古びた校舎
頭が痛い。
頬が冷たい。
目が覚めると、私は見知らぬ木の床に倒れていた。
『ここはどこ...』
周りには誰もいない。
今までいた部室とは全く違う部屋、、いや教室だ。窓の外は暗く、壁や床全てが木造で、あらゆる場所に穴や傷がつけられている。窓ガラスも、よくみると全て割れていた。
———なんなの、どうなってるの、、、
あの手帳だ、あの手帳を見てからだ。
私はあの手帳がないか教室の中を探した。
教室の机はほとんど全てひっくり返るか、バラバラの場所にあった。ただ一つを除いて。
『あった...』
教室の前の右端に、やたらキレイな机があって、その中に入っていた。
中に書いてあったものをもう一度見ようとページをめくろうとするが
(開かない、、、)
最初に見つけた時は開けることができたのに、今はピクリともしない。書いてあった"あの文字"を思い出そうとすると、頭が痛くなる。
———とにかく、二人をさがさなきゃ
教室を恐る恐る出てみると、廊下には誰もいなかった。廊下も教室同様、あちこち板が剥がれている。慎重に足を前に動かそうとすると、
『おい、ランか?』
『きゃ!?』
びっくりして尻餅をついてしまった。
『よかったランちゃん、、無事だったのね』
『は、はい、、』
恥ずかしいところを見られてしまった。
『あの、先輩たちはどこにいたんですか?』
『俺たちは同じ場所で目を覚ましたんだ。お前がいなくて心配したぜ』
もう少し詳しい場所を知りたかったのだが、今はそんなことはどうでもいい。それよりも...
『先輩、ここがどこだか分かりますか?』
『いや、まったく分からん、、というか、今俺達が置かれている状況って———
『絶対あの"噂"ですよ!どうしてわたし達が...やっぱりわたしが噂を話したからなの...?』
部長は顔が青ざめ酷く動揺している。ホラーが苦手な人にとって、この場所はとても恐ろしいのだろう。
『大丈夫ですよ、まだ部長のせいだと決まったわけではないですから』
『おい、そこは励ましの言葉を言ってやれよ、、』
『言ったじゃないですか』
先輩は苦笑いをする。
『ランちゃんは怖くないの、、?』
部長がか弱いウサギのような目をして話しかけてきた。
『最初は驚きましたが、今は少し落ち着きました。不気味なのは変わりませんけど』
『相変わらずだな、お前は』
そう言いながら、先輩は窓の外に顔を出した。
『先輩、窓の外出れると思いますか?』
『いや、無理だな。なんというか、、変なんだ』
『ヘン?』
『ああ、何も見えないし、上下左右がわからなくなるんだ。ベンタブラックでも眺めてるような気分だぜ、、』
『じゃあ私たち、ここから出られない、、?』
出られないと決めつけるのはまだ早いかもしれないが、確かにここは不可解な点が多い。
光源がないのに中は明るく、なのに外の景色はなにも見えない。どう考えても物理法則が適用されていない。
『...おいラン、今手帳もってるか?』
『どっちのですか?』
『お前のだ、、この状況をメモしとけ。あとで創作の役に立つだろ?』
満面の笑みで私に話しかけてくる。
この状況を楽しめる先輩のメンタルはどうかしている。いや、私たちを安心させるため、こんな風に振る舞っているのか?
『ランちゃん、さっき"どっちの"って言ってたよね?もしかして、さっき私達が見た方も持ってる?』
『はい、だけど何故か開かないんです』
『開かない?本当か?』
先輩は私から手帳を受け取ると、鬼の形相で開けようとする。顔がみるみる赤くなっていくが、手帳は糊で固められたかのようにページをめくることができない。
『だめだこりゃ全然開かん』
先輩は諦めて私に手帳を返した。
『とりあえず、中を探索してみませんか?もしかしたら出口があるかもしれません』
『ああ、そうだな』
それに、これが噂通りならば、学校で行方不明になった生徒がここにいるかもしれない。だがそれだったらなぜなにも
音が聞こえないのだろうか?
*
私たちは二手に分かれて探索をすることにした。その方が効率が良いだろうと先輩が提案してきたからだ。最初は私と部長の二人で行動することになったが、いざという時に私が足手まといになりそうなので、部長と先輩の二人で探索してほしいと頼んだ。
すると部長が『ならもう一緒に行動しよう!』
と言ってくれたが、一人で考えたいことがあると言って断った。
(やっぱり一人の方が考えがまとまる)
廊下を歩きながら、私は今起きていることを手帳にメモする。急な出来事で混乱したが、今なら冷静に判断できそうだ。
考えてみるとおかしいことだらけだ。まず私たちがいた部室からどうやってここまで運んだのか、廊下には生徒がいたのにそんなことが可能なのか?
次にこの空間そのものについて、2045年現在に物理法則をねじ曲げる技術は開発されていない。だとするとここは一体なんなんだ、異世界か?いや、そんな空想が現実にあるはずはない。
頭の中で言葉を呟きながら、隣にある教室の中に入った。
私が最初に起きた場所と同じく、ここもメチャクチャに荒らされている。
周りを見渡してみると、掲示板らしきものに紙切れが画鋲で貼られていた。
近くで見てみるとそれは新聞らしかった。残念ながら殆どが破けてしまっていたが、辛うじて発刊した年は知ることができた。
(1956年、、?)
あまりの古さに驚愕した。どうしてこんな古い新聞がまだ残されているのか。
だとしたらここは———
ドン、
廊下の奥から、何かが落ちたような鈍い音が聞こえた。私は急いで教室を出て音の鳴った方向を見る。
そこには何もなかったが、まるで廊下がこっちへ来いと誘っているような、そんな不気味さがあった。
私はそんな廊下の奥へと足を進める。他の教室には目もくれずにただ奥へ、奥へと歩いていく。
その先には、階段があった。
(上の階があるの、、?)
そう思い、一段目に足を置いた瞬間、
白い服を着た、髪の長い女性が踊り場に現れた。