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試作00号「プロローグ」

 昼の鐘が鳴る。

 私は全身から汗を噴き出していた。

 

「まずいまずいまずい、チクショウがァァ!」


 流れる汗もそのままにとにかく全力で走るしか無かった。

 

 私は顔を真っ青にしながら改良型ライフルを背負って坂路を登る。

 というのも今日は最新型銃の実機テストの日だったが、改良に熱中しすぎて過労でぶっ倒れた。

 目を覚ました頃にはその大事な大事なテストに遅刻していた。

 予定ではまだギリギリやっているはずだ。最後の希望を託して私は射撃場へと向った。

 


 

 なんとか射撃場に到着すると、私の姿を見て一人の女性が詰め寄る。


「カメリア! あなた体は大丈夫!?」

「すまん!! これを作っていたんだ――」


 彼女はグレイ・ノーザンバーランド。ノーザンバーランド公爵家の四女だ。銀の髪に灰色の瞳は心配そうだった。原因はいたってシンプル、私が過労で倒れたからだ。


「それは、試作品じゃない?」

「ああ、銃身と弾丸を改良した。テストをお願いしたい」

「そもそも安全テストはまだなんでしょ?」

「まだだ」

「じゃあ、直ぐには無理よ」


 グレイの言うことはもっともだ。

 暴発の危険があるため、まずは安全性を証明する必要がある。


「そこをなんとか」

「あなたが撃つなら話は別だけど。私の友人をそんな危険を冒させるのは止めるわよ。それにあなたは銃を作るのが得意でも銃を撃つのはあまり得意ではないのでしょ?」

「それは……」


 私は言い淀んだ。テストに間に合わせられなかった私が悪いのは自明だ。それでも割り切れない感情があった。銃職人としてのプライドがそこにはあった。

 

 引き下がれない。下がりたくない。

 

 グレイの指摘は正論だ。だが刃向かう。

 

「Wait、グレイ様、不躾ながらご提案があります」


 私とグレイの間に入るのはグレイの親友であり腹心のビリジアン・ローゼンタールだ。

 深い緑の美しい髪に毒々しいほど鮮烈な紫の光彩を光らせている。何よりも特徴的なのが縦長の瞳孔だ。ヘビや肉食獣のようにも見えるがそれがビリジアンという人間をただの美人から引き込まれる美人に昇華している。


「聞きましょう」

「Good、その射撃テスト、射手を私にさせて頂きたいです」

「危険よ! 安全テストを通過していないのよ!?」


 ビリジアンは私が握っていた銃と弾を取ると、テストの準備を始めた。


「ビリジアン、言うことを聞きなさい!」

 

 

「No problem、グレイ様、失礼ながらカメリアの銃なら大丈夫です」

 

 

 紫の双眸が細くなった。ビリジアンは本気の目をしていた。すぐにその表情は解けて優しい表情でニッコリと笑った。

 

「おいおい、これは何の騒ぎだい?」

 

「そうよ、今更……ってカメリア、一体どこで何をしていたの?」

 

 グレイとの騒ぎを聞きつけて二人の女性が来る。ブラック・ヴェルヴェットとヴァーミリオン・シンギュラリティだ。

 

「カメリアが遅刻した理由が、この新型銃の作っていたからなの、それで安全テストもまだなのに実機テストして欲しいって言うのよ。そしたらビリジアンが射手を務めるからテストさせてくれって言うのよ」


 グレイはため息をつきながら二人に事情を説明していた。

 勿論二人それぞれ意見は出るのだが――。

 

「良いじゃないか、片付け途中だがテストしてしまおう! 面白そうだ!」


 ブラックは淀んだ目を輝かせて嬉々として言った。

 

「ダメね。安全性が保証されていないものなんて危険過ぎる。せめて内部を精査してからよ」

 

 ヴァーミリオンは否定的だった。

 私とビリジアンとブラックがテストに賛成。

 グレイとヴァーミリオンが反対になった。

 

「はぁ……わかったわ、じゃあ1発よ1発だけの試験よ」


 グレイが折れて1発だけ試験を許してくれた。


「ありがとうございます」

 

「ただし、的は私がふざけて設置した1000ヤード先のあれしかないわ」


 グレイは遠くにあるごま粒ほどの陶器の皿を指差す。

 

「それは意地が悪過ぎじゃ無いか?」


 ブラックはグレイに対し言う。

 

「大丈夫」

 

 私は即答した。

 根拠は無い。

 

 ただ、ただ私は不思議と確信していた。

 

 誰にも成し得ることが出来なかった60ヤードの壁を大きく超える1000ヤードの壁を越えることを――

 

 

 ビリジアンは静かにターゲットを見据える。彼女の神経が張り詰めていくのがわかった。


 静寂、風の音だけが聞こえた。

 

 彼女は呼吸を浅くし、引き金に指を掛ける。ゆっくりとよく狙う。

 

 彼女の瞳孔がキュッと細くなる。

 

 指がトリガーを絞るように引く。

 

 撃針が雷管を叩く。

 衝撃を受けた雷管が薬莢内にある火薬に火を付ける。

 薬莢内部がガスで満たされると圧力に耐えられずドングリの実のような形状の弾頭が押し出されて飛び出す。

 

 普通の銃ならただ飛び出すだけだ。

 

 だが私の銃は違う。

 

 銃身内部に刻まれた数本の緩やかな溝に弾頭が食い込み溝に沿うように弾丸が横回転する。

 回転しながら銃口から飛び出した弾丸は空を裂くように飛んでいく。

 

 だが標的である皿は割れていない。

 

 その場にいた誰しもがダメだと確信した。絶対に届くはずがない距離だ。

 

 ただ二人を除いて誰もが諦めかけていた。

 

「Perfect」

 

 ビリジアンは呟く。

 

 パリンと音が鳴った。

 

 

 グレイは双眼鏡で標的を確認する。

 

「うそ……」

 

「見せなさい」


 ヴァーミリオンがグレイの双眼鏡をかすめ取り、確認する。


「嘘……でしょ……」

 

 

 

 

 この物語は私たち五人が、銃を進化させてアガスティア皇国を戦火から守るお話。

 

 誰も死なず、誰も血を流さない。戦争を回避した銃職人(ガンスミス)の物語だ――。


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