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忘れた頃に中二病が成就する

平々凡々、つまらない毎日を過ごしていた、と思う。

高校の時、母が亡くなった。平均寿命を考えたらちょっと早い。

それから父子家庭ってやつで頑張って来た。まあ、頑張るってほどでもないけど。

父と母は共稼ぎだったから、父もそれなりに家事は出来たし、高校生の私も一通りの家事は出来た。

そんな父も私が大学三年生の時に亡くなって、ライフラインの手続きや父の暗証番号が分からなくてちょっと焦ったけど、学費や生活費は貯金も両親の保険金もあったから、相続手続きで力尽き掛けた所で区役所に泣きながら相談したら何とかなった。

両親の親達、私の祖父母達は既にいなくって、天涯孤独ってやつになった。

字面だけならちょっとかっこいい。数は少ないものの、親友って呼べる友達がいたから一人ぼっちな感じは無かったし。

大学四年生の時、一人暮らしにばたばたしながらも、何とか地元でチェーン展開しているファミリーレストランに就職、新商品の企画、事務作業、経理作業、足りない時のウェイトレス、食材仕入れの交渉、つまりは何でも屋をこなしながら7年、29歳一度も彼氏の出来なかった崖っぷちのお一人様。

座右の銘は細く長く、遺産があるから最悪無職になっても平気なのんびり人生。

だったんだよ。

だったの。

だったんだけど。


きらきらぴかぴかと、カラフルに光り輝く謎の妖精?が目の前にぷかぷかと浮いている。

霧に包まれたような、ぼんやりとした場所。床は凍った湖面の様。


どこよ?


私はいつどうやってここに紛れ込んだんだっけ?

『私はグリザンテ王国の神、セフィーロに仕える妖精マナ。あなたはグリザンテ王国の救命の乙女として召喚されました。さあ、神の力を授けましょう』

30センチ位の二等身キャラ的な発光体妖精が喋り出す。


何これ?


暫し沈黙。

無駄なぴかぴかが目に痛い。

『私はグリザンテ…』

「わかった。聞こえてる」

『良かった、さあ、神の力を授けましょう』

「要らない」


またしても訪れる沈黙。

きらきら。ぴかぴか。

目に来るから省エネしても良いのよ?


『私は…』

「それはわかったから。というか、あれなの?ゲームの同じ事しか言わない村人みたいなものなの?」

『ふぅ』

ため息つきやがった。

『知っているのよ、元町希(もとまちのぞみ)さん。貴女は13歳の頃、精霊を呼び出そうと召喚術の訓練を…』

「ぎゃあああああああ!」

『そして15歳で魔法ショップに通い、占いや魔法道具を…』

「がああああああああ!」

『お父様が亡くなってからは、段ボール箱に魔法陣ノートや道具を全て封印し…』

「ごめんなさい、もう許して下さい、死んでしまいます。恥ずかしくて死んでしまいます」


私は華麗な土下座を決めた。


謂わゆる中二病ってやつだ。

中学生の時、クラスメートの持って来た『ドキドキ恋のおまじない特別号!精霊召喚で彼氏をゲット!』とかいう頭悪そうな雑誌を見て、魔法にはまった。緻密な魔法陣の数々、何やら心を掴むデザインの杖や輝石やハーブや粉、リアリティあふれる召喚獣や精霊。

『これは頑張ったら実際にいけるんじゃない?』

そう思っちゃったのだ。

だって、すごい人数の先人が魔法の研究をして成功しているって言ってるんだから、アニメや小説みたいに派手な事は無いにしても、地味に出来て当然だと、そう思っちゃったのだ。


その努力は報われず、私の前に精霊も悪魔も現れなかった。

魔法界隈では有名なマンドラゴラも見つけられなかった。

父も亡くなって就職もして、地産地消って凄い。光からエネルギーを得て野菜になるなんて、ある意味魔法じゃない?と思っていた今、目の前にいるこの生き物、と言って良いのかわからない謎の知的生命なのか不明な物体を受け入れるのは無理だ。

今更なのだ。私はそう、自立した大人の女性なのだ。


「っていうか、私どうしちゃったの?」

『元町希さん、貴女はグリザンテ王国の救命の乙女として召喚されました』

「またそこから?」

私はこめかみを指でぐりぐりと押した。

「ええと、頭を整理したいから私から質問して良い?」

『良いですよ』

やった、話が通じる。

「私は死んだの?」

『死んでいません』

「ここはどこなの?貴女が召喚をしたの?」

『ここはグリザンテ王国と貴女のいた世界を繋ぐグリザンテ王国側の中間界、グリザンテ王国の神の住む場所の最下層です。召喚したのは王国の魔法使い達です』


ふむ。


これが夢でなければ異世界召喚ってやつだ。

「何で呼んだ連中のとこじゃなくてここにいるの?」

『いきなり別世界に呼ばれたら困りますよね?我が神セフィーロは、元町希さんとグリザンテ王国の為に状況を説明、力を貸すように私にお申し付けなさいました』

「親切!」

確かに、いきなり得体の知れない連中の中に放り出されたら、訳が分からなくなって困る。下手したら訳のわからないまま死ぬ。

とはいえ、よ。

「ねえ、帰って良い?っていうか、お家に返してくれない?勝手に呼び出されても困るんだけど。明日は売り上げの落ちてるお店に顔出さないといけないし、明後日には季節のハンバーグフェアが始まるのよ。私エリアマネージャーだからね、店長達が困っちゃう」

『帰れません。グリザンテ王国の危機とハンバーグフェアとやら、どちらが急務だとお思いですか?』

「ハンバーグフェア」


沈黙。

いやだって、ハンバーグフェア転けたら私の査定に響くし。

お金はあればあるだけ良いんだよ?天涯孤独の私は将来安心安全の老人施設に入るんだから。


『残念ながら帰れませんので、諦めて下さい』

「酷い!誘拐犯!」

『何とでも言って下さい』

「開き直りやがった!」

『セフィーロ様からのお言葉を伝えます』

「話通じたと思ったのに全く通じて無い!」

『選ばれし救命の乙女元町希よ、危機に陥ったグリザンテ王国を救うのです。その為の力を授けましょう』

「要らない、お家返してぇ!」

『先ず、貴女の体の年齢を16歳に戻します』

「何故?」

『体力が落ちていく年齢に差し掛かっているからです』

「酷い!年寄り扱い!確かに高校生には負けるけど…」

『16歳の頃を思い出して下さい。召喚や魔法を渇望していたあの頃を』

「今はそんな夢見てないから!見てないから!」

『しかも五割増しの美しさを追加させていただきます』

「綺麗になるのは嬉しいけれど、どういう理由か分からなくて怖いんだけど?」

『見た目が良い方が、選ばれし乙女としてよりありがたく思われるからです』

「ゲスい!考え方がゲスい!見た目で騙されるバカがいるって言われてるみたいで嫌すぎる!後、私の顔が否定されている!」

『そしてグリザンテ王国とその周囲で使われている言語を理解する能力を授けます』

ああああああ。固められている。周りをガッチガチに固められている。

『更に魔法の指輪をひと組み授けます。貴女世界の長年の魔法の研究結果を具現化する事が出来ます』

「具体的には?」

『指にはめてゆっくり五つ数えるほどの時間集中すれば、貴女が研究した魔法が使えます』

「つまり燃えろと思ったら燃える?みたいな感じ?」

『そうですね。燃えない物や燃えにくい物はすぐ消えてしまったりしますが』

私の両手中指に繊細な蔦の絡まった様なデザインの指輪が現れた。

「ふお!これお返しして帰りたいんだけど」

『却下です』

「うわああああああ!」


私の周囲に弾ける様な光が溢れ出した。

妖精何とかの輪郭がぼやけていく。

『困った時は私、妖精マナを呼んで下さい』

「助けに来てくれるのおおおお?」

『可能であれば』

「何それえええええええええ!」

私の絶叫と共に、身体中が光に包まれて、意識が遠くなって…い…。

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