1 出発の日
連載始めました。
よろしくお願いします。
初めはシリアスな話になりますので、合わないと感じた方は、バックして下さい。
5話位から、明るくなるはずです。(予定です)
今から私は修道院に行く。
そこは、戒律が厳しく、出る時は亡くなった時と、決まっているらしい。
空は清々しい程に晴れ渡り、風も花の香りを纏い、私を通り過ぎる。
それに反して、私の心はどんよりと曇り、鬱々とした空気が立ち込めている。
ドナドナの子牛の気分は、こんなのだったのかもしれない。
ん?ドナドナ?子牛?
また私の心は、勝手に私の知らない世界の事を紡ぎ出す。
8歳になった今では、【自分の国に存在しない物】の話をする事の、危うさがわかる。けれど、幼い頃は何もわからず、思い浮かんだ言葉や物の話を思い付くまま、話してしまっていた。
今では、【悪魔憑き】とか【悪魔に魂を売った者】と、呼ばれている。
使用人だけでは無く、父母兄妹まで…
なんでも『貴族とあろう者が、悪魔になぞ魂を売るなどとは、あってはならぬ事。そう言えば、生まれた時から、どこかおかしかった!』だそうだ。
私は魂を売った覚えは無いし、悪魔に取り憑いて欲しいと、お願いした事は無いのに。
それに、自分が生まれた時の事を言われても…覚えてないんです。
世の中の人は、自分の生まれた時の事を覚えているものなのかしら?
しかし、誰にも問うことは出来ないまま。
今、家族は、私と関わる事が、汚れると言わんばかりで、見えて無いように振る舞っている。
あぁ、実際に見たく無いものは、見えてないのかも知れない。
使用人は、主人達の態度を踏襲し、あからさまな態度をとっている。
もう、家族や使用人の態度は、諦めている。
愛して欲しいなんて、思っても無駄だってわかってる。
諦めないと、ここでは生きていけないから。
ご飯を用意してくれるだけありがたい。
お風呂だって、たまに入れるし、屋敷の中だって、時間の制限はあるけど、図書室なんかは入らせてもらえてる。とじこめられてないだけ、幸せなんだから。
家庭教師は、もちろん付けてはくれなかった。
だから、図書室で勉強した。私の先生は、絵本や小説、図鑑や歴史書だ。
苦労して、覚えたものだから全て頭に入っている。
ただ、私以外の家族が、談笑しているところを見かけると、心がキュッとなる。
あれは、私がどんなに望んでも、得られないもの。
生きているだけで、幸せって思っても、勝手に涙が出る。
諦めてるのに、涙って勝手に出るのよね……
不思議だなぁ。
そして昨日、8歳の誕生日を迎えた。
戒律の厳しい修道院(名前は知らない)は、8歳から受け入れ可能らしく、すぐに行く事になった。
付き添いは、馬車を操る御者以外いないようだ。
みんな、私と関わるのが悪の様に、思っているみたいだから。
昨日までは、メルゴールド伯爵令嬢 シャライナ・メルゴールドだったが、今日からは、だだのシャライナ。
悲しい気持ちは無い。むしろそれに関しては、スッキリしている。では、何が私の心をどんよりと曇り、鬱々とした空気が立ち込めさせているのか。
馬車だ!
あれ…どこで見繕ってきた馬車なのかしら?
メルゴールド家に、あのようなボロボロの馬車があったとは。サイドの家紋は取り外されているが、後方の家紋は取り外し不可だったようで、付いたままだ。随分年代物の馬車だから、倉庫の奥底から出してきたのでしょうね。御者が車輪に油をさしているが、その馬車は、修道院に着くまで壊れないのでしょうか?と、誰かに聞きたいくらいだ。
尋ねる事が出来そうな人は、ここには居ないけれど。
修道院でも、ここにいるのと同じように扱われるのかしら……
できたら、私の事情は何も知らされず、悪魔憑きの元メルゴールド伯爵令嬢じゃなく、私自身を見て欲しいな…
荷物は、自分で持てるトランクひとつだけ。
それを馬車に積み込み、修道院に向かった。
馬車の乗り心地は、想像通りで体に響く。私は、着替えをお尻の下に敷いたりして工夫をしてみたけれど、大して変わりはないようにも思える。
どの位乗っていたのかわからないが、突然馬車の速度が速くなった。
御者の叫び声が聞こえた。馬の嘶きも聞こえる。
追いかけられている?
こんなボロボロの馬車に乗っているのに?
盗賊に追いかけられてるのかしら?
姦しい車輪の音で、わかりにくいけど、御者の怒鳴り声が響く。
怖い! 怖い! 怖い!
ダン!
すごい音がして、馬車の壁に矢が突き刺さる。
馬車は、止まらない。
車輪が、何かに引っかかったのか、ガツンと衝撃があった。
ガクンと、大きく跳ねて、速度が落ちた。
止められてしまう!
死にたくない!
楽しい事も何も経験してないんだから!
生きたい!
私は、馬車の中で体を丸め、その事だけを考えた。
死にたくない!
ギュッと目をつぶり、死にたくないとつぶやくと、私の意識はだんだん遠のいていった。
そして、胸から光が溢れ、その光は繭の様に私を包んだ。
けれども、意識を失った私は、知る術も無かった。
そして…盗賊か去った後に、誰かに助け出された事も、全くわからなかった。
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