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向こうはこっちを知っていてもこっちは向こうがわからない

ブックマークありがとうございます。

週末も毎日更新していく予定です。

ミアンと友情を結ぶ事に成功した私は、園遊会の会場に向かった。


ミアンに案内されて会場である中庭に入ろうとすると、入り口にいた騎士にそばの控え室に案内されて、国王の挨拶があるので呼ばれるまで待てと待機させられる。


何よー、呼んどいてそっちの都合に合わせるのかよー。

とは言え、改めて園遊会にあたっての最終打ち合わせにはちょうど良い。

未だに魔法の鎖でぐるぐる巻きになったままの、光る物体をテーブルの上に乗せる。

部屋からここまでぶらぶらと揺らしながら持って来たので、通りすがりの騎士やメイドさんに驚愕の目で見られまくったのは、まあ仕方が無い。救世主というものは訳のわからない異世界人って思って貰った方が、この先気軽に面倒を持って来られなくて済むに違いない。多分。


「解いても逃げないって、約束出来る?」


びったんびったん。


口を塞いだ状態なのを忘れてた。蠢くわりには静かだな、何てちょっと思ってけど。


「もう一回聞くわ。解いても絶対逃げないわよね」

鎖をずらして改めて質問。

「ノゾミ様、答えの選択肢が無くなっております」

ミアンに突っ込まれた。


『逃げません』

「逃げても良いけどその場合、好きで召喚された訳じゃ無いからグリザンテ王国の事は放って逃げるから。使えるらしい魔法を駆使して、それはもうすっごい勢いで逃げるから」

『逃げませんから、解いて下さいぃぃい。それにモトマチノゾミ様に逃げられたら、セフィーロ様のお立場が悪くなりますから、絶対逃げません』


おおう。ファンタジーな妖精から社畜の悲哀を感じるセリフが飛び出した。

社畜といえば私も去年、『毎年夏にカレーフェアをやってるけど、他のチェーンもやってるし、違うのやりたいよね?同じカレー系だと差別化計れないし。元町さん、女性ならではのフェア案10個くらい考えてくれない?明後日までに』というシネシネ案件をぶん投げられたな。『出来ないなんて言わないよね?』というバカ本部長の顔を思い出す。


ちょっとだけマナに優しくしてあげても良いかも知れない。ほんっとうにちょーっぴりだけど。

ぐーるぐーると鎖を外すと、ぐったりした光る物体改め、妖精マナが転がりでる。心なしか発光が弱い。

「今後は基本的にいつも側にいる様にしてね。聞きたい事があるたびに呼び出すの面倒だから。あ、トイレとかはついて来ないでね。プライバシーって大事だと思うのよ。距離感については任せるから、きちんと取れなかったらしばく」

ぷるぷると震えるマナ。

やだあ、そんなに怖がらなくて良いのにぃ。

「大丈夫、ちゃんとしててくれれば悪い様にしないから」

せっかくなので思い出した本部長の胡散臭い笑みをマナに向けてみた。

「ノゾミ様、その笑顔はちょっと…」

当然不評だった。


園遊会会場では、ミアンについてもらって接触してくる相手の情報をこっそり教えてもらう事と、私がその場で決めたら不味そうな事を勧めてくる相手がいたら、さりげなく止めて貰う事をお願いした。

「お任せ下さい。ダブルエージェントに死角はございません」

気に入ったんだね。よろしく。


光る物体改めマナには周囲の警戒をお願いする。

過去に召喚された救世主がいるのなら、私を排除して新しい救世主を召喚し、現在の国王を揺さぶって王位を狙うクーデターが起きたっておかしく無い。味方が頼りになるメイドさん一人と、しょっぱい妖精一匹の救世主陣営はいくら警戒しても警戒したりない位だ。


RPGや戦隊物なら五人パーティーがデフォルトなのになあ。

勇者一名はいお終い、何て、家庭向け懐ゲーレベルだ。それに比べれば二人と一匹な分マシなのか?

「ああ、マッチョが欲しい」

「マッチョとは何ですか?」

「筋肉ムキムキで私達がピンチに陥った時、体を張って守ってくれる生き物」

「暑苦しそうですねえ。しかもやられ役っぽいし」

「そう考えると汗臭そうで嫌かも」

うーん。私が攻撃魔法と防御魔法をマスターすれば良いんだけど、29歳で魔法使いとか、ねえ。いや、体は16歳なんだけど。


控え室に騎士がやって来て、ついに中庭に案内される。

薔薇の茂みに囲まれただだっぴろい芝生には丸テーブルが適度に配置され、茂みの前にずらりと椅子が並べられている。テーブルの飲食物はブッフェ形式で、それを囲んでたくさんの貴族らしき男女が蠢いている。基本立って過ごす形式だけど子供やお年寄りは椅子でゆったりと過ごしている。

うんうん、ちょっと人が多すぎるけど、食べ放題飲み放題、座れる場所ありの基本が抑えられている。

中央奥に一段高くなった場所に国王と王妃、王子達と王女達が揃っていた。


「陛下、モトマチノゾミ様をお連れしました」

「うむ。モトマチノゾミよ、私の隣に来て、臣下達に顔を見せるが良い」


うわあ。めんどくさい。

嫌がってもどうにもならないので、王様の隣に並んで振り向くと、それまでおしゃべりや食事をしていた貴族達が私を見る。


「我が国を支える者たちに知らせる。先に報告のあったダンヴィル山脈に復活した暗黒竜を封印する為、我が国の秘術をもって救国の乙女を召喚した!此度召喚されたのが、このモトマチノゾミである!今後モトマチノゾミに何か求められたら、必ず全力で応えよ。皆の気持ちを一つにして、暗黒竜封印に協力するのだ!」

『畏まりました、陛下』


グリザンテ王の言葉に、みんな一斉に返事をした。男性は片膝をつき、女性は手を揃え腰を屈める。

中々壮観な眺めではあるものの、学生時代の卒業式の練習中に流れる威風堂々がスピーカー故障で途切れてしまい、校長先生とステージに二人きりで待機した事を思い出した。


「楽にせよ」

『陛下に感謝いたします』

ざざっと一気に立ち上がる。動きが一緒で何か怖い。

「この後、モトマチノゾミが皆の間に降りる故、何か伝えたい事がある者は話すが良い」

『承知しました、陛下』

「ではグリザンテ王国の今後の更なる発展を願い乾杯する」

「どうぞ、モトマチノゾミ嬢」

目の前にすっとフルートグラスに入った飲み物が出された。

多分第一王子になるであろう、20代後半位の金髪碧眼の美形。

「ありがとうございます」

みんなが乾杯しているのに、一人手持ち無沙汰になって浮く趣味は無いので笑顔で受け取りグラスを掲げる。

「では乾杯」


揃って掲げたグラスに、日差しがキラキラと反射する。

ロココ調貴族達の間を、男女の使用人がくるくると動きまわる。

ファンタジーゲームの世界か、すっごくお金のかかったコスプレパーティーにでも紛れ込んだ気分になってきた。


「モトマチノゾミ嬢、私の兄弟を紹介させていただけますか?」

かけられた声に振り向くと、さっきの美形。溢れそうな笑顔でスマートに手を差し出して来ているが、残念、私にはどうしていいのかわからない。

掴むのか?掴めば良いのか?いっそ引き倒したり、凄い技をお見舞いすれば良いのか?身に付けてないけど。


「マナ、どうしたらいいと思う?」

『手を重ねたらエスコートして貰えますよ』

「嫌よ、迷子になりそうな子供じゃあるまいし」

『既に異世界という別次元に迷い込んでいますけどね』

「貴様の上司がやったんでしょうが!」


ヒソヒソと囁きを交わす私達に、更に笑顔を深める王子。

困って王様の方を見ると、王様と王妃様は壇上に上がってきた貴族の面々と談笑していて、私の視線に気づいた王妃様は極上の微笑みを浮かべて頷いてくれる。だから、何がうんうん何ですか?

ううう。もうこうなったらビジネスマナーで乗り切るしか無い。多少失敗した所で、異世界からやって来た16歳の小娘なら見逃してもらえるだろう。中身は29歳でも。


「大変申し訳ございません、昨日こちらに召喚されたばかりで、皆様のお顔と名前が分かりませんし、こちらの礼儀作法に適わない事をしてしまう事も多いかと思いますが、どうぞお許し下さいますよう致します」


私の言葉に、王子は一瞬目を瞠った。思っていた反応と違うみたい。不敬罪でいきなりギロチンとかにならない様に用心出来る大人なんです、私は。

それともあれか?既にこの世界の事を把握していると思っていたのか?勇者ならアタリマエー?

そんな機能は無い。今の所は無い。


直ぐに笑顔に戻った王子様は、差し出していた手をすっと円形に配置された七脚の一人掛けソファに向けた。

「どうぞこちらへ」

いつの間に移動したのか、五人の美形が座っている。昨日見たキラキラしたご一行、王様の王子と王女だ。

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