6 シャライナの一歩
この話を、読んでくださる方々、全ての方に感謝しています。
ありがとうございます。
私は、物心ついてからの事を、話し出した。
「私は、コモヘルンデス国のタンジェル伯爵の娘、シャライナ・メルゴールドと申します。私は、小さい時から、私の国には存在しない物の話をしていた所為で、両親、兄妹から、悪魔憑きとか悪魔に魂を売ったとか言われ、居ない者として扱われていました……けれども、家族の団欒には、参加はできませんでしたが、ご飯はいただけましたし、時々は、お風呂に入ることもできました。部屋に閉じ込められていた訳ではありませんでしたから、図書室にある本で、勉強をする事も出来たんです。幸福とは思えませんでしたが、部屋などに閉じ込められる事もなかったので、酷い扱いを受けていたとは、感じていませんでした。
8歳になった次の日に、名前は知りませんが、出る時は、死んだ時という厳しい修道院に、向かう途中で盗賊に襲われ、死にたくない、まだ生きたいと思っていたら、意識が遠くなっていったのです。そして、その時に夢を見て、シャライナになる前の…前世の夢を見た事で、私が時々話していたのは、前世の話だったのだと言う事を、その夢を通して気付きました」
私は、淡々と話す事が出来た。
けれども、私は兄妹を見て、父母の愛を受けているのを見て羨ましく思い、妬み、諦めていた事は、小さなプライドが邪魔して、伝える事は出来なかった…
2人は、黙って聞いていた。
少し、時間が経って、口火を切ったのは、ルーンさんだ。
「コモヘルンデス国での悪魔って、魔族の事だよね。会った事、あるの?」と、聞いて来た。
「いいえ。私は、ほとんど家から出ずに過ごしていました。会っていたのは、家族と最低限の使用人だけです。私は、会った事も無い悪魔に、どうやって魂を売るのかな?って思っていました。それに、悪魔憑きって言われても、私は、憑いてって、お願いしてないのに…なんで皆に嫌われるのか、わかりませんでした」
そう答えると、ルーンさんは、くくくっと笑い出した。
「面白い事を言うね。まだ小さいのに…辛い生活を送って来たはずなのに、君は、どこか気力に溢れてる気がするよ。気に入ったよ。不条理な家族の中で、心が腐り落ちなくて、良かったよ」
ウールスさんは、笑っているルーンさんに向かって「魔族は、人に取り憑いたり、魂を買ったりする事が出来るのか?」と、尋ねた。
「魔族は、【 膨大な魔力を持つ種族 】で、身体の中の魔力を溜める器官が、人よりもかなり大きいし、魔力が溜まりやすい。他はあまり人とは変わらないよ。身の内に、多くの魔力があるからなのか、魔力を持たない人よりも長生きする者が多い、という特徴はあるけどね。そんな種族である魔族が、誰かに取り憑いたり、魂を買う?どうやってやり取り出来るのか想像もつかないね…理性を失う程の怒りを覚えたら、死ぬほどの呪いを掛ける事は、できるな。だが、そんな呪いは、自分に返る。自分の命と引き換えだよ。そんな事、そう簡単にできる事じゃない。普通の魔族なら…しないね」
ルーンさんは、悪魔というか、魔族に詳しいみたい。
「魔族に詳しくて、驚いてる顔だね。僕は魔族なんだよ。僕は、君に取り憑いたり出来ないし、君の魂をどうにも出来ないよ。安心して」
そう言って、笑顔を向けた。
私は、驚いた。
魔族の人を初めて見た。
ルーンさんは、すらっとして背が高く、髪の毛は、プラチナブロンドで、薄い緑の瞳で日に焼けたような肌色の、綺麗な人だ。怖い顔もしてないし、意地悪そうにも見えない。
「両親は、悪魔は大きな牛のようなツノが生えていて、太い牙のある恐ろしい顔だって言っていました。ルーンさんは、全然違います。優しい顔に見えます。多分、両親は私が、前世の話をしたから、私の事が怖くなって、そんな事を、言ったのだと思います。それに私の髪の毛、こんなに黒くて、悪魔みたいだって、言われてました。他の家族も、先祖も…あの国には、誰もこんな黒い髪の毛の人がいないから……両親に嫌われたのは、私自身のせいなんです。本当は、魔族の人は、関係ない事なんです」
そう言うと、私は俯いた。
「生き物は、生まれた時は、何も分からなくて当然なんだよ。そこから、育てる者が、その生活する世界に則して、教え育む。君の両親の育み方は、僕の好みじゃ無いけど、それは仕方がない事だ。いろんな育て方がある。“人の味の好みはみんな違う”って、諺もあるくらいだしね。君は賢く、心の優しい子だ。そして、幸いな事にまだ8歳だ。人生は、これからだよ」
ルーンさんは、優しい顔でそう言ってくれた。
「コモヘルンデス国は、黒髪はいないらしいが、スビリジーナ国は、黒髪が多いぞ。じいちゃんと俺は、髪の色が薄いが、逆にこちらでは目立っているな。この国では、シャライナの髪の事を、何か言うとは思えないなぁ。さっきの話だと、もうコモヘルンデスの家には、戻りたくないんじゃないか?どこか、行きたいところとか、あるか?」
ウールスさんは、私が悩んでいた事を、聞いてくれた。
「勿論、もう前の家には戻りたくないです。私は、あの家でいろんな事を、諦めて生きていました。私は、これから諦めないで生きていきたい。私が、働ける場所を紹介してください。そこで、精一杯生きたいんです」
今度は、正直に私の思いを告げられた。
「なら、ウールスの弟子になれば良いよ。君は、魔力の器もかなり大きくて、ウールスの仕事に、向いていそうだ。ついでに、生まれ変わるつもりなら、名前も新しくしたらどうだ?」
ルーンさんは、ウールスさんに断りも入れずに、勝手に弟子にしようとした。
「シャライナ、俺の仕事は、ノアの森に薬草や魔石を取りに行って、加工をする。そして、それを売りに行く仕事だ。嫌なら、街で女の子に向きそうな、商店の下働きを探す手もある。どうする?」
ウールスさんは、私の気持ちを尊重してくれる。心が、暖かくなった。
「私、ウールスさんの弟子になって、お仕事したいです。お願いします。私を、弟子にしてください。そして、名前も新しくしたいです。新しい私で、生きていきたい」
「わかった。今日から俺の弟子だ。だが、まず体調をしっかり整えるのが、最初の仕事だ。本格的に、仕事を学ぶのは、元気になってからだ」
「名前は、どうするんだ?師匠〜!お前が、考えろよ」
「名前か…そうだ!フルアっていうのは、どうだ?雪解けに、一番先に咲くあの花。春を告げる花だ」
「フルア。君の瞳の様に青く、小さく可憐な花なのに、雪を溶かす力強さを持ってる花。君に、ピッタリだ。ウールス、良い名だ」
「フルア…フルア。素敵な名前を、ありがとうございます」
新しい私が、今日生まれた。
最後まで、読んでくださってありがとうございました。
感謝、永遠に。(毎回、こうやって書いてるんですが、オモチャの映画の三つ目の緑の人形か!!って、思われてるかも知れませんが…毎回、本気で思ってます。読んでくださる方がいてくれてる、と思うと、嬉しい!感謝!って、言葉しか出ません。この言葉、名言だと思ってます。)