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アイの独白  作者: 川口 黒子
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夏の暑い日

 

「 ピピピ、ピピピ———


 うるさい目覚ましの音で私の1日は始まった。時計を見ると、もう7時を回っていた。どうやら昨日の夜、おじいちゃんと電話した後、1日の出来事をメモにまとめていたら、そのまま眠り込んでしまったらしい。


『おはようございます、ラン様、朝食の準備ができております』


 私の食事はいつもロボットに作らせている。実家から離れて、ここ士富市に来たとき、最初に驚いたのがコイツだ。

 なんと一家に一台無料で提供しているらしい。家事全般を全てやってくれるが、目覚ましの機能は正直いらない。朝起きたら必ずこいつが目の前にいるのはあまり気持ちの良いものではないからだ。


 椅子に座り、皿に乗せられた目玉焼きをかき混ぜる。


 目玉焼きは好きではないが、ロボットに文句を言っても仕方がない。

 黄身と白身が混ざったところで、そこに醤油を垂らす。

 それらを焼かれた食パンの上に乗せ、かぶりつく。これで少しは美味しくなる。


 食パンから垂れた黄身を拭くついでに、リモコンでテレビをつけた。


 内容はいつも通り、必ず当たる天気予報やくだらないニュースを流してる。昔と違って、テレビも随分と見やすくなった。正確にはCMが無くなったのだが。


 朝食を食べ終え、時計を見る。


 時刻は七時三十分、そろそろ出ないとまずい。


 急いで準備して玄関を出た。


『いってらっしゃいませ。ラン様』


 私は一瞬振り返ってすぐに前を向く。

 外は真夏の日差しが容赦なく降り注いでいた。


(暑い......)


『AI、日陰のある道で、駅までの最短ルートを教えて』


『了解しました』


 都市管理型自己演算プログラム、通称AI


 100以上ある管理都市を全て管理、運営、発展させている。我々人類を超えた存在だ。私たちはAIにいつでも監視されている。

 どのような行動をとるのか、どういった思考をしているのかその全てを分析し、予測する。そして私たちの望む未来を提供してくれる。

 恐ろしいのが、都市にいる人々全ての願いを矛盾無く叶えてしまうことだ。もし、同じ会社で二人の人間が社長になりたいと望めば、二人とも社長になることさえ可能にする。

 今私が話しかけているのは、そんなAIの端末みたいなものだ。聞かれたことはなんでも答えるし、時折話し相手にもなってくれる。


 AIの指示に従って道を歩く。案の定日陰が多くて涼しい。セミのうるさい鳴き声がコンクリートに響く。今も昔も夏の風物詩は変わらない。


 駅に着き、改札を通って電車に乗り込む。AIが乗車時間、場所、人数を管理しているので座れるぐらいには空いている。

 電車も時代が進むにつれ進化していき、ガタンゴトンという擬音語はもはや過去のものとなった。

 電車のドアに寄りかかり、外の景色を見る。

 空中タクシーが空を飛び、荷物を抱えたドローンがあちらこちらに浮遊している。この都市から一歩でもでたら、この光景は見られない。


(おじいちゃんも来たらいいのに...)


 —————まもなく、士富高校前


 駅から出てすぐに、重要なことを思い出した。

 今日の集合は八時だ。三十分早いのだった。


 現在時刻、ちょうど八時。


 確定で遅刻なので、近くのコンビニで差し入れを買ってなんとか許してもらおう。


 そう思い、目の前にあるコンビニの中に入った。

 店内に人はいない。いるのは接客用ロボットだけだ。AIが望む未来を叶えてくれるのに、わざわざコンビニで働こうと思う人はいないのかもしれない。

 頭の端でそんなことを考えながら、先輩への差し入れを選んでいる。


(暑いしアイスとかがいいかな)


 手頃なアイスをいくつか買い、走って学校へと向かう。

 校舎が住宅街の中にあるため、道が入り組んでおり、信号機も多い。やっと着いた頃には、準備はもう始まっていた。


『お、やっと来たか!遅いぞラン!』


 意外な人物が校門前で作業していた。彼の名前は松尾ユウキ、私の二つ上の先輩でノベル研究同好会、略してノベ研の元部長だ。気さくで話しかけやすく、ホラー系の小説が好みだ。

 先輩はもうそろそろ受験のはずだが、なぜか校門前にいる。


『差し入れ持ってきたんで許してください』


 先輩は差し入れのアイスを見るとすぐに機嫌を直し、手を動かし始めた。


『それで、、先輩は何をしてるんですか?』


『うん?ああこれか、友達に手伝って欲しいって頼まれてさ、この大きさだから外でやるしかなかったんだよ』


 先輩が描いているものを見ると、そこには『士富校祭』の文字が塗られていた。


 士富校祭はこの高校創設以来おこなわれているお祭りで、各クラス、部活動が毎年個性的な出し物を出しているらしい。しかも文化系の部活に関してはここでアピール出来なければ存続が危うくなる部もあり、まさに我らがノベ研がそれに当たる。


『じゃあ俺はこれを終わらせてから向かうから先に部室に行っててくれ』


『わかりました』


 先輩と別れたあと、私は校舎一階にある部室へと足を運んだ。




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