二階の事件5*他者視点
『はぁ、はぁ、はぁ、』
足が重い。息が辛い。それでも走らなきゃ。もう、迷惑はかけられない。
後ろを振り向く。あの白い女はまだ追いかけてくる。手には縄らしきものを持っている。ふと、アレで首を絞められている自分の姿を想像してしまった。今は何も考えないようにと首を振って、なるべく調理室から離れるために足を動かした。
とうとう一階へ続く階段まで来てしまった。
(どうしよう、、このままじゃいずれ...)
一階に降りる間もなく、白い女は容赦なく襲いかかってくる。
(こうなったら、、!)
縄が首に巻きつく寸前に縄を思い切り引っ張り、離れた縄を逆に女の首に巻きつけた。
『ジャーンプ!!』
そのまま手すりからおどり場に飛び降り、宙づりの状態になる。縄はわたしの体重で女の首を絞めているはずだ。
『わっ、』
数秒後、縄が突然緩み、わたしはそのまま一階に落ちた。
『うう...痛い...』
二階に上がると、白い女の姿は無く、首を絞めていたはずの縄だけが残されていた。
(やった...わたし、ひとりでも倒せた!)
そう思い、心の中でガッツポーズをする。しかしこの時自分でもどうしてこんなに上手くいったのか不思議に感じた。いや、だけど倒せたのだ。倒せたなら良し!
『早くみんなのところに行かないと』
一応護身用に縄を持ち、急いで調理室に向かう。
調理室に向かっていると、赤い字が書かれている教室の前で誰かがうずくまっていた。
『...ランちゃん?』
あの服は間違いなくランちゃんだ。だけど様子がおかしい。顔は青ざめているし身体は震えている。しかもブツブツと何かを呟いている。
『ランちゃん、大丈夫?』
『私じゃない、、死にたくない、、怖い、、うるさい、、もうやめて、、』
わたしの存在にすら気がつかずに、まるで何かに怯えるようにして耳を塞いでいる。
『おーい、ココローランー無事かー!』
すると、先輩が調理室の方から走ってきた。
『先輩!!』
『まったくびっくりしたぜ。調理室に行っても誰もいないんだからな』
『それよりも先輩、ランちゃんが...』
『...!おいラン、どうしたんだ!』
先輩はすぐに異変に気がつき、ランちゃんの前にしゃがんで肩を揺すった。
『ラン、しっかりしろ!』
先輩の声もランちゃんには届いてないようだった。どうすればいいの?どうすればランちゃんを落ち着かせられる?そう考えるよりも先に、わたしはランちゃんを抱きしめていた。
『大丈夫、あなたじゃない、怖くないよ、わたしと先輩が側にいるから、大丈夫、大丈夫、』
震えてるランちゃんの背中を優しく撫でながら、大丈夫だと何度も言い聞かせた。拙い言葉だけど、精一杯言葉を紡いだ。ランちゃんの心臓の異常なほど速い鼓動を肌で感じる。それでもわたしは必死に抱きしめた。
『——あ———あ』
わたしの鼓動とランちゃんの鼓動が一つになっていく。
『う——ううぅ』
今日、ランちゃんは初めて、私たちの前で涙を流した。わたしの肩に顔をうずめて、鼻水をすすって、大泣きした。
この時、心の中で安堵している自分がいた。自分だけじゃなかった、ランちゃんもホントは怖かったんだ、そういう不純な安心感が心の片隅に湧いて出た。けれど、それだけじゃない、それだけじゃないとわたしは自分に言い聞かせる。ランちゃんが初めて、自分の感情を表に出してくれた。そのことに対する喜びも、きっとある。先輩もどこか嬉しそうだった。
わたしは黙って、ランちゃんを抱きしめ続けた。




