ハンバーグ祭り兼ちょっと情報収集しました
ぺちぺちぺちぺち。ぺちぺちぺちぺち。
挽肉、炒めた玉葱、パン粉、牛乳。ニンニクも入れたかったが、城のガーデンパーティーにニンニクの香りは少々合わない。
よく捏ねたら一食分を手に取って整形する。空気が入っていると焼いた時に割れてしまうので、ぺちぺちと左右の手を行ったり来たり。
「楽しすぎるー!」
「そうですか?」
『早く食べたいですう』
空は晴れ、中庭の隅には良い感じに炭火で温まった鉄板、そしてレンガで作った竈門の上にデミグラスソースの寸胴と、クリームソースの寸胴と、カレーソースの寸胴と、トマトソースの寸胴と、トマトベースに醤油のソースの寸胴。ペンネリガーテはたっぷり茹でで、保温中。
付け合わせの温野菜とフライドポテトもスタンバイ。キッチンメイドさん達がくるくると動き回る。
私とミアンが捏ねたハンバーグの種をぽいぽいと鉄板に乗せれば、炭火鉄板ハンバーグとしてお城のシェフ達が焼いてくれる。時々、アルコールでフランベするシェフもいるから盛り上がる。
さあ、ハンバーグ祭りの開催です!
お城の警備兵の皆様総出で周囲を囲んでいただく事で今後嫌われるのは困るので、警備総長さん部隊長さん達には先に試作ハンバーグという賄賂を差し上げて、祭り終了後の警備兵詰所にてお疲れ様ハンバーグ祭りを開くという事で硬い握手を貰っての実施です。
気がつけば、宮廷楽団の演奏、宮廷魔法使いの花火、騎士達の模擬試合なんかも行われていて、ただ肉を捏ねたかっただけの私は、盛り上がりすぎでは無いかと思ったり。
良いのです、今日はストレス解消、手捏ねハンバーグの日なのです。こねこねこねこね。
『ノゾミさーん、私も作ってみましたあ』
光る物体が見様見真似で私の指先ほどのハンバーグを整形したらしい。
鉄板の上に嬉しそうに載せると、予想通り小さすぎて直ぐに焦げた。
『ノゾミさーん』
「泣くな。寧ろ食べ物を粗末にした事を恥じて、腹を切れ」
『ああああああ!』
「マナ様、ノゾミ様の作られたハンバーグをいただけば良いのでは?」
物体に様をつける律儀なミアンの言葉に、ふらふらとキッチンメイドさんの方に向かう光る物体。
あ、何だか可愛がられている。ミアン曰く、良くお城のキッチンでエサを貰っているらしい。いつ見ても、食べた物をどこに消滅させているのか、カロリー消費はどうなっているのか、食べ物を無駄にして神の使いとして恥ずかしくないのかという疑問が湧く。湧いたところで聞くのも面倒なので放っておいているけど。
中庭に立食スペースと、テーブル席を用意して、お城に来た人は誰でも入れる形にしたので、ジョルジュ王子は恐怖の奥様ルクラティ様や文官の人を連れて来た。ルクラティの目が私をロックオンした次の瞬間こっちに向かって来たけれど、残念、今日の私はハンバーグ捏ね職人なので外からは入れない魔力壁を張り巡らせているのです。あまり鉄板に近づくと危ないしね。ソースコーナで好きなソースを選んだら、キッチンメイドさんが良い感じに焼けたハンバーグをシェフから受け取って提供するので、安全安心のお子様も楽しめるハンバーグ祭りなのです。
ジョシュ王子とラクス王女は騎士の皆さんを連れて来てくれた。体を鍛えている人達が美味しそうにたくさん食べてくれるのは嬉しいな。
あれ、ラングレーさんが数人の冒険者を連れて入って来た。ジョシュ王子とかと話してるから、前に聞いた冒険者さんとの戦闘訓練の打ち合わせも兼ねているのかも知れない。ダイスや仲間はハンバーグを食べながら手を振ってくれているので、生肉を握ったまま手を振り返した。微妙な顔をされた。冒険者でしょー、生肉位で変な顔するなー。ハンバーグぶつけんぞ、食べられるレベルで。
ジェラール王子と研究者達は光る物体の捕獲を試みていたけれど、何とか逃げ出して、魔法壁にぶちあたりつつメイドさんに助けられた物体は、残念ながら私の所に戻って来た。戻って来ないとそれはそれで大事だけど。
『危なかったです』
「何か気になる人はいた?気に入った人とか、逆に嫌な人とか?」
『ご飯をくれる人は好きですよ?びよんびよんする人は嫌いです』
ぽけっとした顔で返してくる物体。使えない。たくさんの人が集まったから何か妖精的な力で、味方と敵を見破ったりするかなーと思ったのだけれど、やっぱり物体は物体だった。
こうなったら自分で観察するしかない。
アティ王女とメリーナとアイシャの一年生3人組がきゃっきゃうふふしながら、色々な味のハンバーグを食べている所は見ていて可愛い。後は、アカデミーで見た事のある生徒が結構いるのと、普段見ない、ゴリゴリのおっちゃん達とか。
よし、わからん!
一番気になるのはドルイダス帝国のレンドルト皇子が、意中のコリント・カルルック伯爵令嬢に熱心に話しかけている事かな。17歳が14歳に手を出す事には抵抗があるけれど、この世界では問題無いらしいし。コリントちゃんのおかげで、最近レンドルトの尊大な物言いも治まって来ているし、これは良い方向に行くかな?行くかな?
「ミアン、グレートお蝶先生見た?」
「いいえ、例の方は家が反召喚側なので、出られないのでは無いでしょうか」
「今日、誰が登城していて、そのうち誰が参加しているのかチェックして欲しいのよね」
「ジョルジュ殿下に伝えて来ます」
「お願い」
すすっとさりげなく移動するミアン。光る物体が懲りずについて行って、アティ王女のテーブルに無事到着。ソース塗れになっている所にジェラール王子率いる、魔術師団が!おおっ、さりげなくダイスとその仲間達が間に入った。いつ見てもポンコツ妖精の性能はあれだけど人気はある理由がわからない。
ハンバーグの肉種も無くなったので、ぼんやりしていたら、悲痛な顔のミアンが帰って来た。何やらエネルギーを一気に失ったかの様。
「お待たせしました。お伝えしました。数人で確認してくださるそうです」
「複数チェックは基本よね。ところで、何でそんなに疲弊しているの?何か酷い事をする人とかいた?」
「王太子妃様が」
「ああ。本当にお疲れ様です。ありがとうございます」
「いえ、仕事ですので」
「えっと、思い切ってジョルジュ王子の側室になっちゃう?」
「なっちゃいません。抉りますよ」
「抉らないで」
私が妖精争奪大会に気を取られている間に、有能なミアンはルクラティ王太子妃の「ねえ、側室にならない?」攻撃に曝されながら、私からのお願いを伝えてくれていたらしい。あの方は、どんな基準で側室に勧誘しているのだろうか。
ひと段落ついて王妃様の所に行くと「大体いつもこれ位の臣下が登城していますのよ」と、笑顔で教えてくれた。園遊会以来、学園の生徒はそれなりに覚えたけれど、貴族の大人は滅多に会わないので一度まとめて出来ればこっそり見てみたいという私の気持ちを見抜かれていたみたいだった。
一番の理由はハンバーグ祭りを開催したかったんですけれどね!
「貴族の婦人や学園に通っていない令嬢は、お茶会で呼び出せますわ。ノゾミさんはガトーやビスキュイやタルトやセックも作れるのでしょう?」
「お菓子類はそんなに得意じゃありませんし、こちらのシェフの皆さんの方が遥かに上質なお菓子を作られると思います」
「そうなの、でも1度くらいやってみても良いと思いますわ。異世界のお菓子って食べてみたいもの」
ふふふっと笑う王妃様。うーん、何やら深く考えていると思われているんだろうか。
人を集めてちょっと観察して何かわかれば良いかなー位の軽い気持ちだったりするんだけど。
正直、ハンバーグを捏ねるのはストレス解消になるけれど、お菓子類は分量やら温度やらがシビアだから、結局余計ストレスがたまる可能性があるからね。
「余裕がある時に声を掛けて下さいね」
悠々と去って行く王妃様を見送りながら、私は残りのストレスを鉄板の焦げ付きにぶつけていた。




