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ライバル、それはゴージャスにしてグレート〜主に毛髪が〜

趣があるといえば聞こえがいいけれど、生徒達からはボロい方と呼ばれる旧校舎。学校の授業に必要な施設は全て新校舎に揃っていて、ボロい方にあるのは、部室争奪戦に負けた部や同好会の部室と、修理が必要になったり、もう要らなくなった資料の詰まった旧図書室。


その一室。エアコンどころか扇風機すら無く、ガタガタ揺れる机と、ギシギシ軋む椅子だけはふんだんにある場所が文芸情報同好会の部室だった。


文芸情報同好会という名前がついているものの、幽霊部員含めて18人の会員達の活動は好きなゲームや小説やコミックの話をしたり、適当に集まったメンバーでカードゲームをしたり、TRPGをしたり、コスメ談義をしたりと、その時面白かったら何でも良くて、気の合う女子高生がお金もかけずに集まれる場所を確保する為の集まりだった。


「ねえねえ、えるぴー、このゲーム今一推し!やってみてやってみて!」


にこにこと勧めてくるのは山下光莉(やましたひかり)。シュミレーションと乙女ゲーム大好きなゲーマーだ。卒業してからも付き合いは続いて、召喚という実質異世界誘拐された数日前にも『撃!ゲームソング縛り大カラオケ大会!ぽろりもあるかもね?かもね?』などというふざけた集まりで歌いまくった。

というか、大カラオケ大会では大が一つ多くないか?

その光莉一推しゲームが『遥かなる悠久のグリザンテ』だった。


私は頭を抱えた。

グリザンテ、グリザンテだ。何だか後ろに長ったらしいサブタイトルが付いてた乙女ゲームだ。

召喚されてから何となく感じてた知っている感はこれだ。

そのゲームの中のワンシーン、グリザンテの王子王女が揃ったシーンのスチールショットが目の前に再現されている。実際の王子王女で。


「ノゾミさん、お疲れかしら?出来ればこの後、主だった貴族達と挨拶していただきたいのだけれど、お辛い様なら控え室に戻られても…」

「大丈夫です!ご心配いただきありがとうございます」


頑張れ自分。夢みたいだけどそうじゃない。創作によくある異世界召喚、それに巻き込まれている現実。

どうして異世界の話が乙女ゲームになっていたのか。異世界から人が呼べるんだから、何かすごい力が働いて、逆に私の現実世界にこのグリザンテの事を知る事が出来る能力があったのかも知れない。


ん?


でも光莉からゲームを勧められたのは10年以上前、そのゲームの内容が今起こっている。この時間差は何?

それと、王子と王女、もうちょっと若くなかったっけ?乙女ゲームの正統派王子が28歳だとよくある十代のヒロインと歳の差が大きくないか?

確か20歳超えた位だったかな?第二王子は忘れたけど、ゴージャス姉さんは未成年で『ファンタジーの世界では未成年でもすでに結婚して夫人なんだね。しかもこの色気が凄すぎる!」とか光莉と盛り上がったもん。

あ、でも三男と次女三女は多分ゲームと同じ歳。王子達三人は攻略対象だったし、二人の王女達は王立学園でイベントがあったりするから、今の方が年齢的に合ってる。うーむむむ。


「マナ、何か私この世界の事知ってるっぽいんだけど?ちょっとズレがあるけど」


小さな声で聞いてみれば

『そうですか?不思議な事もあるのですね』

使えない!何だこのポンコツ妖精!

こうなったらいつもの行き当たりばったりで何とかするしか無いよね。あーあ。


私の座右の銘『細く長く』をこの世界でも実践すべく、王子王女との会話を営業的にこなしたのち、貴族に挨拶イベントルートに入る。失礼になりそうな件は先んじて『私召喚されたばかりでこの国のマナーがわかりません。ご指導いただければ幸いですー』の呪文を唱える。


何かもうゲームのチュートリアル気分になってきた。


しかーし、気を抜いてはいけない。ゲームの舞台になった世界だろうが何だろうか、水に浸かれば濡れ濡れで寒くなるし、コルセットで締め上げられれば激しく苦しい、これは現実なのだよ、しっかりしろ、自分。


10年以上前にやったゲームの内容は薄ぼんやりとしていたものの、どハマりしている上にやり込み系ゲーマーの光莉が何回も話をしてくれていたからそれなりにゲームイベントには対処出来るはず。

暗黒竜だってゲーム内では結構楽に倒せた記憶がある。

私がクリアしたのは二回。一番クリアしやすい王道第一王子ルートと、郊外での冒険がメインになるおっさんギルドマスタールート。おっさんルートはポーションの調合ミニゲームとかもあって面白かった。

このクリア経験と、光莉情報で、安心安全に暗黒竜を倒してお家に帰るんだ!経験と情報には抜けがあるけど。


ぐっと拳を握って天に掲げ仁王立ちになっている事に気づき、そっと胸の前で手を組んで楚々とした態度に戻す。

が、周囲の貴族達の目線が痛い。

「異世界の方ですしね」

「魔を払う術かも知れん」

などの囁きが聞こえる。好意的な誤解はありがたいです。

そんな中、挨拶が終わった貴族の後方から、若い貴族の集団が近づいて来た。

『貴族の子息と令嬢の集団です。親達の挨拶が終わったので寄って来た様です』

よし、ナイスアシスト、光る物体。

そう。ゲームでは召喚された後の歓迎会で、ヒロインはライバルと出会う。

私は集団に目を凝らした。名前表示は二つ。まだ集団の真ん中の方。慌てず騒がず、順番に挨拶していく。救国の乙女に媚を売って近づこうとする者には「多くの方と挨拶したいので、また後ほど」の呪文を唱え、ライバルともう一人に備える。

そして遂にライバルとのご対面となった。


くるくる。


一言で表すとしたら、それはくるくるである。それはもうゴーシャスな腰まで届いたプラチナブロンドは、くるんくるんにカールしている。腰までなのにくるんくるんなのだから、あれがストレートになったら床掃除出来るに違いない。

そしてキラキラと輝く榛色の瞳はくるんとカールした睫毛に囲まれて、その両脇にある耳の前にもくるくるカールが下がっている。暖簾か?

しかも、たっぷりある髪にも、ふんわりと広がるドレスにもふんだんにリボンが飾られていて、テール部分がくるくるに巻かれている。

白磁の様な肌、桜色の頬、紅色の唇、もう少し毛が少なければ完璧な美人。とにかく毛量が多すぎる。

ああ、そうだった。遥かなるの思い出を語れと言われれば、『すっごいお蝶夫人がいた』の一言に尽きるんだったっけ。


光莉とも「グレートお蝶って、普段どうやって生活してるんだろうね」と笑って話したっけ。


そのグレートお蝶が今目の前に立っている。


「初めまして、救国の乙女様。わたくし、ブランシェ将軍の孫娘、エリニュス・フューリ・ブランシェルでございます。どうぞお見知りおき下さいませ」


ぶっわさり、と大量の捻りパン的な金髪が移動する。

エリニュスは顔を伏せている。グリザンテ国では目上の相手に対して、声をかけられるまで顔を上げるのは失礼なのだそうで、一応救世主である私は王族以外からは目上扱いされるらしい。王族?王族とは対等らしいですよ。「助けろ」「嫌です」を防ぐ為だろうか。でも生活基盤も無くルールさえわからない所に誘拐召喚されたら嫌ですって言えないと思うけど。

エリニュスに続いて、名前表示二人目が膝を曲げる。


「初めまして、救国の乙女。私はメリアス・フューリ・ブランシェルと申します。エリニュスの双子の弟です。工兵隊の隊長をしておりますので、戦闘の際には是非お声掛け下さい。命に変えて救国の乙女をお守りします」


双子だけあって、榛色の瞳とプラチナブロンドがキラキラと自己主張している。ショートカットにしているせいで、毛先がくるんとしているものの、線の細い美少年という感じ。


「モトマチノゾミです。将軍にはお世話になると思います。仲良くして下さいね」


私の声に顔を上げたグレートお蝶。目があった瞬間、榛色の瞳が瞠られた。


「え、えるぴー?」


メリアスが怪訝そうに顔を姉に向ける。

「な?何でその呼び方?」

絞り出す様な自分の声と共に、目の前が真っ暗になった。

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