその女の人...?』
『確かに、包丁だったらこの傷にも納得がいくな』
『...まだ断定するには早いです。もう少し調べてみましょう』
そう言って、私は死体を床に寝かした。
『なにをする気だ?』
『先輩はちょっと外に出てください。今から服を脱がせて他に傷がないか確認します』
『ランちゃん正気!?』
『大丈夫です』
何故か今の私は異様に冷静になっている。ミステリーを読みすぎた弊害がでているのかもしれない。それでも、今はこうすることが最適だと何かが私に訴えている。
『...分かった、外に出る。ココロも来るか?』
『はい...』
先輩達は、トイレの外に出ていった。
『...失礼します』
手を合わせた後、私は服のボタンを一つ一つ丁寧に外していく。時折触れる彼女の体は、とても冷たい。
刺されたような傷は、全部で七箇所あった。刺した犯人は相当な恨みでもあったのだろう。どの傷も深く、致命傷になり得る。だが、外見を見ただけでは正確な死因はわからない。大量出血や痛みによるショック死など、考えられる候補が頭の中で乱立していく。
他に傷らしきものがないか探してみると、血で気づかなかったが、首の周りに妙な痕が残っていた。
(これは、、策状痕?)
策状痕は縄などで首が圧迫された際にできる傷だ。この痕ができる方法としては、首吊りなどが挙げられる。
しかもこの策状痕は恐らく、刺される前にできたものだ。刃物で切りつけたような傷が策状痕の"上"にある。きっとこの痕を隠すためにやったことだろう。だとしたら死因は
『窒息死?』
私がそう呟いたとき、突然ポケットに入れていたさっきの手帳が目の前に現れ、ある一つの文を、私に見せてきた。
それを見た私は、例の如く、意識が落ちた。