ステータスウインドウがあれば攻略がぐっと楽になる
上質な一人掛けソファである。ただの椅子じゃない。
それをぐるりと七脚も並べれば結構な規模になる訳で、パーティーの喧騒も耳に入るなか、それなりに声を張らないと聞こえないのでは無いかと心配したけれど、みんな聞き取りやすい話し方と声質をしている。
それもそうだ。人の上に立つ人達なんだから、聞かせる声をしていて当たり前だ。
「私がグリザンテ王国第一王子、ジョルジュ・アーク・グリザンテです。父王の補佐をしています。この度は我が国の危機を救う為、召喚に応えていただきモトマチノゾミ嬢には心から感謝しております。一番の年長ですから、多くの場合に力になれるでしょう。困った時にはどうぞ気軽に相談して下さい。モトマチノゾミ嬢にわかりやすい様に、年長から順に紹介しましょう」
やはり、最初に声を掛けてくれたのが第一王子であっていた。爽やかな笑顔、綺麗な白い肌、ややウェーブがかった腰までの金髪を首の後ろで一括り、涼やかな青緑の瞳、服は白と青を基準にした正統王子スタイル。
「第二王子、ジョシュア・アーク・グリザンテだ。近衛騎士団の団長をしている。よろしく頼む」
キリッとした表情、健康的に焼けた肌、短く刈ったやや白みがかった金髪、青緑の瞳、白と緑を基準にした動きやすそうな短めの丈の服を着て、すらりとした足を組んでいる。
「第一王女、クロティーヌ・アーク・グリザンテ・エルヴェルと申します。エルヴェル公子夫人でもあります。モトマチノゾミさん、急にこんな事になって、不安でしょう。姉の様に思って下さって結構ですわ。いつでも是非頼って下さいね」
女神だ。美の女神が目の前にいる。
輝き波打つ金髪、透き通った青空の様な青い大きな瞳、抜ける様な色白の肌は、頬や唇が薄紅色に輝いている。スレンダーな、それでいて豊かな胸部という女神スタイルを包むラベンダー色のマーメードラインドレスが艶めかしい。
「第三王子、ジェラール・アーク・グリザンテ。魔術研究所主任」
ストレートボブの銀髪に、複雑な刺繍を凝らしたピルボックスハットを被り、青白いと言ってもいい位の肌に、青い瞳、やや無表情気味で整った人形の様な美しさと、グレーと白を基準にした上品なローブが魔法研究という単語にぴったりとあっている。
「第二王女のラクシェス・アーク・グリザンテよ。ジョシュア兄様の補佐をしたり、女性のみの近衛騎士月華隊の隊長をしているの。モトマチノゾミ嬢を守るのは、私達月華隊がメインになると思うから、仲良くして欲しいわ」
第一王女が美の女神なら、第二王女は月の女神アルテミス。銀髪を編んで巻いたクラウンブレイドは月桂樹の冠を被っているかの様。やや垂れ目気味の透き通った水色の瞳は長い睫毛に囲まれている。クリーム色のドレスは左右に大きくスリットが入っていて、そこから覗くしなやかな足はぴったりとした白いタイツに包まれている。
「第三王女のアロティス・アーク・グリザンテです。モトマチノゾミ様と行動を共にする様に言われています。普段は色々な事を学んで過ごしています。仲良くして下さい」
きらりんっ!という擬音が聞こえそうな愛くるしさ。ふんわりとした明るい金髪に、大きな桜色のリボン。翡翠の様な大きな瞳はキラキラと輝き、袖口や裾に白のレースで飾り立てた桜色のドレスが良く似合っている。
……。
あ、うん。
一度に紹介されても、覚えられる訳がない。
ていうか、戦隊物をちょっと彷彿とさせる。
「ルナ、王子達のプロフィールをわかりやすくして。高速で」
『高速了解です』
小さな声でやりとりしつつ、キラキラしまくる王子達に笑顔を絶やさないで対抗する私。
「元町希、じゅ、16歳です」
29にして見た目年齢16歳を詐称するのはかなり痛い。が、見た目16なので仕方無い。腸が千切れそう。
『高速お待たせです』
何も無い空間、私のテーブルの上あたりに文字が浮かび出た。ゲームのポップアップウインドゥの様な物。マナはやれば出来る子だった。
◇王子王女データ◇
◎ジョルジュ・アーク・グリザンテ 28歳 王太子
金髪 目:青緑 カラー:青
◎ジョシュア・アーク・グリザンテ 25歳 近衛騎士団団長
やや白い金髪 目:青緑 カラー:緑
◎ジェラール・アーク・グリザンテ 19歳 魔法研究所主任
銀髪 目;青 カラー:グレー
◎クロティーヌ・アーク・グリザンテ・エルヴェル 24歳 エルヴェル公爵公子夫人
金髪 目:青緑 カラー:ラベンダー
◎ラクシェス・アーク・グリザンテ 17歳 近衛騎士団月華隊隊長
銀髪 目:水色 カラー:クリームイエロー
◎アロティス・アーク・グリザンテ 15歳 王立学園五年生
金髪 目:翡翠 カラー:淡紅
▷セーブ ▷ロード ▷クイックセーブ ▷スクリーンショット ▷セフィーロからのヒント ▷妖精
前言撤回。おふざけが過ぎる。というか、神の野郎アドバイス出来るなら最初っからしろ。きめ細やかなアフターサービスを心掛けろ。そして最後の謎の妖精コマンドが怪し過ぎる。
頑張れ自分、負けるな自分。ここで脱力したら変な人だ。
『更にわかりやすくします』
マナの言葉と同時に、王子達の頭の上に名前が『ピコン』と表示された。
『邪魔な時はウインドゥを見ながら手をぎゅっと握って下さい。消えます。再表示は名前が出ていたあたりを見ながら手を握っていただければ出ます』
だから、こういう便利機能は最初っからやっとけと…。
ん?
王子達のリストを二度見、三度見と確認する。
どこかで見た、気がする。いや、見た。アークグリザンテが並ぶリストを私は昔見た事がある。
記憶を引っ張り出そうと格闘しつつ、失礼にならない様、王子達にファミレス店員仕込みの笑顔を向ける。
「一度に紹介されても困るわよね」
うふふと笑みを漏らすゴージャス女神に、兄弟達もうんうんと頷く。
私が黙ったのは、一気に紹介された事に対応しきれなくて困った状態だと思われた様だ。
いや実際、一気に紹介されて困りましたが。
それは置いておいて、このどっかで見た感じは何だろう。
脳内大混乱状態で、何とか返事を引っ張り出す。
「アリガトウゴザイマスー」
「うふふ、大丈夫よ、ゆっくり覚えてくれて構わないわ。モトマチノゾミさんにはとても大変な使命があるのですからね。それに暗黒竜の復活には未だ時間がかかるわ。それまでグリザンテ王国の事をもっと知ってもらわないといけないし、その為にもアティと王立学園に通って貰うんですもの」
「ソウナンデスカー」
「モトマチノゾミ様は16歳で私よりお姉様だけど、早く生活になれる様に、一年下の私と同じクラスに入ってもらう事になったので学園でもよろしくお願いします」
「ヨロシクオネガイシマスー」
キラキラしいオーラとモトマチノゾミ連呼が思考を邪魔する。せめて後者を排除しよう、そうしよう。
「あの、失礼になるかも知れないのですが…」
「あら、大丈夫よ、異世界のマナーがこちらと違うのはわかっているもの。ねえ」
ゴージャス女神が大丈夫と言ってくれるのなら、結構大丈夫なのだろう。そうだろう。
「私の名前なのですが、続けてモトマチノゾミではなく、親と一緒の名前がモトマチ、名前がノゾミなんです」
「成る程、以前召喚された救国の乙女もネギシフタバで救世主フタバ嬢だったな。ジョルジュ、クロティーヌは覚えているか?」
「ああ、召喚された15年前なら10歳だったしな。それに、問題解決まで2年かかったし、『ネギシフタバ、じゃなくてフタバお姉ちゃんって呼んで』とか言われたし」
「フタバお姉様、懐かしいですわね。賑やかな方でしたわ、あちこち見聞を深めては大騒ぎされてましたもの」
かちり、私の記憶の蓋が開いた。