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アイの独白  作者: 川口 黒子
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気分転換2



『暑い、暑すぎる...もしやここはジャンルか!?』


『違いますよ...ちゃんと広葉樹林です』


『ほら、喋ってると転ぶぞ』


 とある森深くにあるキャンプ場、我々ノベ研は今、草木を掻き分けそこに向かっている。


『にしてもどこにあるんですか...。もう駅から歩いて一時間ですよ...』


『何言ってんだココロ。"まだ"一時間だろ。普通ならここまで来るのにニ時間はかかってるんだ。今日は調子がいいぜ!』


 そう言いながら、先輩はどんどん前と進む。さすがはベテランだ。獣道と見間違えるほどの荒れた道を最小限の動きで的確に歩いていく。私と部長はその後ろをついてくのに必死だ。


『先輩、休みましょう。部長が死にそうです』


『まぁそうだな。急ぐ必要もないか』


 近くにあった石に腰掛け、持ってきた水筒で水を飲む。部長も先輩の声を聴くとすぐにペットボトルを開け、一気に飲み干した。


『はぁ、はぁ、生き返った...』


『まったく、お前はもう少し体力をつけたほうがいいぞ』


『文化部なのに体力がある先輩がおかしいんですよ!ねぇ!?そう思うよねランちゃん!?』


『私に振らないでください』


『ま、後もう少しだ。頑張れ!』


 私たちは再び歩き出した。額の汗を拭いながら、先輩の大きな背中を無我夢中で追いかける。周りの景色はあまり変わらない。それでも先輩について行けばなんとかなる、そう思わせる頼もしさが後ろ姿から滲み出ている。私たちは歩く。歩いて歩いて歩きまくる。今この瞬間、私たちは全てを忘却していた。


『着いたぞ!!』


 森を抜けると、広大な草原が目の前に広がっていた。やはり最終日なだけあってテントがちらほら見える。それでも他のキャンプ場に比べると少ない方だ。


『...ぐは』


 相当疲れていたのだろう、着くや否や、部長は膝から崩れ落ちた。


『おい、まだへばるのは早いぞ。これからテント張ったりするんだからな』


『...鬼!!悪魔!!』


『じゃあお前だけ寝るとき外な』


『そんな〜』


 部長と先輩は仲良く軽口を言い合っている。その光景が微笑ましくて、思わず笑みがこぼれた。


『あ!今ランちゃん笑ったでしょ!!』


『いえ違いますよ。いいから早く来てください』


『みんな、なんか私に冷たくない...?』


 ボソボソと文句を言う部長を連れて、予約したテントエリアに向かう。


『ではこれからテントを設営していく!今回は俺用とお前ら用の二つを設置するぞ。やり方は以前説明した通りだ。わからなかったら皆のスマホに送った説明書をみてくれ。まずはお前らのからやるぞ!』


 テント設営に関しては私と部長は全くやったことのない素人だ。説明書をみながらでも結構難しい。しかも案外、力がいる。最新のテントはボタン一つで組み上がるらしいが、お財布と相談して今回はやめた。それに先輩曰く、

『自力で組み立てるのが醍醐味』らしい。


『おーいそっち持ってくれー』


『これですか?』


『そうそれそれ......よし!できたぞ!』


 やっと一つ完成した。だいたい三十分くらいかかっただろうか。このまま作業すると終わるのはだいだい昼頃になるだろう。正直かなりしんどい。朝の早起き、長時間の移動、炎天下のテント設営で心身共に溶けてしまいそうだ。

 すると部長がなにやらまた駄々をこねている。


『先輩、もう一つで良くないですか〜』


『一つだけだと狭いだろ』


『あ、もしかして先輩、女子二人に囲まれて寝るのが恥ずかしいとか!?』


 この暑さで頭がやられてしまったのか、部長が普段言わないようなことばかり口にする。さすがに先輩も怒ったのか、黙って荷物の方へと向かう。するとクーラーボックスから赤い何かを取り出した。


『今日はお前たちに楽しんでもらおうと、奮発して買った高級な肉があるんだが、どうやらココロはいらないらしい。残念だな〜でもしょうがないか。"働かざる者食うべからず"だもんな。よしラン、俺たちだけで食べようぜ!』


『失礼しましたユウキ先輩!精一杯働かさせていただきます!!』


 先輩が言うと、部長は物凄いスピードでテント設営に取り掛かった。さすがは元部長。ココロ部員の扱いを熟知している。


 部長の頑張りもあって、テント設営は予定よりも早く終わった。時間が余ったので、近くにある川で釣りをすることにした。このキャンプ場には釣り道具の貸し出しもあるらしい。早速借りて、川に糸を垂らす。

 流れる水の音、草木のざわめき、虫の鳴く声が私たちを包み込む。


 どのくらい時間が経ったのだろうか。空をぼーっと眺めていると、突然竿が引っ張られた。


『ランちゃんかかってる!!』


『———ん!』


 私は力一杯竿を上げた。それでも中々魚は姿を現さない。それどころか逆に川に引きずり込まれそうだった。足の踏ん張りが限界に達したとき、先輩と部長が横から竿を持ち上げてくれた。


『こいつは大物だな!せーので引くぞ!!』


『『『せーの!!』』』


 川から勢いよく水しぶきが飛ぶ。釣り上げられた魚を見て、私は今までにない高揚感を覚えた。


(これが、釣りなんだ...!)


 その後も何度か餌に食いつき、最終的には全体で三匹釣れていた。


『俺が一匹でランが二匹、でココロは...』


『ゼロですよ...何か文句がありますか!?』


『私の一匹目はみんなで釣ったものですから、部長はゼロじゃないですよ』


『ランちゃんはやっぱり優しいねぇ〜』


 部長が私を抱いて頭を撫でる。少し恥ずかしいが、やっぱり安心する。


『おし!そろそろ戻るか』


 戻ったら早速BBQの準備を始める。

 まずはキャンプ場の水場で肉や魚の下処理をし、まな板の上で適当な大きさに切る。ここは火の利用可能なキャンプ場なので、テントに戻って炭に火をつけ網を温める。


『よし、じゃあ焼くぞ!!』


『待ってました!』


 先輩が手際良く食材を焼いていく。どの食材も美味しそうだが、やっぱり一番目を惹くのはあの肉だ。肉汁の弾ける音が食欲をそそる。


『肉焼けたぞー。タレはそこにあるから好きに使ってくれ』


『先輩の分も取っておきますね』


『お、サンキュー!』


『先輩!!先食べててもいいですか?』


『お前はせっかちだなぁ...まあいいぞ。俺もこの玉ねぎ焼き終わったら食うからさ』


『やったー!いただきます!』


 部長がいち早く肉にかぶりつく。私も後に続いた。噛んだ瞬間肉汁が溢れ出す。思ってたよりも柔らかい。これは確かに"高級"だ。


『おいしいね!ランちゃん!』


 部長が弾ける笑顔をこちらに向ける。


『はい、美味しいです』


 私も笑顔で返事をする。


 今日はいつもより笑顔になることが多い気がする。私は今、楽しんでいるのだろうか...きっとそうなのだろう。だってそうじゃないなら、

 こんなにも、心が軽くなることはない。


 あ————


 風が吹く。

 かぶっていた麦わら帽子が空高く舞い上がった。



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