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短編の連載版です。
ここからが、新しい話です。
どうぞよろしくお願いいたします。
「ルー、聞いてくれ」
私の手を握ったままのルートヴィヒが、額がぶつかる程に顔を近づけてそう言った。
それは馬車が屋敷内に入り、やっとこの空間から抜け出せると、私がホッと息ついた瞬間だった。
あまりの顔の近さに、私が緊張して固まっているのを、話に夢中なルートヴィヒは全く気付いていない。
「前世で例えるなら、俺達がさっきまで相手にしていた馬鹿は、一発屋だ。だが俺が今から挑む相手は、大御所の中でも最高位のドンに位置する。ドンだけでも強敵なのに、まだ他にも敵はいる。大河ドラマの主演が決定した、今を時めく実力派若手俳優と、国民的アイドルだ。分かるな?」
分からない……。例えが、ひねり過ぎだと思う。もっとストレートにお願いします。
私が首を横に振ると、ルートヴィヒは一度咳払いをして仕切り直す。
「要は、ルーの守りは鉄壁なんだ……。それでも俺は鉄壁の守りを切り崩し、ルーと結婚する権利を得たい。絶対にルーを幸せにする! そのために、ルーに一つお願いがある。恥ずかしいのは分かるけど、何とか頑張って俺の事を『ルーイ』と呼んでくれ。最強を誇る壁を破るには、正攻法だけでは無理だ。先制攻撃と合わせて、奇襲攻撃が必須なんだ」
真剣な顔で必死に訴えるルートヴィヒに、思わず疑問を投げつける。
「え? 愛の告白? 何かの攻略? どっちなの?」
「……。愛の告白で、ルーを魔王達から奪う戦略だ。こんなことを言ってる俺だって、十分恥ずかしい……」
でしょうね……。つられた私も、十分恥ずかしいです。
夕暮れのひんやりした空気が、私達の真っ赤な顔を冷やしてくれる。
鮮やかな茜色の夕日は沈んだけど、空はまだ夜に染まっていない。太陽の名残の茜色が、夜の始まりの藍色を照らしている。
卒業パーティーでの不愉快な出来事も忘れさせてくれる、美しい空の色だ。
ルートヴィヒは私の右手に手を絡め、一度深呼吸をすると玄関に向けて歩き出した。
我が家は古い。この場合、古いとぼろいはイコールではない。我が家の古いは、歴史の重みだ。
何代か前の王族も無能すぎて、平民が暴動を起こし、当時も宰相だった我が家に、暴徒が押し寄せたこともあったそうだ。
そのせいなのか、我が家はまるで要塞のようだ。正面玄関側には大きな窓はなく、全てを跳ね返す一枚の大きな壁が、そびえ立っているように見える。壁の中央に鎮座する、入り口のドアは、もちろん分厚い鉄製だ。
その分厚い鉄製のドアが、開けてもいないのに勝手に開いた。
開いた先では、家族が出迎えてくれている。
左から二つ年下の弟、ギルベルト。緩いカールがかかったダークブロンドの、少し長めの短髪だ。前髪の下から覗く瞳は、真ん丸の紺色で、本当に可愛らしい弟だ。天使の様な愛らしい顔立ちなのに、既に私より大分背が高いのは、お姉さん悲しいです。
ギルの隣は母のユリアーネ。遠くの大陸から海を渡って嫁いできた母は、真っ直ぐな亜麻色の髪に大きな紺色の瞳をしている。『ローゼンベルク家で一番美しい宝石』と呼ばれるほど、息をのむ美しさだ。愛情深いけれど、同じだけ厳しい母です、怒らせてはいけません。
母の隣は父のギュンター。豊かなダークブロンドは、まるで軍人と見間違えるくらい短く刈られている。そして身体も軍人と見間違えるくらい引き締まっている上に、大きい。新緑色の瞳は常に厳しい光を称え、決して嘘や怠慢を見逃さない。
癖の強い一族をまとめ上げる事業家として、世界を股にかけて貿易をしている。他にも色々あるらしいけど、詳しい仕事の内容については知らないのです。ほら、私、王太子に夢中だったから。
父の隣が五つ年上のアロイス。父と瓜二つの見た目で、違いは髪が長いか短いかだ。兄の場合は、豊かに波打つダークブロンドが、後ろで一つにまとめられている。
ローゼンベルク家の跡取りらしく、何カ国語も操り常に外国を飛び回っている。宰相職もある父の分もカバーしているらしく、本当に家にいない忙しい人だ。
お父様の瞳だけがギョロリと動き、握り合う私達の手で止まる。
ルートヴィヒも気づいていて、手に力が込められる。
何だろう? この圧力。四人から禍々しい圧を感じる。
さっきまで火照る頬を冷ましていたように、春の陽気も日が落ちれば肌寒くなる。それがどうです? 今は火事場に立っている心境。前方が燃える様に熱い。
ギルが「お帰り、姉様」と言って私達の前に立つと、天使の微笑みを絶やさずに、私達の手の隙間に手刀を入れた。
「わっ! ちょっと……」
抗議をしようと思った時には、家族の側に立っていて、私より先にお父様が口を開く。
「娘を送っていただき、ありがとうございます。お気をつけてお帰り下さい」
全然ありがたくなさそうだし、お腹に響く低い声、怖い。小学生くらいなら、声を聞いただけ無条件で泣き出すレベルだよ。
お父様がマイスリンガー国の王太子を知らないはずがない。わざとやっている……? ルートヴィヒが言った『ルーの守りは鉄壁』という言葉が浮かんだ。
害を成す者は、私に近づけないように、家族が阻んでいる? 家族が私を、守ってくれている?
私は家族に守られてきたのか。友達もできないほど勉強三昧だと思ったけど、私を守るためだったのか。
王太子が私に見向きもしない状態なのに対し、私は馬鹿みたいに入れ揚げているのだから、他の令嬢達から見れば、私はさぞ滑稽な存在だっただろう。うっかり輪に入ったら最後、王太子に見下された間抜けな婚約者として、笑い物にされるのは目に見えている。
だから私は、必要最低限の社交だけをこなせばよかったんだ。
私を傷つけようとする者を、家族が遠ざけていてくれたんだ。
まぁ、私を一番傷つける奴には、自分からのこのこ近づいてしまったんだけど……。家族の努力を無にして、申し訳ない……。鉄壁の守りなのに、自ら進んで穴を空けるなんて……、居たたまれない……。
守ってもらっている事にも気付けない愚かな私なのに、家族の鉄壁の守りは継続されている。そして今は、ルートヴィヒが、家族のアラートに引っかかっている。
「お父様、ルートヴィヒ様は、卒業パーティーでわたくしを助けて下さいました。ルートヴィヒ様がわたくしに手を伸ばして下さらなければ、今頃わたくしは道化役として嘲笑の的でした」
私の言葉に、お父様の右眉がピクリと上がり、お母様の扇子の金具が飛んだ。兄様は笑顔なのに、なぜか忌々しそうな歯ぎしりの音がする。ギルの天使の微笑みからは、「拷問一択だな」と恐ろしい言葉がこぼれた。
こんなに鉄壁なのに、どうして今まで気が付かなかったのだろう? 恋は盲目って本当なのね……。
「ルートヴィヒ様、我が家の焼き菓子は絶品です。是非食べて行って下さい」
私が無邪気を装って言うと、お父様が渋々一歩下がり、他の三人もそれに倣った。今までは門番さながらに四人が立ちはだかっていたから、やっと家に入る隙間が確保できた。
「是非そうさせてもらおう。ルーのおすすめを教えてくれ」
「!……」
「……」
「なっ……」
「はぁ?」
愛称呼びで四人が動揺している隙に、ルートヴィヒは侵入に成功した。作戦通りってこと?
サロンでお茶を飲む、私達六人。大きな長い机に左からギル、母、父、兄。四人の向かいに、ルートヴィヒ。なぜか私はお誕生日席です。
ルートヴィヒが甘い笑顔で、「ルーのおすすめは?」と聞いてくる。正面からの射殺すような視線は、気にならないの? 私は胃がキリキリ痛いけど、大国の王太子はメンタルがお強い。
「わたくしはこの、エンガディナーがお気に入りです」
ルートヴィヒは、取ってくれとばかりに動かない。どうしようかと周りを見るも、使用人達も他国の王太子相手に身動きが取れない。
家族の圧に押される私は引きつる笑顔を浮かべて、ルートヴィヒのお皿にエンガディナーを置いた。
あちらに鎮座している四人は、やっぱり魔物ではありませんか? 真っ黒な圧が絶え間なく襲って来てますよ。人間如きでは目を向けることも叶いません。
ルートヴィヒは全く顔色を変えることなく、「うん、ルーの言う通りだ、美味しい」と私に笑顔を向ける。そして瞳の端に「そろそろだ」と、こっちからも圧をかけられる。
どうして私は、こんな事になっているのだろう?
考える間もなく、ここまで流されてきてしまった。でも悪い気がしないから、困ってしまう……。前世は恋愛なんて面倒くさい派だったはずなのに。気が付かなかっただけで、実は私って恋愛馬鹿だったの? きっとそうなんだ! やけくそだ!
「……ル、ルーイの口に合って良かったです」
顔が燃える様に熱い。ドレスを握り締める手は、汗だくだ。恥ずかしすぎる、気を失いたい。
居たたまれない私とは異なり、家族の方ではガッシャンガッシャンと、何かが割れる音がする。愛称呼び効果は、抜群のようです。
ルーイは顔を赤くして、嬉しそうに微笑んでいる。
ちょっと、自分で呼べって言ったよね? 貴方が堪能して、どうするんですか? そういう顔されると、つられてしまうじゃないですか!
耳にまで熱を感じたところで、急激な冷気が流れ込んできた。冷えるを超えて、凍る……。
冷気の元を辿ると、ギルが粉々に粉砕されたカップの持ち手だけを持って、天使の笑みを浮かべている。
「このタルタロのカップは、ヒビが入っていたのかな? 人もこんな風になるのかな?」
ならないから、止めて!
カタンと音がする方に目をやると、兄のカップが真っ二つに割れている……。
「本当だな、私のも壊れた。良い品と聞いていたが、評判とは当てにならないものだな。でも丁度いい。ルイーサの華奢な手には、薄く滑らかで上品なカルロイのカップがよく似合う。すぐに買い付けてこよう」
兄様、ニッコリ微笑んでいますが、目が据わっていますよ。
何を隠そう、兄様の発言はルーイへの痛烈な嫌味だ。
マイスリンガー国には、タルタロという陶磁器の名産地がある。タルタロのティーセットは、この大陸で一番有名で人気の商品だ。そのタルタロのティーカップではなく、別のものが私に似合うと言っているのだ。ルーイには私を渡さないと、宣戦布告したも同然だ。
「カルロイも素晴らしいが、タルタロにもルーに似合うものが多い。一緒にタルタロに行って、ルーがデザインしたティーセットを作ろう。もちろんローゼンベルク家にプレゼントする」
わぁ、当然ルーイも応戦しますよね……。
もはや、ここは戦場だ。
「ローゼンベルク家は、マイスリンガー国の王太子からの施しを必要としていません。他の望まれる方に、してあげて下さい」
あれ? 目が霞む? ギルの笑顔が、天使に見えないな、何だか黒い? ギルの羽は黒いの?
「ルー以外の誰に望まれても、私の気持ちは動かない。私が何かしたいと望むのは、ルーに対してだけだ。残念だがローゼンベルク家では、ルーがデザインしたティーセットが不要か。ならば私達二人で使おう」
ルーイが私に向かって、甘く微笑む。
甘すぎるんです、慣れてないんです。本当に不慣れなんです。
甘いのと、凍るのでのコラボとか、本当に要らないんです。
ギルは「へー」と微笑みながらも、目元がピクピク引きつっている。
これは、一触即発じゃないですか? どうしよう、どうしたらいい?
「少し、落ち着きましょうか?」
優雅に紅茶を飲んでいた母が、目を細めて兄様とギルを一瞥すると、二人は気まずそうに視線を下げる。それを確認した母は、最後にルーイに視線を合わせる。
「卒業パーティーの話は、全て聞いております。ルイーサが望むならと、馬鹿共をのさばらせたのは、わたくし共の落ち度。ルイーサの心を守っていただき、殿下には心よりお礼を申し上げます」
母が穏やかな表情で深々と頭を下げる。
しかし、顔を上げた母の表情は、厳しいものに一変していた。
全てを見透かすような、冷たい視線をルーイに送る。
「それで? 殿下は我がローゼンベルク家に、何をしにいらっしゃったのですか?」
さすがお母様、直球!
お礼を言ってやったんだから、用が済んだら帰れと言わんばかりだ。だけど直球勝負なら、ルーイも負けていない。
「ルイーサを私の妻にしたい。ローゼンベルク家の了承を取りに来た」
椅子が吹っ飛ぶ音がして、兄様とギルが怒りを露わに立ち上がる。
母にゾクリとする殺気立った声で「座りなさい」と言われた二人は、戦意を喪失して椅子に座り直した。
母は見る者を凍らせる、美しい微笑みをルーイに向ける。
「お言葉ですが、ルイーサは、今はまだクライン国王太子殿下の婚約者です。そのような話は早すぎるかと思います」
「我が国の王太子が各国に留学する本来の理由を、ローゼンベルク家なら把握しているのだろう?」
「隣国と連携を取るべく殿下自身の人脈を作ること、各国の情勢を見極めること、生涯の伴侶を探し出すこと」
父が渋い顔で答えると、ルーイはニッコリ笑う。
「さすがローゼンベルク家だな。なら話が早い。私はルイーサという生涯の伴侶を見つけた。これほど聡明で美しく、上に立つ者としての品格を備えた女性は他にいない。王妃としての心得を備えているだけでなく、自由で強いのに、少し流されやすくて抜けている可愛い面も併せ持つルー以外との将来など考えられない。私が必ず幸せにする。だからルイーサを私の妻にする許しを頂きたい」
ちょっと……。今日はとんでもない一日じゃないですか?
婚約破棄され、前世を思い出し、断罪され、ざまぁして、告白され、たった今熱烈に求婚されました! 嬉しいです。嬉しいですけど、これ一日で体験することかな?
気が付いたらロケットに乗ってて、一気に大気圏超えてしまった感じのスピード感。ちょっと、ゆっくり考える時間が欲しい。
どうやって自分の気持ちを伝えるかを考えて顔を上げると、お父様と兄様とギルが、怒りで顔を歪め、血走らせた目を見開いてルーイを睨みつけています。ギルなんて歯を剥き出してる。
一人冷静な母が、ルーイに答える。
「殿下のお気持ちは分かりました。ですが先程も申し上げた通り、ルイーサは婚約者がいる身です。この問題が解決するまで、ローゼンベルク家としては、返答はできません」
そうね、お母様の言う通りだ。正式に婚約破棄ができていない状態で、ルーイの申し出を受けてしまえば、馬鹿との婚約破棄の非が、ローゼンベルク家にあることになってしまう。
「もちろん理解している。私もルーやローゼンベルク家の評判を落としたいわけではない。ただ早く私の意思を伝えておきたかっただけだ」
ルーイはそう言うと、意外にもあっさりと引いた。
帰る間際に「思わぬ伏兵がいた。まさか女帝が隠れているとは……」と、意味不明な呟きを残して、自分の馬車で帰っていった。ホッとしたような、寂しいような、複雑な心境だ。
しかし疲れた。当初の予定通り、ベッドにダイブだ。後のことは明日考えよう。
しかし、ルーイの見送りを終え、自分の部屋へ向かう私は、ニッコリと微笑む母に連れ去られた。
夜は長いようです。
私の部屋の応接セットでお母様と向き合って座っていると、つい憧れの地に目がいってしまう。目の前にベッドがあるのに、近くて遠い……。
お母様が辛そうに顔を歪める。
「卒業パーティーのことは聞いているわ。辛い思いをさせて、ごめんなさいね」
「……」
お母様が、頭を下げている? なぜ?
「お止めください、お母様。全てはわたくしの不徳の致すところ。十年もの間、熱病にうなされ、無駄な時間を過ごしたわたくしこそ、本当に申し訳ございません」
私の方が頭を下げるべき人間だ。しっかりとお母様に向かって、謝罪を込めて頭を下げる。
「頭を上げなさい、ルイーサ」
恐る恐る顔を上げると、お母様が困り果てた顔で微笑んでいる。
「ルイーサ、本当にこの十年、長かったわ。貴方ならいつか気づけるはずと信じていたけど、十年は、長かった……。あのカスに対するルイーサの気持ちは、無駄よ。だけどね、この十年で身に付けたことは、無駄なものは何一つないわ。これから貴方を助ける武器になる」
本当に十年も、長く辛い思いをさせてしまった。この話をする一瞬、お母様が老け込んだように見えた。
「わたくしが貴方に頭を下げたのは、カスを野放しにしていたからなの。貴方に一日でも早く目を覚まして欲しくて、貴方がいつでもカスの本性に気付けるように、あえて制裁を加えなかったの。でもそのせいで今日は、ルイーサが酷い目に遭ってしまったでしょう?」
「この十年、お母様達に辛い思いをさせてきました。わたくしが受けた仕打ち程度で、自分の過ちが許されるとは思えません」
「それは違うわ、ルイーサ。確かに貴方は、ちょっとだけ、間違えたかもしれない。若い内なら誰にでもある過ちよ。許されない過ちを犯したのは、あのカスよ! フフフ、ちゃんと償ってもらいましょうね」
怖い! 背筋が凍るほど、凄惨な微笑み……。
何かを思い描いて遠くを見ていたお母様が、私を見て穏やかに微笑む。
「目が覚めて、ルイーサは変わったわね。前より視野が広がって雰囲気も柔らかくなった。ルートヴィヒ様のお陰なのかしら?」
「まともに話をしたのは今日が初めてなのです。ですが共有できることが多く、一緒にいると心はドキドキするのですが、しっくりくると言いますか……安心します。ですが、わたくしカスに夢中でしたから、男性を見る目は壊滅的に、無いですよね……」
お互い前世持ちなのは大きい。貴族としての当たり前の事を否定してしまう葛藤を共有できる。かといって、それだけで決めてしまって、いいものか? 大国の王太子妃や王妃は、正直に言って遠慮したい。
「確かにルイーサに男性を見る目は無いわね。この十年間たくさんの事を貴方に叩き込みましたけど、一番身に付けて欲しいのが、それだったわ」
仰る通り。喉から手が出るほど、欲しいです。
「身に付き、ませんでしたね……。ルートヴィヒ様に心が動かされているのは、間違いないのです。間違いないのですが、全ての出来事が急すぎて、少し考える時間が欲しいとも思ってしまうのです。贅沢な悩みでしょうか?」
「普通の悩みよ。貴方には貴方のペースがあるのだから、無理に相手に会わせる必要はないわ。それに、ルートヴィヒ様なら待ってくれると思うわ」
「ルートヴィヒ様は、物凄く展開が早いのです。待ってくれるでしょうか?」
「確かに、せっかちね。でもローゼンベルク家が相手では、仕方ないのかもしれないわ。ルートヴィヒ様が、王妃に相応しいという理由だけで、ルイーサを妻に望んでいたら、わたくしはルートヴィヒ様を屋敷から叩き出してやったわ。だけどルートヴィヒ様は、ルイーサのことをちゃんと見ている。だから、絶対にルイーサの話を聞いてくれるわ。自分の気持ちを話しなさい」
そうだよね、流されてばかりいないで、きちんと話をしないと、いけないよね。
意気込む私の背を、お母様が押してくれる。
「幸せを手に入れるためには、受け身では駄目だと思うの。行動あるのみよ。それにねルートヴィヒ様に関わらず、貴方を傷つける輩をローゼンベルク家が許すわけないわ。貴方に何があっても、わたくし達が必ず助けるわ。だから一人で悩んだりしないで」
「はい、お母様。今までも、ずっと守られていたのに、気が付かなくて、ごめんなさい」
「あら、三人が聞いたら大喜びね。今頃三人は、王家にどんなお仕置をするか協議中よ。特に今日は、わたくしがルートヴィヒ様の気持ちを確かめたくて、旦那様には何も言わないようにお願いしていたの。旦那様は、我慢の限界よ。明日が楽しみね」
お母様は、本当に楽しそうに言うと、不敵に微笑んだ。
明日が、怖いです……。
お読みいただき、ありがとうございました




