事件はいつも唐突に
『だーちくしょう!何も思いつかねえ』
先輩が突然大きな声を出した。
『先輩、うるさいです』
『だってよう、マジでネタがないんだって。ネットで調べてもあまり良さげなものが無いしさ』
『じゃあ先輩、いま校内で噂になっている話って知ってます?』
『なんだそれ?知らないぞ』
部長はペンを置いて、神妙な顔つきで話し始める。
『この学校って、毎年夏が終わると全校生徒の人数が減るんですよ。まあ殆どが引っ越しだったり、留学だったりするんですけど、中には"行方不明"になった人もいるという噂です』
『行方不明!?この都市の中で!?』
先輩が驚くのも無理はない。
都市の中にいる人はAIによって常に監視されている。行方が分からなくなることはまず無いが、もし仮にそんなことが起きてもAIを運営する"国家機関"が何かしらの対策をしているはずだ。
『しかもその行方不明になった人のことを誰も知らないんですよ、、ただ人数だけが減っているんです』
『お前、ホラー苦手なのによくそんな噂知ってるな』
『だってあまり現実味がなくて怖くないんですもん』
『けどまぁ確かに、小説のネタとしては面白いかもな、もっと詳しく教えてくれよ』
筆を休めて会話をしている先輩たちを横目に、参考になりそうな本がないか棚を眺める。
すると一ヶ所だけ妙に隙間が空いてるのを見つけた。
(なにか挟まっている?)
本と本の間からそれを引っ張り出してみる。
それは小さな手帳だった。私の持っているものと同じくらいの大きさだ。革製のカバーで覆われていて、とても年季のある物のように思われる。
『先輩方、ちょっとすいません。これ誰のものか知っていますか?』
『うん?どれだ?、、、いや知らないな』
『わたしも知らないなー、前の部員の誰かが置いていったんじゃない?』
『中はもう見たのか?』
『いえまだです』
そう言われて、私は手帳の1ページ目を開く。先輩たちも中をみようと前屈みになった。
そこに書かれた文字を見た瞬間、
視界が暗くなり、意識が落ちた。