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第2話 ガキンチョ

 



 そこは近未来を連想させる、無機質な一本道だった。多分ここは廊下だろう。

 ふと天井を見上げると、隅に赤外線センサーか監視カメラだと思われる物があった。デザインがシンプルでかっこいい。


 いつまでもここにいては仕方がないので、私は物珍しく辺りを見渡しながら真っ直ぐ廊下を歩いた。

 一本道には規則的に十字路が訪れ、十字路の間には自動ドアが並んでいる。その自動ドアすらも、SF映画やアニメに出てくるような未来的なつくりだ。

 ここは地下に作られた秘密結社のアジトのような、そんな夢が詰め込まれた場所だった。

 間違いなく、ここは息子さんの世界だ。そう確信させる物があった。

 確かに私は息子さんと気が合いそうだ。


 変化の無い廊下をただ真っ直ぐに歩いていると、十字路に差し掛かった時、左の道に何かいる事に気づいた。

 足を止めてそちら側を見ると、まるでクラゲを陸上生物にしたかのような、奇妙な生物がいた。

 プニプニしていそうな透明な皮膚、そして傘のような胴体から伸びる複数の触手。大きさは私の腰くらいまでだろうか。


「……は、ハロー?」


 片手を上げて挨拶をしてみる。

 外国人に話しかけるようなノリだったが、国どころか宇宙を跨いでいる。言葉は通じるのだろうか?

 話しかけた相手に反応は無い。目がないので、こちらを見ているのかすら分からない。敵意は無い……筈。

 会話ができれば、息子さんのこと聞けるのだが。

 暫く待ってみると、陸上クラゲは身体をぷるるんっと揺らして、複数の触手を器用に動かしながら私の方へと寄ってきた。

 あと三歩程で接触しそうな距離まで近づき、私を見上げるように傘のような頭を上げる。


「オマエ、どこからきた」


 うおっ、喋った!

 口も声帯も見当たらないのに、どうやって声を出しているのだろうか。

 ま、まあ、会話ができるというのなら、それはそれで好都合というものだ。

 私は未知の生物に乱された心を落ち着けて、聞かれたことを正直に話すことにする。


「えっと、なんて言えばいいのか……地球という星がある、別の世界から来ました」

「……地球だと? 別の世界の霊魂がこんなところに何の用だ」

「向こうの地球の神様に頼み事をされまして、こっちの世界の神様に会いに来ました。知りませんか?」

「知らないかもなにも、神ならオレだ」

「……はい?」


 聞き間違いかな? 神はオレだとか聞こえたんだけど、この陸上クラゲが神様? ……無いな。

 ぷるるんとした皮膚は光沢はあれど、神々しさや有り難みはまるで無い。

 これが神様? 冗談にもほどがある。仮に、仮にだけどこの陸上クラゲが神様だとしたら、親である私の故郷の神様もこんな冗談みたいな姿をしているって事にならないか?

 困惑している私を余所に、陸上クラゲは無い口からため息を吐いて、呆れたようにやれやれと傘を振る。


「人間は見た目に惑わされるから困る。それ相応の姿をしていなくては神でないというのか? なんだ、そのガッカリした顔は。しかと見よ。このオレ様の透明感溢れる、うるつやボディーを。素晴らしいだろう」

「……いや、到底神様には見えないです」


 つい正直な感想を述べると、陸上クラゲはガックリと肩の代わりに触手を下げた。


「この姿は割と気に入っているのだがな。信じられないと言うのなら仕方がない。人型にでもなってやろう」


 感謝しろとでも言うような尊大な態度を取る陸上クラゲが、突然煙に包まれて姿を消した。

 私は不自然に現れた煙に一歩後ずさり、目を凝らして煙の中を覗いた。

 煙が薄まっていくと同時に、陸上クラゲが立っていた位置の影がゆらりと揺れる。それは陸上クラゲなどという未知の生物のシルエットではなく、慣れ親しんだ人間の形をしていた。

 その不思議な現象に、私は内心胸を躍らせる。

 これはどういった類の物なのだろうか? 神様の固有の能力?


 すると瞬く間に陸上クラゲの姿を隠していた煙が霧散し、見えなかった姿が露わになる。そして飛び込んで来た光景に、私は眉間にシワを寄せた。

 人間のシルエットをしているのに、全く違う別の生き物だった!

 ……なんて事ではないのだ。先程と同様に、神々しさが欠片も無かっただけだ。


 短髪の黒い髪に、同じく黒い目。筋肉は見た感じ無くて、ちょっと頼りない。身長も私と比べると頭2つ分くらい低かった。しかし守りたくなるような愛嬌はある。

 そう、子供だった。

 歳は10歳前後だろうか。もう少しキリリとした顔立ちをしていたなら多少はマシだったのだろうが、偉い人にあるような威厳は全く見当たらない。

 そんな私の態度を気にしてか、陸上クラゲもとい、ガキンチョは慌てたように言い訳を始める。


「仕方がないだろう。人間の成人の姿をとるにはまだ容量が足りないんだ。あと数百年くらいしたらきっと……」

「そんなに待てないですよ。容量って……つまりは成長途中って事でしょう? 気にしなくても大丈夫ですよ」

「なんだその生ぬるい目は! オレは神だぞ? 偉いんだからな!」


 私は優しい目を向けながら、うんうんと頷く。

 ある意味予想通りだった。事前に神様には息子だと聞かされていたから『子供かぁ』と漠然と想像はしていた。

 息子だと言われて、その息子が髭面のジジイだったらそれこそ詐欺だ。

 神様が言っていた通りの、バカ息子といった感じのガキンチョ。予想通りだ。


「というか煙出す必要ありました? デフォなんですか? あれ」


 私は普通に疑問に思った事を聞いただけのつもりだったのだが、ガキンチョには捻くれた受け取り方をされたようで、ガキンチョは更に声を荒げる。


「必要に決まってるだろう!? オマエは人前で着替えるとき、堂々とその場で服を脱ぎ捨てるのか?」

「へえ、あれってそういう感覚なんですか」


 納得、納得。

 私が素直に返事を返したものだから、ガキンチョはそれ以上何かを言うことができなくなり、悔しそうに押し黙った。

 そして諦めたようにため息を吐いてから、気を取り直して私に話しかける。


「ここで話すのもなんだ。場所を変えないか?」

「そうですね。ここって美味しい食べ物はありますか?」

「……図々しいな」


 文句を零しながらも、ガキンチョに否定は無い。

 そこまで子供ではないのか。普通に失礼な事を言った筈なのに、意外と心が広かった。軽い気持ちの発言だったが、これは嬉しい誤算。

 私はその事にちょっと感心しながら、先を歩くガキンチョに着いて行った。

 神様なんだから実際、私より長く生きてるだろうし、年齢は上なんだろうけど。


「焼き菓子でいいか」

「勿論ですとも。さすが神様、太っ腹!」


 私がここぞとばかりに持ち上げると、ガキンチョから不審な目を向けられた。失礼な。


 ガキンチョはすぐ近くのドアの前で足を止めると、ドアの横に設置されていた長方形の平べったい機械のボタンを順番に押していく。

 すると、プシュッという空気が抜けるような軽い音が鳴って、目の前のドアが横にスライドした。

 こうして現れた一室に通され、勧められるがままに少し湾曲したスリムな椅子に座った。弾力は無いけど、座り心地は良い。

 ガキンチョはテーブルを挟んだ反対側の席に座った。


 閉まっていたドアが再び開く。そちらに目を向けると、人間の少女の姿をしたロボットが歩いて来るのが見えた。

 手には長方形のトレイが握られており、その上には香ばしい香りのする2人分の紅茶とクッキーが乗せられていた。

 久し振りの食べ物に目を奪われる。霊魂になってから食との繋がりが薄まって、食べる機会があまりなかったのだ。


 丁寧な滑らかな動作で、トレイの紅茶とクッキーがテーブルに移される。その動きはとてもロボットには思えない。

 血の通っていない無機質な肌や、小型の機械のような目がちゃんと人間の物だったなら、私が初見でロボットだとは気づけない精巧さだ。

 ロボットさんに「ありがとうございます」とお礼を言うと、にっこりと可愛らしい微笑みを頂いた。

 ガキンチョに会釈をしてから、ロボットさんはこの場から退出した。

 私は名残惜しく閉まったドアを見ながら、ガキンチョに問いかける。


「あのロボットさんって、なんですか?」

「No.27か? アイツはオマエのいた、天国で言うところの天使だ」

「天使! ていうかここ天国なんですね」

「当たり前だろう。外は取り敢えずそれらしくしてある。文句は受け付けないぞ」

「文句なんて言いませんよ。このサイバー空間は素晴らしいです。夢に溢れています! 巨大ロボットが隠されていそうな秘密基地のような空間、何歩も先を行く技術、そして何かカッコイイ。生前探し求めた空間が、今ここに!」


 自身の熱い思いを力強く語ると、途端にガキンチョの私を見る目が変わった。


「なんだと……オマエ、この良さが分かるのか! このサイバー空間を実現した夢のような場所がどれだけ素晴らしいか!」

「ったりまえじゃないですか! 私の冒険心が最高にくすぐられます! 生前にまだ見ぬ未来都市を探求した私を舐めないでください!」

「素晴らしい。素晴らしいぞ、その純粋な好奇心! いいだろう、特別にオレのコレクションを見せてやろう! 重火器から戦車、巨大ロボット、なんでもあるぞ!」

「なっ……なんですって!? なんてバリエーション豊かなの! ちなみに巨大ロボットにはどんな型が!?」

「人型から獣、昆虫、更に合体変形ロボ。そして実際に乗って操縦も可能! 強大なパワーを持ち、俊敏に動けて、空中戦にも対応!」

「やばい、超見たい! 操縦して世界を壊滅させてみたい!」

「そうだろう! 破壊の限りを尽くしてみたいだろう!」


 私は感嘆とする。

 なんて素晴らしい神様なんだ。人類には到底、辿り着けない域に達している。空想はできても再現できないことを、実現してくれている。

 これぞ神様ではないか!


「……って、駄目でしょうがッ!!」


 壮大な妄想を展開し、星が砕け散ったところで現実に引き摺り戻された。

 何が世界を壊滅させてみたいだ! 壊滅させてどうする! 私は世界を守らなきゃいけないんだよ! 破壊の限りを尽くすなんてとんでもない! 天罰待ったなしだわ!

 脳内で自分を叱責して、私はロマンを握り潰すように叫んだ。そんな私をガキンチョは目を見開いて見ていた。


 私はガキンチョに同調してはいけない立場だ。危うく流されそうになってしまったが、それだけはまず初めに知ってもらう必要がある。

 私は椅子から立ち上がり、行儀悪くもそのまま椅子に片足を乗っけて、大仰に両手を広げる。

 そして私は自分自身にも言い聞かせるように、唐突に演説を始めた。



「そう! 私はその現実離れしたところを軌道修正する為にここに来たんですよ! 人類には過ぎた力、本来であれば手にする事すらできない力……現実離れした事を悪いとは言いません。正直、私も好きです!


しかし!!


それで世界をメチャクチャにしては元も子もないというものです! 規制の無い不完全な力は世界を危険に晒します。本来持つべき力ではないんです。貴方が軽はずみに与えてはいけないモノなのです。私の世界の神様は言いました。


このままだと世界は滅ぶ!!


ファンタジーは素敵です。惹かれます。あわよくば手に入れたいと望むでしょう。しかし! それでも規制し、限界を定めるべきなのです。それでも規制や限界に縛られず、突出してしまったもの……それこそが我々の追い求めるロマンではないのですか!?」



 私の演説は、とにかく強い語調で話す力任せなものだった。堂々と、これが正しいのだと自信を持って語る。

 私の世界の神様云々は捏造だったが、事実でもあった。神様の力の一部を得ると同時に、私はこの世界の現状を理解した。


 この世界は限界が限りなく存在しない。

 統制がとれていないのだ。

 それゆえに均衡が崩れかけているのだ。

 神様が言っていた通り、人類に様々な力を与え過ぎて世界を壊しかねない勢いなのだ。


 ガキンチョの世界は様々な生物が共同に生活し、魔法や超能力がある。

 それにより、どこもかしこも力を誇示するように争いは絶えず、星を飛び出して宇宙戦争を勃発させている場所すらある。

 そして、一番問題となっているのが、魔法や超能力という規格外な力を極めてしまった輩の存在だ。

 奴らは世界の物質を変幻自在に操り、星を焦土とし、時空を切り裂き、本気で世界征服を目論んで、神を自称する者までいる。

 このままだと、世界の崩壊も時間の問題である。


 ところが、当のガキンチョはそれを許容している節がある。なぜなら、神様がそれに気づかない訳がないからだ。

 ガキンチョの親である神様が、自らの世界から離れられないように、それは神様の一部なのだ。あんなに分かりやすい歪みに気づかない訳がない。

 それをなぜ、ガキンチョは許容しているのか。

 それはきっと、壊れても構わないと思っているから。世界を、命を軽く見ているから。



「貴方の創り出した世界は創作物のようなフィクションではありません。確かにそこに存在している、貴方が守らなければいけない命です! 命は何億何兆……無限にあろうとも、2つと存在しない個体です。何度死のうと、何があろうと、転生し生まれ変わる価値があります。


命ある世界を壊し、命を消してしまうのは価値あるモノへの冒涜です!!


世界を壊さないようにする為にも、貴方の世界は今すぐにでも軌道修正を行わなければいけません! このままだと取り返しのつかない事態になる事は、貴方には分かりますよね?」



 私はガキンチョを真っ直ぐ見据えた。唐突に始めたのが効いているのか、ガキンチョは呆然と私を見返している。

 ところが、その静寂は長くは続かなかった。

 ガキンチョの黒い瞳が細められ、年相応に感じていた雰囲気が一変した。

 空気が張り詰めて、得体の知れない何かがそこにある。


「まあ、予想はしていたが……やはりそれが目的か。いかにもオマエの世界の『神様』が言いそうなセリフだ」


 大人びた? 人が変わった?

 いいや、違う。そうじゃない。彼は元々そうだった。私とは異なる、超越した存在だった。



「命あるオマエにとってはそうなのだろう。しかし、だ。2つと存在しない? だからどうした。代わりはいくらでも作れる。個体としての価値など、オレには無い。そもそも何をもってして独自の個体とする。


記憶か?

そんなもの消してしまえば皆同じだ。

元々持ち合わせた性質か?

そんなもの誤差だ。こだわるような事だろうか?


転生させるのは単に効率的であるからであって、価値があるからではない。自身を価値あるものだと自惚れないでほしいな。オマエは取るに足らない、あっても無くても変わらない存在なんだ。本来であれば気にかける必要もない。相手をしているのはオマエがオレたちの一部を保有している、奇特な存在だからだ。それが無ければオマエはただの霊魂で、価値などどこにも無い」



 彼の口調や声のトーンには、嘲りが含まれていた。静かに、染み込むように語りかけられる。言い聞かせるように。

 子供特有の高い声である筈なのに、今は異常なまでに落ち着き払った声で、大人のものだと錯覚してしまいそうな程だ。


 内心では冷や汗をかきながら、私は目を逸らさずにジッと黒い瞳を見据えた。

 ここで目を逸らして向き合う事を止めれば、私の彼にとっての価値は暴落する。彼の言う通り、ただのどこにでもあって替えのきく、量産品へと成り下がる。

 さっきまでのガキンチョはどこへ行ったのかとツッコミたくなるよ。


「オレはただ、好きな物を作っているだけだ。結果、壊れてもそれは必然だ。また新しく作り直せばいい。オレにはそれができるのだから。オマエの世界の神とオレは違うんだ。同じ価値観を持つ事を強要しないでくれないか? オレは今、楽しいんだ」


 世界を創造する事を夏休みの工作のように語り、それを『楽しい』と言う彼は、先程までのガキンチョと雰囲気が同じだった。

 私はその事に目前の神様との間に、底の見えない大きな隔たりを感じた。


「貴方にとっての創作物はこの世界という事ですか?」

「そう。アンタら人間は大好きだろう? 空想が。オレも大好きなんだ。だから作った」

「……現実との区別もつかないガキですね」


 つい彼の意見に苛立って出てしまった言葉だが、声に出した瞬間に後悔する。

 私は話し合いがしたいのだ。挑発するような言葉は言うべきではなかった。


 案の定、ピシリと空気が凍る。地雷を踏んだのだと直ぐに分かった。

 それはきっと『ガキ』というたったひと言だったのだろう。

 私は彼がまだガキンチョらしかった頃を思い出す。成長途中である事を気にして、容量が足りないのだと言い訳をしていた。

 雰囲気は変わっても本質は変わっていない。


「……消されたいのか? 神の力のあろうと、一部は一部でしかない。それくらい分かるだろう?」


 しかし、これも彼に私を知ってもらう為には、必要な事なのかもしれない。

 今の私は、彼にとって対等な存在ではない。つまり私の言葉は取るに足らないものになり得る。

 それではきっと、話し合いになどなりはしない。


「私の立場を分かっていないのは、貴方の方ですよ」


 私が力強く見返すと、彼の真っ黒な瞳が黒曜石のように鋭く光った。

 彼の手が私に向かって伸びて、何かを掴むでもなく、ただ私に手を伸ばしていく。人差し指が私を貫くように向けられた。

 おぞましい何かが突きつけられている。そんな気がした。


「―――消えろ」


 重々しく、握り潰すように放たれた言葉。その言葉は霊魂である私の存在をズブズブと蝕んで、全てを飲み込もうとしていた。

 それを呆気ないくらい簡単に消し去ったのは、同じ神様の力だった。

 あの呪いのように黒くドロドロとしたものと真逆の、温かいお日様のような柔らかい光。

 彼が不快そうに眉をひそめた。


「私は使い捨てじゃないんですよ」

「その程度……っ」


 今度は何が気に障ったのか、彼は先程までの落ち着きを忘れて感情を高ぶらせる。

 両手を私に向け、その手には視覚できるほどの禍々しい闇が現れた。

 小さなブラックホールみたいだ、と私は呑気な感想を抱く。でも、実際は呑気にできるほどの余裕は無い。先程のとは比にならない力を感じる。

 流石にまずいな。ていうか、見下している相手にそこまでするか?

 ……まあいい。考えるのは後だ。


 私は即座に片足を引き、右手で手刀を作って構えた。そして声を張り上げる。


「貴方が暴君である事は想定済みです! そうでなければ神様はこんな力を私に与えなかったでしょうからね……っ!」


 私の声を合図に、手刀を薙ぎ払いブラックホールへと打ち込む。

 スパッと衝撃波を受けたかのように、黒い塊は歪んで綺麗に裂けた。そして、真っ二つに割れた先には、私を憎々しげに見つめる仄暗い瞳が覗く。


「鉄槌ッ!!」


 頭上に掲げた手刀を振り下ろした。それはただ空を切っただけだったが、しっかりと彼には伝わっていた。

 黒曜石のような瞳が大きく見開かれ、ゆっくりと光が失われていく。

 それがありきたりな黒い瞳へと完全に変わった頃、彼はプツンと糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。



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