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囚われ妖精と決闘の顛末。縦ロールを添えて。

午前中はエルベット先生の基礎魔法の授業だったので、大体半分位の時間本を読んで過ごし、残り半分で私の魔力を先生が変換して初歩魔術の発動という実験みたいな授業をした。

実験はなかなか面白くて、最初は魔力供給源として自分から先生に魔力が流れるイメージをするだけだったんだけど、調子に乗って以前勉強した人間の経脈を意識して魔力を流す瞑想とか、五大エレメントを思い浮かべて集中するとかやっていたら、先生も楽しそうに二人で属性を揃えた場合と、相反する場合の発動の違いを披露してくれた。


お昼は特に問題も無く、チーム可愛いなアティさんメリーナさんアイシャさんと授業の感想を話しながら食べる魚のソテー定食も美味しい。

本来やたらと主人公に絡む筈のエリニュスは学年も違うし、光莉が中に入っているしで広い食堂の対角に離れて席を取っていた。昨日と同じく男子生徒に囲まれていて、大量の縦ロールを物ともせず綺麗な姿勢でソース系のスパゲティを食べている。

召喚されてついこの間まで日本人をやっていた私と違って、転生した光莉は長い日本人としての経験と努力し続けた16年のグリザンテ人の経験を持っているのよね。何だかとっても凄いな、と思って見ていたら座っている膝の上に何かカサリとした感触があるので覗いてみるとメモが一枚。


【私のグレイトゴージャスに見惚れてご飯こぼさないでね。私は攻略対象じゃないぞ♡】

【☆祝☆高次元魔術師えるぴー授業で大活躍!もう黒歴史なんて呼ばせないwww】


光莉とはゆっくり話し合う必要がありそうだ。


光莉にやや遅れて食堂に入って来たジェラールは、何やら弱く光る物体を紐で括ってぶらぶらとぶら下げていた。

きょろきょろと食堂を見廻し、私と目が合うとこっちに向かって来る。無表情でこっち来んな。


「ジェラ兄様、ノゾミお姉様に御用ですか?」

「これ」


ゆやーんゆよーんゆやーんゆよーん


『ノゾミさん助けて下さいぃ。御使いの私を謎の入れ物に入れて、ぶんぶんしたり、ぎゅうぎゅうしたり、ぐるぐるしたりするんですぅ』


ああ、また忘れてた。必要な時は呼んだら来ると思ってたから、そんな重要じゃないと思ってたわ。


「もう少し貸して欲しい」

「どうぞどうぞ」

『うええええええ!嫌ですよお。助けてくれないと消滅しちゃいますよ?』

「消滅……。観測したい」

「消滅したらどうなるの?」

『自然の気が集まったら、セフィーロ様の前で復活します』

「復活するなら何かが減るわけじゃあるまいし、こっちはマナの協力が無くても大丈夫そうだから、研究されてて。それにほら、ここで研究されておけば、将来ピンチになった時、何かの役に立つかも知れないでしょ。そのよくわからないぶんぶんだのぎゅうぎゅうだのぐるぐるをする事によって、結果何もわからないかも知れないけど、ぶんぶんとぎゅうぎゅうとぐるぐるをしても何もわからない事がわかるのよ。そしたら次はそれ以外の方法を試す事が出来るでしょ」


揺れているマナを説得していたら、ジェラールがひし!と私の手を取って見つめて来た。

やだ怖い。無駄に美形が顔を赤らめてる。


「良く理解している」

「理解というか、研究じゃなくても基本何でもそうですよね。どう考えても無駄だとしても、やっぱり無駄だった事を証明しないといけない時って結構あるし、害が無いならとりあえず無駄になると分かっていても、無駄という結果を出してもうやらなくて良いようにしておけっていうやつです」


ぶんぶんと縦に首を振るジェラール。


「妖精研究の為にお持ち下さい」

『ノゾミさんの鬼ー悪魔ー妖魔ー魔獣ー悪霊ー邪霊ー邪鬼ー妖獣ー』


何だか色々言いながらジェラールにお持ち帰りされるマナに笑顔で手を振ってやった。


ーーーーーー


放課後の第二訓練場。何だかたくさんの観戦者がいる。みんな暇だな。

レンドルト皇子もラクスさんも白い軽装の鎧をつけて、先を潰したレイピアとマンゴーシュを持っている。

一応手袋をぶつけられた私も鎧をつけているが、武器を持ったら意外と重かったのでそっと元に戻した。ほら、魔法の指輪あるし、防御だって盾っぽい感じで念じたら何とかなるし。


「レンドルト皇子、決闘を申し込まれる覚えは無いのですが、先に説明して下さいませんか?」


凛々しく立つラクスさんの言葉に、女生徒から黄色い歓声が上がる。

きゃー。

って、見に来た女生徒ほぼほぼラクスさんのファンじゃないですかー!


「胸に手を当てて考えてみろ!」

「?全く覚えがありませんが?」

「カルルック伯爵令嬢を知らないとは言わせないぞ!」

「カルルック伯爵は知っておりますが、伯爵令嬢の事は存じません」

「コリント・カルルック嬢だ!」

「コリント・カルルック嬢……」

「ラクシェスお姉様、私がコリント・カルルックでございます。レンドルト殿下、どうか決闘などおやめ下さい」


わっさりもっさりとしたラクスさん応援団の中から、若葉色の髪に青緑の瞳、背の低い可愛らしい子が前に出て来た。


「カルルック令嬢は実に好ましいレディだ。ドルイダス帝国への留学を勧めたのだが、まだ親と離れて他国に行くのは無理だと言われた」

「レンドルト殿下、私はまだアカデミーの四年生ですし、大きなお話は父にして頂きます様お願い致しました。それにラクシェスお姉様は関係ありません」

「カルルック嬢、きちんと覚えていなくてごめんなさいね」

「とんでもないです。多くの生徒が通うアカデミーで、学年も違うラクシェスお姉様に覚えていただけるなんて思ってもおりませんし、ましてや謝罪をいただくなんて恐れ多い事です」

「学生は皆平等よ。同じアカデミーに通う者として、謝罪を受けて欲しい」


爽やかなイケメン笑顔を浮かべながらコリントさんの頭を撫でるラクスさん。女生徒の歓声が大きく上がり、コリントさんが真っ赤になる。

一体私は何を見せられているのか。帰りたい。帰って光莉に苦情の手紙を書きたい。


「ふざけるなっ!」


ぷるぷる震えながらレイピアを構えるレンドルト皇子。

子鹿か?


「俺は帝国の皇子だ!何で俺が気に入ったレディが全て騎士(ナイト)ラクシェスを好きだと言うんだ?おかしいだろ!」

「ああ、つまり、レンドルト皇子は気に入った可愛い女の子に無茶を言った挙げ句、振られて可愛い女の子に人気があるラクスさんに嫉妬してるのね。だっさ。情けな。せっかく皇子なのに、かっこい悪いですね」

「ああ⁈貴様、許さん!」


ダッシュでこっちに突っ込んで来る。

ラクスさんが私の前に素早く立った。

私は両手を前に伸ばす。目の前に大きな壁をイメージする。ラクスさんより向こう側、レンドルト皇子の走ってくるその前に。


ごすっ!


謎の鈍い音と共に、レンドルト皇子が見えない壁に跳ね飛ばされた。


「なっ!正々堂々と勝負しろ!」

「私魔術師なので、無理です」

「騎士ラクシェス!その女をこちらに寄越せ!」

「それは出来ません。朝にも言いましたが、ノゾミさんは国賓です。それにレンドルト殿下は私に決闘を申し込んだのです。剣術が出来ないノゾミさんに攻撃をするのはやってはいけない事です」


どうするかな。たくさんの女生徒が見ている状況でレンドルト皇子が引くのは難しいだろうし。


「お待ち下さい、レンドルト殿下」


ざざっとわっさりもっさりの女生徒が左右に割れた。

そこに現れたのは、満面の笑みを浮かべたキラキラファッサー。

何故か笑顔が悪巧みを企む悪の組織の女幹部っぽいが、縦ロールが凄すぎて、そっちに目がいく。


「レンドルト殿下がグリザンテにおいでになってまだ数ヶ月です。今レンドルト殿下に憧れるレディがいるとしたら、それはレンドルト殿下の麗しい見た目に惹かれただけで、内面まできちんと理解していないのではありませんか?声を掛けただけで、ついてくる様なレディは、大国ドルイダスの皇子の友人に相応しくありませんわ。ラクシェス殿下はこの国の第二王女として、ずっと下級生の手本として生活されています。ですので、レンドルト殿下とラクシェス殿下を同じ様に比べてはいけないと思いますの」

「エリニュス嬢…」

「ドルイダス帝国第二皇子といえば、帝国の宝石皇子として有名ではありませんか。留学して、食べ物や生活様式が変わってしまい、心労が溜まってしまって、つい言葉がキツくなってしまっている姿を見て、誤解されては勿体ありませんわ」


無駄にキラキラエフェクトを飛ばしながら、縦ロールを風に靡かせるエリニュス光莉。そんな靡いている縦ロールが、隣で笑顔を浮かべているメリアスの姿を見え隠れさせているあたり、放課後も縦ロール絶好調である事を窺わせる。

わっさりもっさり女生徒、決闘を申し込んだ中東風美形、決闘を申し込まれた中性的な麗人、もう帰りたい私、可憐な美少女、そんなとりとめのない状況でのキラキラファッサーは攻撃力が半端ない様で、あれだけ激昂していたレンドルト皇子がレイピアを鞘に収めて口元に笑みを浮かべた。

凄いな光莉。見事な丸め込みだ。詐欺師か?

隙をついてこっそり帰ろうとしていた私とは違う。


「確かに、エリニュス嬢の言う通りだな。ラクシェス王女、失礼した」

「いいえ、わかっていただけてありがとうございます。若し、カルルック令嬢に留学をお勧めならカルルック伯爵に話を通してくださる様お願い致します」

「エリニュス嬢、一緒に食事でもどうかな?」

「まあ、喜んで」


レンドルト皇子の腕に手を載せて、割れたオーディエンスの間を去っていく光莉。

残された私たちは、ラクスさんが「では解散ね。気をつけて帰って欲しい」と言うまで呆気に取られていた。

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