いざ、あの場所へ
先輩の実家は、士富市の隣に位置する小さな町にあるそうだ。管理都市ではないため士富市に比べれば発展は遅れているが、それでも交通の利便性は高い。海に面しているため新鮮な魚貝類も食べられる。
電車に乗りながら先輩の祖父の事について聞いていた。
『じいちゃんは無口でさ、あまり自分のことは語らない人だった。だけど正義感は人一倍強かったな。誰かが困っていたら自分のことはほっといて直ぐに助けに行くぐらいだった。俺はそんなじいちゃんが大好きだった』
『いいおじいさんですね...』
『俺さ、一つだけ後悔してることがあるんだ。じいちゃんの死に際に立ち会えなかったことだ。その時ちょうど熱を引いちまってよ...。連絡を聞いた時はめちゃくちゃ泣いたな』
『わたしも祖父が亡くなった時は大泣きしました』
『ランはどうだったんだ?』
『私は...あまり覚えてないです...。祖父が死んだのは私が結構幼い頃だったので、記憶が曖昧なんです』
そう、曖昧なのだ。
おじいちゃんと暮らす前、つまり両親がまだ生きていたころの事がどうしても思い出せない。祖父のことなんて尚更だ。
『なるほどな...。そういえばラン、あの新聞は持ってきたか?』
『新聞ならあります。けどどうして必要なんですか?』
『親父に今までのこと話したらその新聞が本物か確かめるから持ってこいって言うんだ』
『だとしたら先輩のお父さん確実に事件について何か知ってますね!』
『ああ、気を引き締めて行くぞ』
先輩がいつになく真剣な顔つきだ。私たちは今、着実に真実へと近づいている。たとえそれがどんなに大きな"落とし穴"でも、二人と一緒なら飛び越えられる。そう、信じている。




