5 助けられて
読んで頂いている皆様に、感謝しています。
ありがとうございます。
目が覚めたそこは、清潔な寝具の中だった。
洗い立てのシーツの匂いと、薬草の匂いで、またうつらうつらと、微睡み始めた。
どのくらい時間が経ったのかはわからないけれど、食欲をそそる良い香りがして、私は自然と目が開いた。
「目が覚めたか?スープは、飲めそうか?」
穏やかな声が聞こえて、私はそちらに顔を向けたら、優しそうな緑の瞳の、大きな男の人がいた。
「ここは…?私は、あなたに助けていただいたのですか?」
そう言いながら、私は慌てて身体を起こした。
「無理しなくてもいい。まずは、スープを飲んだ方が良い。俺が助けてから、2日も目が覚めなかったんだ。身体に怪我はない様だから、ゆっくり休めば、元気になるだろう」
そう言って、男の人は、スープを脇の小さなテーブルに置き、私の背中に、ふわりとした暖かな上着を掛けてくれた。そして、背中にクッションをいくつか置いて、楽に起き上がれる様に整えてくれた。
今まで、そんな風に優しくして貰った事が無かったから、私は頭が真っ白になってしまった。"ありがとうございます"と、お礼を言うだけで、精一杯だ。
「俺の名は、ウールスだ」
「ウールスさん。私は…シャライナと、申します」家名は、言わなかった。私はもう、メルゴールド家の者じゃ無い気持ちになっていたから。
そんな私の気持ちを気にした風もなく、ウールスさんは、ベッドの隣に椅子を近づけて、座った。
そしてーーー
「さぁ、口を開けて」
そう言いながら、スプーンでスープを掬い、私の口元に近づけた。
え?え?この歳で、食べさせて貰うなんて、恥ずかし過ぎる。私は、首元まで赤くなるのがわかった。
ウールスさんは、そんな私の気持ちに気付かないのか、「どうした?まだ、食べられないほど身体が辛いか?」と、優しい声で、聞いてくる。
「食べさせて貰うの…恥ずかしくて…」
小さな声で、訴えてみた。
ウールスさんは、慌てて「すまない!子供を育てた事が無くて、よくわからなかった。よし、ダイニングに、行こう」そう言って、徐に私を抱き上げた。
ダイニングのテーブルや椅子は、大きくて、私では上手くテーブルの上のスープが飲めない。
ウールスさんが、「なるべく早く、シャライナ専用の椅子を作るから、今はこれで我慢してくれ」そう言って、私を膝に乗せた。
それも、小さな子どもみたいで、恥ずかしく思えたが、これ以上我儘を言える立場では無い事を思い、黙ってスープをいただいた。
スープは、色んな野菜の味がするポタージュだ。空腹感は感じていなかったが、飲み始めると、お腹が空いていたのが分かる。あっという間に、飲んでしまった。
「急に沢山食べすぎない方が、胃には良いから、もう少し経ったら、また用意するからな」
そう言って、ベッドに連れて行ってくれた。また、抱っこで…こうやって抱っこをして貰った思い出が、無かったから、照れくさい気持ちと、嬉しい気持ちが混ざり合って、心がほんわかと温かくなった。
そして、温かい気持ちのまま、また眠りについた。
あれから、何度か目が覚める度に、抱っこされてスープを飲み、身体が楽になってきたと、感じてきた。
そうすると、今まで忘れていた事が気になってきた。
私はこれからどうしたらいいか、わからなくて困ってしまった。行く予定だった修道院は、名前さえもわからない。元の家には、帰りたくない。
これ以上、ここにいたらウールスさんにも迷惑がかかってしまう。
何処にも、行くところがない…
これからの事を考えると、途方に暮れてしまう。
どうしよう………
そう思っていた時、ドアが開いて、ウールスさんじゃない男の人が入ってきた。
「お、元気になってきたみたいだね。良かったよ。ウールスの看病が、効いたのかもね。」
後から入ってきた、ウールスさんに向かって、そう言った。
「じいちゃんに、アドバイスしてもらったからな。助かった」
ウールスさんと、同じ位の年齢の人に『じいちゃん』???
私が不思議そうに思っていたら「僕の名前は、ルーンって言うんだよ。よろしくね」
そう、挨拶された。
「こちらこそ、私を助けていただいて、ありがとうございます。私は、シャライナと申します」
そう挨拶を返したところで、徐にルーンさんは、私を見て「君が、結界魔法を使ったところまで、教えてくれるかな?」と、ニコニコしながら、尋ねてきた。
「結界魔法?私……魔法を使ったんですか?」
私は、本当に自分に悪魔が乗り移ってるのかと、怖くなった。魔法の事なんて知らないのに…
『結界魔法を使った』と言われて、両親達のいう通りだったのかと、思うと手が震えた。
ウールスさんもルーンさんも、私の動揺に驚いていた。
ルーンさんは、「病み上がりの子に、いきなりこんな事を聞いて悪かったよ……ごめんね。君は、自分が魔法を使った事を知らなかったんだね……君の乗っていた馬車は、コモヘルンデス国の貴族の紋が入ってたって、聞いてるよ。あそこは、魔法を毛嫌いする国だから、魔法の事は、学ばないか…知らなくて当然だったよ。僕が考え無しだったよ。申し訳ない」
ルーンさんが、私に頭を下げて謝ってくれた。
また、ちょっと驚いてしまった。
私に対する対応が、今までと違い過ぎて、戸惑ってしまう。
「あの馬車に、1人で乗ってたの?君は、こんなに小さいのに…幾つなの?」
「8歳です。」私は、年齢の事だけ答えた。
私は、なんとなくこの人達には、私の事を正直に話しても大丈夫なんじゃないか、と思ったけど、まだ不安だった。
全部言っても、嫌わないかな…こわい。
「「8歳!!」」
2人は、息ぴったりで、また驚いていた。
『小さくないか?』
『栄養状態が、良くなかったんじゃないか?』
2人は、ヒソヒソ喋っていて、私に聞こえないようにしてたみたいだけど、聞こえてた。そうか、私は栄養状態が良くなかったのか…それで、使用人が私の事を、 “ 骨っ子”って呼んでたんだ…納得した。
ふと、夢で誓った事を思い出した。
【 後悔しない生き方をする。】
そうだった。決めたんだ!
私の事を、2人に話そう。そして、私に出来る、生活の仕方を相談してみよう。
上手くいかなくっても、体は元気になったし、どうにかなりそうな気がした。
「あの……私の事、お話しします」
私は、物心ついてから馬車に乗ってからの出来事までを、話した。
最後まで、読んで頂きましてありがとうございます。
感謝、永遠に。