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召喚された勇者って選択肢ありそうで無いよね

ばっしゃーーーーん!

「冷たいぃぃいい!」


水、水、水。


下半身が水に浸かって、上半身は。

「頭からびっしゃびしゃじゃなあああい!」

と、叫んだ私の声が歓声にかき消された。

「嗚呼、感謝致します!」

「セフィーロ様万歳!」

「王様万歳!」

「乙女が!伝説の乙女が現れた!」


ぐるりと周囲を見回す。

私がいるのが直径2メートル、深さ50センチ程のプールみたいな場所。危ないなー、人間水深30センチあったら死ぬんだぞ。

目の前には豪華な服装に王冠を被ったおじさまとおばさま。小さな王冠をつけた三人の王子様っぽいのとティアラとつけた三人のお姫様っぽいの。魔法使いっぽいローブを纏った人達が十人ちょっと、後ろに貴族っぽいお爺さんやおじさんやお兄さん達がいっぱい。

ファンタジーゲームみたいな金髪銀髪美形、渋いおっさん、美おっさん、美おばさま、美青年、美お姉さん、美少女、伝説の魔法使いっぽい爺さん、美爺さん。無駄にキラキラしいな。

謎の美形パワーに押されて振り向けば、後ろには大きなステンドグラス。百合を持った綺麗な人がデザインされている。


「よくぞ現れた、伝説の乙女よ。我が国は危機に陥っている。そなたの力で国を救って欲しい」


王冠の金髪美おじさんがプールの縁に近づいて来て言った。

これはもう諦めるしかないっぽい。

なるようになる。

座右の銘、細く長くは無理そうなので、人生訓二番目、無理はしないでなる様になるを実行するしか無いみたい。


「ええと、先ずはタオル貸してくれません?」


べしゃべしゃと水を垂らしながらプールを脱出しつつ発した私の言葉に周囲の目が白くなった、気がした。

ささくれた心が思いついた案『王様のマントで拭く』を実行しなかっただけましだと思って欲しいんだけどな。


ふっかふかのバスタオル数枚にくるまって、ふっかふかのソファに座らせてもらいつつ、とっても良い香りの紅茶を飲む。

さっきびしょびしょになったのはセフィーロの神殿の広間だそうで、早く話をしたいらしい王様達に連れられ神殿の応接室に案内された。

紅茶、あったかーい。

後、次会ったら妖精の羽毟る。


「救命の乙女よ、名は何と申す?」

質問してくる王様。応接室にはさっき見た王妃様らしき人と王子と王女らしき人達、偉そうなお爺さんが五人、ローブを着たお爺さんが一人。大きなテーブルに向こうは十四人、私は一人。アウェー感が凄い。

しかも、王族の方々は応接室の一番端からこちらを伺っている。危険人物の可能性も疑われているのかな。どんな異世界人が召喚されるか分からないからね。遠すぎてティアラつけてるなーとか、金髪と銀髪の美形っぽいなーとか、大雑把な感じしかわからない。ざっくり考えて王冠つけてたらそれは王族ですよ。


「元町希です」

「無礼者!王への返答がなっていないぞ!」


偉そうなお爺さんその1に怒られた。

「まあ、怒るな、ブランシェル公。モトマチノゾミは召喚者なのだから、グリザンテの法は追々学べば良いだろう」

と、王様。許してくれている様で、許してないよね、それ。


「良いか、モトマチノゾミ、我が国は未曾有の危機に瀕している。暗黒竜が復活し、やつの巣であるダンヴィル山脈にリザードマンやドラグーンが集まっているのだ。今はまだ戦闘にはなっていない。しかし、奴らの戦闘態勢が整えば我が国の街に侵攻してくるだろう」


頭の中に蜥蜴の亜人と炎を吐く小型竜の亜人の姿が浮かぶ。

嵌っててよかった、魔法研究。ファンタジー小説を読みまくってた甲斐があったよ!じゃなくて!浮かんじゃう自分がちょっと悲しい。


「国の軍隊で蹴散らせないんですか?」

「うむ。我が国の騎士は勇壮であるが、ドラゴン種は体そのものが戦闘に向いておるからな。モトマチノゾミの世界のドラゴン種は弱いのか?それとも人間がとても強いのか?」

「ええと、強い弱いとかじゃなくて、ドラゴンいないです」

『何だと!?』

『何ですって!?』


黙っていたみんなが一斉に喋りだす。小さめの声ではあるけれど、ちょっとうるさい。

ドラゴンを見た事も無いのに戦えるの?とか、召喚に問題があったのか?とか、もっと恐ろしい化け物がいるのか?とか。


「モトマチノゾミ、そなたは何をしておったのだ?魔術師か?妖術士か?騎士か?魔法戦士か?」

「飲食業の正社員ですが」

「インショクギョウノセイシャインとは何だ?」


話が進まない。積極的に進めたく無いけど。個人的には可及的速やかにお家帰りたい。

ローブを着たお爺さんが椅子から立って私をひたりっと見据えた。

目力が凄い。


「ワシは王宮筆頭魔術師ヴォルバスじゃ。よろしく頼む。モトマチノゾミはワシらの国には無い隠蝕の聖者院という場所におったのだな」


何だその職業は、その職業は何だ?

ダメ妖精の力でヴォルバスさんの言葉がすんなり頭に入って来たけど、すんなり出来ない謎の変換がされている事も頭に入って来た。


「グリザンテ王よ、モトマチノゾミの世界は我らの世界と違う故、解らぬ言葉も多いのでしょうな。しかし、セフィーロ神のお導きで召喚されたのは事実。我らには無い力を持っており、暗黒竜を倒す事が出来るのでしょう」

「うむ、流石ヴォルバス。確かに異世界から来たのだから話が通じなくても仕方が無いな」

おぉぅ。勝手に納得してやがるん。

「モトマチノゾミよ、そなたの力で暗黒竜を倒してくれ。頼んだぞ。グリザンテ王国はモトマチノゾミに協力を惜しまないぞ」


良かったわ、これで安心ね、うふふ。

グリザンテ王おめでとうございます。

妹達もこれで安心だな。

交易も安心ですな。


楽しそうに話だす一同。


「ちょっと待って下さい」

一気に危機回避気分で和やかになったっぽい王様達に、私は慌てて声をかける。

「どうしたのだモトマチノゾミ」

いちいちモトマチノゾミモトマチノゾミって言われるのもうざい。

いや、私の名前なんだけど。氏名をつなげて呼ばれるのなんて、学校の卒業式とか限られたときだけだよねえ。

そうじゃなくて。

「何で私一人が、暗黒竜とその仲間達を倒す事になってるのかなー?と」

「どういう事だ?」

「だから、何で私一人が倒す前提になってるのかなって。だって、この国の危機なんでしょ?この国の人が先頭に立って戦うべきだよね?私が協力する立場だよね?大体私がどれ位強いかわからないでしょ?正直私もわかんないんだけどね、自分がどれ位強いのか。そんな人間に全部任せちゃダメでしょ」

王様達はそれぞれ味わいのある表情を浮かべて私を見る。

かんっぜんに『もう私達関係無いもんねー。後はこの変な女が何とかしてくれるもんねー』みたいに思ってやがったな。


「わかっておる、ダンヴィル山脈に行く為の協力は惜しまぬ。無論今から国内での行動全てに最大の便宜を図ろう!」

要らんし。間違ってるし。

うーん、どうするかな。

えっと。

あ、そうだ!

「マナー!マナー!」

私は妖精の名前を叫ぶ。

叫びだした私を変な目で見る人達を気にしている場合では無い。

困った時は呼べ、そう言ってた!

「マナー!マナー!」

暫し待つ。

返事無し。

「マナー!出て来ないなら次会った時羽を引き毟る!ついでに髪の毛も毟る!」


きらきらぴかぴか。


『救命の乙女元町希さん、お呼びになりましたか?』

「これ以上ないくらいきっちり呼んだけど?」

脅さないと出て来ないってどうよ、と思っていたのは私だけみたいで、みんなは『セフィーロ様の御使だ!』と感激している。

「取り敢えず、全部私にひっかぶせようとする人達を止めてくれない?私はこの国の事なーんにもわからないんだから。後、私がいつまでに暗黒竜とやらを倒せばいいのかと、現地まで確実に案内してくれる人をつけてくれる様にして欲しいし、って本当に私が何とか出来る訳?竜って大きいんでしょ?」

『元町希さんの13歳からの召喚術や魔術の研きゅ』

「ああああああああああああ!」

今日一番の大きな声が出たと思う。

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