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アイの独白  作者: 川口 黒子
11/30

図書館2

 


《有り難う御座いました。またのご利用をお待ちしております》


 バスから降りると、ムワッとした暑い空気が私たちを包み込む。そんな空気に辟易しながら、AIが示すルートに従って歩く。途中から森の中に入ったので、刺すような熱い光から少し逃れることができた。そのまま歩いていくと、少し開けた場所に図書館はあった。時代にそぐわないその外観は、まるでそこだけ時が止まったかのようだった。


『今どき図書館に行くなんて私たちぐらいだよね』


『はい、けど"1956年に起きた事件"をスマホで調べてみても何も出てこないんです』


『それは妙だな』


『ええ、なので結構昔の新聞も保管してあるこの図書館に行こうと思ったんです』


 この図書館は士富市が再開発される前からある。洋館風の建物で、昔は多くの人が利用していたが、AIが導入されてからは段々と減っていった。今では歴史的建造物としてなんとか形を保っている。


 中に入ってみると、予想通り人はいない。木製の棚に多くの本が並べられている。


『なんだか薄暗いね』


 明かりは節電のためか所々ついていない。私たちは物珍しい本を横目に本の貸し出しを行うエリアへ行く。


『おいラン、新聞探さなくていいのか?』


『大丈夫です、事前に探しておいてもらってます』


 その場所に着くと、老眼鏡をかけて本を読む老人がカウンターの椅子に座っていた。私たちに気づいたのか、老眼鏡を外して本を閉じた。


『やぁランちゃん、待ってたよ』


『久しぶりですね、おじさん』


 前にあったのは五年くらい前なので、おじさんの笑顔を見て、なんだか懐かしい気持ちになる。


『...おいラン、この方は誰だ?』


『私の伯父にあたる人です』


 おじさんは早速新聞を保管してある場所に連れて行ってくれた。


『新聞なんて随分昔のメディアだからね。最初はどこに保管してたか忘れていたよ。まぁ保管してある場所は分かったから、後は自分たちで欲しいものを探してくれるかい?』


 案内されたのは、図書館の裏にある、大きな蔵の中だった。その中には多くの古い雑誌や新聞が保管されていた。


『まだこんな古い建物が存在していたんですね』


 驚きのあまり、若干失礼な発言が部長の口から漏れた。



 私たちは手分けして1956年に発刊された新聞を探すことにした。しかし、ここには他の雑誌や文献が多くあるのでその中から新聞を、ましてやかなり古い年代のものを探すのは苦労する。


 やっと新聞が集められているファイルを見つけた頃には、すでに十二時を過ぎていた。


『皆さん、そろそろお昼なのでおにぎりでもどうですかな?』


 有り難いことに、おじさんが昼食を作ってきてくれた。私たちはご厚意に預かり、一旦休憩をとることにした。おじさんからおにぎりを二つ受け取り、蔵の外にあるベンチに腰掛ける。


『ランちゃん、探し物は見つかったのかい?』


『まだですが、あと少しで見つかりそうです』


『そういえば、伯父さんはいつからこの図書館にいるんですか?』


 部長が率直に質問する。


『そうだねぇ...この都市がまだ"町"だった頃にはもう働いていてたよ。昔は私以外にもここで働いていた人もいたんだけどねぇ、次第にみんな辞めるか別の新しい図書館に行ってしまったよ』


『そうなんですね...』


『けど寂しくはないよ。今でもこうして来てくれる人達がいるからね』


 そう言うと、おじさんはこちらを向いてニコリと笑った。


 都市開発は確かに私たちの生活レベルを上げ、私たちの未来はより明るくなった。しかしその背景には失われた"何か"があったのかもしれない。


 そんなことを考えながら、おじさんの作ってくれたおにぎりにかぶりつく。美味しいけど、


 少ししょっぱかった。


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