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こばなし





【恋愛の話】



「え……オマエこんなのが良いのか?」

「そうですけど、何か変ですか?」


 漫画を読みながら雑談をしていた時、流れで誰がカッコイイかという話になり、私が噛ませ犬系の登場人物の名前を出すとタローくんに驚かれた。


「前にNo.6をカッコイイと言っていただろう。全然タイプが違うじゃないか」

「どちらもちょっとやそっとじゃ死にそうにない生命力に満ち溢れているじゃないですか」

「オマエの基準はそこなのか!?いやでもNo.6は戦いに身を投じてすぐ死にそうなイメージがあるだろう!この強キャラ具合は漫画だと強敵に挑んで激しい戦いの末回想を挟んで死ぬぞ!」

「漫画の話でしょう。現実だと老後まで畑仕事をしながら元気にやっていけそうな感じがするじゃないですか」

「仮にそうだとしても、この噛ませ犬と同列に扱うのはどうなんだ!?こいつキャラとして薄っぺらいし弱いだろ!確実にすぐ死ぬぞ!」

「崖から突き落としても気づいたら隣に居そうな妙な安心感があるでしょう。こういうキャラって意外と最終回まで生き残っているんですよね」

「理解できん!!」


 思考を投げ出すように、タローくんが力強く叫ぶ。

 そして暫しの間ができた後、冷静さを取り戻したタローくんが徐に口を開く。


「……というか、オマエ恋とかするのか?」

「しますよ、異性愛者なので。タローくんは私の事を無性愛者だと思っていたんですか?」

「そう言う訳では無いのだが、オマエが恋愛をしている姿は想像がつかない」


 神妙な面持ちで言われ、それ程までに自分と恋愛は結びつかないのかとちょっと不服に思う。


「タローくんこそ、どうなんですか?神様は恋愛とかしないんですか?」

「オレはしないが、恋愛にうつつを抜かす神は結構多いぞ。オマエの世界には神が人間の女に惚れて連れ去ったりする神話もあるだろう?ほぼノンフィクションだと思っていいくらいだ」

「それは何か嫌ですね」


 神様には真面目に世界を管理して欲しいという勝手な願望がある。世界の住人としては仕方の無い事だろう。


「私の世界の神様……タローくんの親御さんはどうなんですか?」

「さあ?しないんじゃないか?アイツは博愛主義を語っているからな」

「ずっと気になっていたんですけど、そもそもの話、私の世界の神様って男性ですか?女性ですか?」

「知らん」

「親子なんですよね?」

「間違いなく親子だが、地球上の生物と同じに考えない事だな」

「タローくんは……」

「男だ。どこからどう見ても、男にしか見えないだろう。女に見えると言うのならオマエの目は絶望的なまでに腐っている」

「ああ、そういう感じなんですね」

「どういう感じだ、勝手に納得するな。おい」


 つまり、神様もそれぞれ個性があるから、一様に考える事はできないという事でしょう。分かりますとも。

 私は微笑みながら頷き、手に持っていた漫画に意識を戻す。そしてページを捲り……


「ああっ、噛ませ犬が死んだ!!」

「そらみろ!!」





【暇人】



 神域ではとにかく暇を持て余していた。

 本来であれば、俺はすぐにでも輪廻に戻るべき霊魂だ。しかし、好条件の転生を約束されていながら、輪廻に戻る事を渋っていたのを見抜かれ、心の整理がつくまではと厚意で置いてもらっているのだ。

 今の内にやり残した事をやったらいいんだろうけど……俺、死んでるしな。


 死ぬ前であれば、やりたい事は山ほどあった。

 例えば、俺は小学生の頃ゲームを作る人になりたかった。でも、小学生の俺にはプログラミング言語が理解できなくて『俺には出来ない事』なんだと早々に諦めた記憶がある。

 今になってその事を思い出して、諦めた事を後悔している。今ならもっと頑張れる気がするのだ。

 ただ、俺には未来が無い。出来たところで達成感を得られるのかと聞かれると、多分虚しくなるだけだと思う。死んだ今叶えたところで、意味を成さない。将来の夢なんて生きているからこそだろう。


 一瞬で読み終わる恋愛遍歴のことも脳裏にチラつくけれど、あれは今更どうしようもない。

 人の一生を記した巻物は一生に一つ、死んだら完成され、死後何をしようが書き変わる事は無い。

 まあ、記憶を持ったまま何度も転生を繰り返した俺はその巻物を一人で何十個も保有するという異様な事態になっている訳だが、一番最初の巻物が俺の本来の一生であって、後に何があったって変わりようが無いのは事実だ。


 ロクローは霊魂を天国か地獄に導くという仕事があるし、あの子供……神様は花子さんと問題だらけの世界の管理に忙しいようだし、No.10は世界を崩壊させようとする危険因子の排除に出かけている。

 俺だけ何もやる事が無い。まるでニートだ。

 暇を持て余して個室でぼうっと虚空を眺めていると、背後でドアが開く音がした。


「あら……慎也様、いらしたんですね」


 振り返るとメイド服の少女が掃除用具を持って立っていた。確か、メイド長のNo.7だっただろうか。

 俺は慌てて立ち上がる。


「ここ掃除しますか?」

「いえ、慎也様が使われているのでしたら他の部屋を回りますので、どうぞそのままお寛ぎください」

「あっ、別に何してる訳でもないんで出ます。掃除してください」


 ていうか、ここ俺の部屋でもないし。暇だったから歩き回って、適当な場所で休憩していただけだ。


「そうですか?」


 No.7は不思議そうに首を傾げる。表情は乏しいが、そういう動作は妙に可愛かった。だからだと思う。


「……えっと、掃除、手伝いましょうか?掃除じゃなくても、何かあれば……」

「慎也様はお客様ですので、そんな事をさせる訳にはまいりません。それに、これはわたくしの仕事ですので」


 結構な勇気を出して言ったのだが、その申し出をキッパリと断られてしまい肩を落とす。

 まあ、そりゃそうだよな。余計なお世話だよな。

 落ち込みながらトボトボとドアの方へ歩いていると、「慎也様」と声をかけられて足を止める。


「お時間があるのでしたら……少しよろしいでしょうか?」



***



 No.7に連れられて来たのは、疲れ切った表情の天使が大勢居るオフィスのような場所だった。俺は会社員になった経験が無いからよく分からないけれど、ブラック企業って多分こんなんだと思う。

 空気の淀んだオフィスをNo.7と並んで歩き、やがて役職持ちのデスクに座っている今にも死にそうな天使の前に辿り着く。

 目の隈やばいって。この人ちゃんと寝てんの?

 ゾンビのような眼鏡の天使は、こちらなど見向きもせずにモニターと向かい合って手元のキーボードを物凄い速さで叩いている。


「慎也様、ご紹介したします。こちらはNo.5。魂の動きを管理する上位天使です」

「よ、よろしくお願いします。慎也です」

「……」

「申し訳ありません。集中していて聞こえていないのだと思います」

「ああ……そうなんですね」


 笑顔が引きつりそう。

 ターンッ!とキーボードを強く叩く音が響く。


「慎也様にお時間をいただいたのは、実はこちらのNo.5のお手伝いをお願いしたいと思っての事でして」


 だろうな。猫の手でも借りたい雰囲気がビシバシと感じられる。余計な事に首を突っ込んだ感が否めない。

 すると、そこに寝癖の酷い天使が駆け寄って来て、焦ったように声を上げる。


「No.5さん!第8049星系で死者蘇生が行われ、約2000もの霊魂が引き抜かれました!」


 途端、高速で動いていた手がピタリと止まり、No.5は唖然とした様子でガタガタと震え始める。


「に、2000……だと?」

「おそらく戦争に駆り出され、すぐに殺されて戻って来るものと思われます!」

「あと107の霊魂を捌き切れば寝られると思っていたのに、追加で2000も来ると言うのか……!?」

「No.5さん、しっかり!!」

「こんなのって……こんなのってないだろ……ゴフッ!」

「No.5さーーーんッ!!!」

「あの、俺、手伝います」


 切羽詰まった雰囲気に耐えかねて手を挙げると、涙で滲む充血した目を向けられた。効果音はキラキラというより、ギラギラだった。

 手伝う以外の選択肢なんて無かったと思う。



***



「あれ、慎也さんじゃないですかー」

「……ロクロー」

「随分と疲れてるみたいですけど、何してたんです?」

「交通整理のバイトみたいなやつ」

「また何か巻き込まれたんですかー?さすが元チート主人公!衰えませんね!」

「うるせー、今疲れてんだから話しかけんな」


 軽々しくあんなこと言うんじゃなかった。そう後悔している俺は、またNo.7に頼られて同じ轍を踏む事になるなんて知る由も無かった。





【成長する神様】



「あっ」


 『しまった』と声を上げた瞬間、目の前のタローくんが電光石火の勢いで反応する。


「なっ、なんだ!?どうした!?」

「すみません、切り過ぎました」

「花子ぉ!!」


 私の淡白な謝罪を聞き、タローくんは嘆くように私の名前を叫んで頭を抱える。


「だからオマエに任せたくなかったんだ!」

「大丈夫ですよ、ちょっとだけですから。これから挽回します」

「実績も無いヤツの挽回に期待など出来るか!オマエにチャンスはもう無い!下がれ!」

「大丈夫だって言ってるじゃないですか。大袈裟ですね。それに、これくらい大して変わりませんよ」

「他人事だと思って!」

「他人事ですからねぇ」

「反省しろ!」


 やれやれと肩を竦める。幾らなんでも過剰反応だ。私は本当にちょっと……1センチくらいの誤算があっただけだというのに。


「というか、タローくんは一応神様なんですから、失敗しても髪くらい伸ばせないんですか?そもそも伸びるのも不思議なんですけど」

「オレだって日々成長してるんだよ!だから髪も爪も伸びるし、外見には制約が多いんだ!化ける事はできるが、それはあくまで仮の姿に過ぎないだろう!?」

「まあ、そこが自由なら、タローくんはもっと威厳のある見た目をしてる筈ですもんね」

「消すぞ!!」


 瞬時に飛びかかって来たタローくんに軽い鉄槌を喰らわせ、床に沈める。

 学習しないな、タローくん。ドMなんじゃないだろうか。


「本当に大丈夫ですから、座ってください」

「くそぅ……」


 床に倒れ伏したタローくんは悔しそうに唸った後、渋々と元の位置に戻る。

 私は改めてハサミを構え、タローくんの後頭部に目を向ける。やっぱり言う程の失敗はしていない。

 早速続きを再開しようとするが、何やらタローくんがそわそわと私の様子を伺って来る。今度は何だろう。


「絶対失敗するなよ!絶対だぞ!次は無いからな!」

「芸人のフリみたいに言わないでくださいよ。そんなに私の失敗を誘発させたいんですか?」

「やはりオマエには任せられない!解雇だ!!」

「男らしくドンと構えててくださいよ。そしたら失敗しませんから」

「できるか!!」

「落ち着いてください」


 子供をあやすようにポンポンと頭を叩くと、タローくんは歯を剥き出して「うがー!!」と野生動物のような威嚇をした。

 うーん、どうしたものか。


「私の小さな失敗なんて、誰も気がつきませんよ」

「オレは誤魔化されないぞ!」

「……タローくん、そんなに私が信じられませんか?寂しいじゃないですか」

「!?」


 わざと弱々しく言ってみせると、タローくんは少しだけ怯んだ。タローくんはそういうところがあるから優しい。

 今回は利用させて貰うけれど。


「大丈夫です。万が一失敗しても、タローくんはカッコイイですよ」

「失敗した時の話をされても不安しか湧かないのだが……」

「泥舟に乗ったと思って、我慢してください」

「我慢!?そこは大船じゃないのか!?」

「大船だなんて、恐れ多い」

「その腕前でよくこんな事をやろうと思ったな!」

「じゃあ、切りますよ。手元が狂いますからじっとしていて下さいね」

「唐突に始めるな!まだオマエが失敗した時の心の準備が終わってな……っ」

「あっ」

「花子ぉ!!」


 タローくんは暫く口を聞いてくれなかった。





【花子のお魚クッキング〜遺恨を添えて〜】



 オレがテレビを見ながら寛いでいると唐突にドアが荒々しく開け放たれ、そこから現れた花子が声を弾ませながら話しかけて来た。


「タローくん!今日は私が絶品お魚料理をご馳走しますよ!」


 オレは呆気に取られて固まった後、怪訝な表情をして「は?」と眉を潜める。


「実は良いお魚が釣れまして、これはもうタローくんと美味しく頂くしかないと思ったんですよ」

「釣った?どこでだ?」

「天国です」

「そこ聖なる泉じゃないか!?」

「ふふふ……馬鹿な魚どもが大量に食いついて来て、笑いを堪えるのに必死でしたよ」

「オマエは何を言っている!?」


 引き気味に叫ぶが花子はそんなオレを放置して、まな板の上にくたびれた聖なる魚を横たえる。


「それではまず体の表面を削ぎ落として、包丁を頭に叩き落します」


 ダアァァン!と料理をしているとは思えない強烈な打撃音が響く。


「次に腹を裂いて臓器を抉り出します。そして、ため水で存分に血を流させた後、体をバラバラに切り刻みます」


 ダアァァン!ダアァァン!とまな板と包丁の悲鳴が連続して響く。


「これと同じ事を14匹の哀れなお魚共にも同様に行います」

「ちょっと待て。魚に対する優しさを感じないのだが、それは……」

「気のせいです」

「そうか」

「命をいただくのです。この者たちに敬意を払って、骨の髄までしゃぶり尽くしてやりますよ。タローくんもそのつもりでいて下さい」

「……」


 オレはチラッと綺麗に捌かれた聖なる魚に目を向ける。あのオーバーキルを狙ったような打撃音から生成されたとは思えない出来だ。


「拒否権は……」

「無いです」


 ダアァァン!ダアァァン!ダアァァン!と容赦を知らない打撃音が鳴り響く部屋で、オレは遠い目をした。



ここで神様のカオスな世界救済は完結いたします。

オマケまで読んでいただき、ありがとうございました!

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