第7話 迂闊だった
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篠崎が子犬と遊んでいる時間が長かったので、すぐに昼時になった。
「なあ、篠崎……昼飯作るから、食べるだろう?」
「うん……だったら、私も手伝うよ!」
別に断る理由もないから――俺と篠崎は並んでキッチンに立つ。
「焼きそばを作るつもりだけど……それで良いよな?」
「うん……だけど、それだけだと、野菜が不足するから……サラダも作って良いかな?」
「ああ、構わないぞ……野菜なら、冷蔵庫の野菜室にあるから」
二人で料理を作る――そのシチュエーションが、俺には何となく嬉しかった。て、言うより……俺のうちに他人が来るとか、いつ以来だろうか?
「いただきまーす! あ、ワンちゃんの分も用意しなくちゃ!」
篠崎は子犬の方に駆け寄るが。
「いや……篠崎、悪いんだけど。自動給餌器があるから、いちいち餌をやりに行かなくても問題ないんだよ」
子犬は一度にいっぱい食べられないから、小分けにして餌をやる必要がある。だから自動給餌器の登場。タイマーで決まった時間に餌をやる機械だ。
「へえー…便利なモノがあるんだね」
「まあな……うちは昔、犬を飼ってからな。その頃に買ったのが残ってたんだよ」
俺は高校に通っているし、バイトもあるから。家にいるのは午後十一時半から午前八時まで。その間しか、子犬の面倒なんて見れないから。昔使っていた自動給餌器の事を思い出して活用する事にしたのだ。
「昼間もエアコンを付けっぱなしにしてるし、水も用意してあるから。とりあえずは、問題ないと思う」
「凄いよね、榊原君って……ワンちゃんの事もきちんと考えてるんだ? なんか……ワンちゃんが羨ましいな!」
何故か熱い視線を向けて来る篠崎に、俺は内心でドキドキしながら――焼きそばとサラダを無言で平らげる。
「あの……榊原君。ちょっと……おトイレを貸して貰えるかな?」
そう言って、篠崎が消えてから――かれこれ二十分。余り詮索するのは不味いと思っていたが、さすがに遅過ぎる。俺はダイニングキッチンとリビングが一続きになっている部屋から移動する。
トイレは、リビングの扉を開けて左。だけど、正面にある和室の扉が空いており――そこに篠崎がいた。
「おい、篠崎……」
声を掛けてみたが――篠崎が何故すぐに帰って来なかったのか、俺はもう察していた。
「ねえ、榊原君……この人たちって……」
仏壇に飾ってある写真を見つめたまま、篠崎が呟く。
そこに映っているのは――小学生の俺と両親だ。中学二年の夏に、俺の両親は交通事故で死んだ。俺の家庭の事情というのは、そう言う事だ……俺に家族と呼べる人間はもういない。
ちょっと迂闊だったなと反省しながら、篠崎の肩を叩く。
「ああ、俺の父親と母親だよ……でも、もう三年前の事だからさ。今さら、何とも思わな――」
途中まで言い掛けたとき――柔らかくて暖かいモノが、俺を包み込んだ。
「そ、そんな事……言わなくて良いよ。ここは榊原君の家なんだから……私に気を遣う必要なんてないよ!」
篠崎がギュッと俺を抱きしめる――色々と不味いところが当たっているが、そんな気分じゃなかった。篠崎の想いが……俺に伝わってくる。いや、そう云うのは良いからって……同情されるのは御免だと、俺はずっと思っていたんだけど……
「あのさ、篠崎……そう云うの……」
「……全然、同情とか、そんなんじゃないから!」
篠崎に力いっぱい抱きしめられて、俺の言葉が再び途切れる。
「そんなんじゃないよ……私は唯、榊原君の傍に居たいだけだから! 可哀そうとか、そうじゃなくて……ゴメン、上手く言えなくて……」
涙声の篠崎――もう俺は何も考えられなくって、思わず篠崎を抱きしめてしまう。
「悪いな。俺も全然上手く言えないけど……篠崎、ありがとう……」
人の温もりとか……そんなモノはとうに忘れていた気がするが、今、思い出した……思い出させてくれたのは、紛れもなく篠崎だ――
それから暫く、俺と篠崎は抱き合っていた。後になって思い出すと、物凄く恥ずかしい光景だが――このときは何故か、それが当たり前のように思えた。
「あのさ、篠崎……」
「……何、榊原君?」
俺たちは抱き合いながら、息のかかる距離で互いを見つめる。
「おまえってさ……無防備過ぎるよな?」
「そんなこと言ったら……榊原君の方が、思わせぶりでしょ?」
「いや、そんな事はないだろ? 俺は他人に無関心だから……」
「嘘……榊原君は優しいから……」
篠崎の顔が近づいて来る――目を閉じる篠崎にドキドキしながら、俺は同時に安心する。手を触れてしまえば壊れそうな篠崎が……どうしようもないくらい、このときの俺には愛おしかった。
ゆっくりと距離が縮まる。あと10センチ、5センチ、2センチ……最後の1センチが物凄く遠く感じたが。俺は躊躇わずに飛び込もうとしたんだけど――
『ピン、ポーン!』
嘲笑うように鳴るインターホンの音。俺と篠崎は思わず至近距離で顔を見合わせて真っ赤になる。
「えーと……お客さんみたいね?」
「ああ、そうだな……とりあえず、行って来るよ」
そう言って俺は、和室から玄関へ――ドアを開けると、見知った相手が立っていた。
「颯太……久しぶり! あのさ、庭に居るのが見えて……お母さんに言ったら、お昼に誘いなさいって五月蠅いから、呼びに来たんだけど?」
明るい色のポニーテールで、切れ長な目の彼女は秋山葵――俺の幼馴染だ。隣りの家に住んでいて同じ年だから、それこそ生まれた頃から知っている。
「何だよ、葵か……ゴメン、もう昼飯は食べたから。それじゃ……」
両親が死んでから疎遠になった幼馴染に、ちょっと悪いと思ったが。もう用件は終わったと、ドアを閉じようとすると――葵は取っ手を掴んで、それを阻止する。
「……うん? まだ何か用があるのか? だったら、後に――」
「あのさあ……颯太、お客さんがいるでしょ? だったら、私にも紹介してよ。水臭いなあ……」
そんなことを言う葵に、俺は違和感を覚える。
「確かに、客はいるけど……何で、おまえに紹介する必要があるんだよ?」
このとき――葵が一瞬だけど、物凄く悲しそうな顔をした。だから、俺は……思わずドアの取っ手を離してしまったんだ。
「どうしたの……榊原君? 何かあった?」
開け放たれた玄関のドア――俺の後ろには、和室から出て来た篠崎がいる。
篠崎桜奈と、秋山葵は、俺を挟んで正面から向き合うと――
「ねえ、榊原君……この人は?」
「颯太……この子は誰?」
笑顔の二人に――何故か俺は、背中に冷たいモノを感じていた。
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