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情報屋たち /骨董屋・ミツル

電車に乗って二十分、そこから歩いて更に三十分後。


二人は目的の店の前に到着した。


が、マカの顔色が明らかに暗い。


「『骨董屋 闇夜想あんやそう』…。闇業職人と言い…今日は闇に取り付かれる日なのか?」


「まあ闇が関係しているのが分かるお店ですね」


「ミコトの職業名もな…」


ぐったりしながら、マカは店の引き戸を開けた。


 ちりんちりーん


甲高い鈴の音に、マカは軽く眉をひそめる。


「いらっしゃい。お客さんとは珍しい」


鈴の音を聞いて、一人の女の子が店の奥から出てきた。


和服の上に白いエプロンをした、メガネをかけている女の子は、無表情を変えずに声をかけてくる。


「当店に何かご用で?」


その無表情と声は、とてもではないが接客業をしているとは思えない。


しかしマカも淡々と答える。


「アンティークショップを営むカガミの紹介で来た。こちらにミツルという情報屋がいると聞いてな」


そう言ってカガミから預かった手紙を女の子に差し出す。


黙って受け取り、中を確認した後、女の子は頷いた。


「少々お待ちを。店主を呼んでまいります」


女の子は再び店の奥へと引っ込む。


「…何だかちょっと、マカ先輩に似ていますね」


「そうか?」


「あの淡々としたところが特に。ですがあの雰囲気は…」


「ミコトに似ている、な」


リリスとマカは眼を細めた。


ミコトには重く暗い空気を感じ取っていた。


それはリリスやマカがまとう空気と同じではあるが、種類が違う。


「まあこちらで働いているモノですし、人成らざるモノでもおかしくはないでしょう」


そう言いつつリリスは店内を見回す。


「カガミやソウマさんのお店とは違いますね。曰く付きの骨董品を扱っているようで」


「だな。あの二人は新しい物を扱うが、こっちは古くて重い―」


物の一つ一つから、絡みつくような気配が漂っている。


コレには流石のリリスも近寄らず、一定の距離をたもっている。


マカも動かずじっとしていると、一人の若い和服姿の青年が奥から出てきた。


「お待たせしました。マカさんとリリスさん、ですね? 闇夜想の店主・ミツルと申します」


ミツルは笑みを浮かべ、頭を下げた。


「ここでは何ですから、奥へどうぞ。長い移動でお疲れでしょう?」


「そうだな」


そしてマカとリリスは、店の奥の広い和室に通された。


座布団に座ってすぐ、先程の女の子がお盆を持ってやって来た。


「お茶と芋ようかんです。どうぞ」


丁寧な手付きで置かれるものの、やはり愛想はない。


「愛想が無くて済みません。彼女はウチの店のバイトで、マナと言います」


「どうも、はじめまして」


マナはミツルの後ろに控えるように座った。


しかしマカはマナの名前を聞いて、眼を見開く。


「マナ…? それは本当の名前なのか?」


「はい」


「…むぅ」


「どうかしました? マカ先輩?」


難しい顔をするマカを見て、リリスが首を傾げる。


「…お前やカガミのような異国のモノは知らないだろうが、マナという言葉は日本では特別な意味を持つ」


マナは『真名』と書く。


真名は人間の本当の名前の意味をさす。


通常、親に付けられた『通り名』と呼ばれる一般に使われる名前とは、また別の力を持つ名前。


真名を知られてしまうと、操られてしまうと言われている。


身も心も全て―。


ゆえに『隠し名』とも真名は言われており、知っているのは本人だけと言われている。


「しかし通り名としてマナと名付けられたのならば、それは…」


「『真の名が無きモノ』という意味になりますね」


マカの言葉を継いだのは、ミツルだった。


「人間であれば、真名があって当然のこと。しかし彼女にはありません」


「人間、ではないというのか?」


「いいえ。マナは人間ですよ。―ただの、とは付きませんけどね」


苦笑しながらミツルはマナを横目で見る。


「俺は残念ながら普通の人間ですけどね。彼女はまあちょっと…」


そこでマカは、最初にマナに会った時に感じたことを聞いてみることにした。


マナと同じ空気を持つ者と、マカとリリスはあのアンティークショップで会っている。


「カガミの店で、ミコトという名の闇業職人に出会った。お前はその血縁者なのか?」


「ミコト…? アイツと知り合いなのか?」


ミコトの名に、マナは反応した。


「ミコトは私の従姉妹だ。ここ数年は会っていないが、元気にしているか?」


「ああ。元気そのものだったな。しかし自分の先祖が呪術師であったことは、暗い表情で語っていた。…マナ、お前も同じ先祖を持つモノなんだな?」


マナは軽く唇を噛んだ後、頷いた。


「―そうだ。私もまた、呪いと祝福を持つモノ。制御も対処もできない、血縁者だ」


「やはり、か…」


マカはため息と共に言葉を吐き出した。


「ミコトはここから1時間ぐらいの店に、自分の作ったアンティーク品を売り出している。カガミに言えば、連絡を取ることもできると思う」


「…そう。まっ、気が向いたら行ってみる」


そう言った後、マナは再び無表情に戻った。


その様子を見て、ミツルは肩を竦めた。


「無愛想な店員で申し訳ない。それで記憶改ざんのことですがね」


「ああ」


「カガミさんから連絡を頂いた後、俺なりに情報を集めてみましたが、他勢力があなた達の所へ向かったということはないそうです」


「…密かに、ということもなく?」


「ええ、断言できます。そもそもマカさん、あなたの所には余程強い力の持ち主でも無い限り、いろんな意味で近付けませんよ」


ミツルは遠い目で失笑する。


確かにマカの周りには人成らざるモノがウロウロしている上、護衛役のモノもいる。


そんじょそこらのモノが、簡単には近づけないのだ。


「なら道具の心当たりは?」


「そちらも残念ながら。…ですが昔、気になる話を聞いたことがあります」


「どんな?」


「大分昔の話なのですが…」


それはとある特殊体質の能力者の話。


そのモノは自らの血が発する匂いで、他者を操ることができた。


人間だけではなく、動物や植物なども自在に操ったらしい。


「血…。匂い…? …人や動物や植物を操る?」


呟いていくうちに、どんどんマカの表情が険しくなる。


「何だかマカ先輩の血族にありそうですわねぇ」


のんびりと芋ようかんを味わっているリリスが、考えながら言った言葉に、マカは動きを止めた。


「だがそんな能力者、聞いたことないぞ?」


マカの返答を聞いて、リリスは改めて正面から見つめる。


「…前々から聞きたかったのですが」


「何だ?」


「マカ先輩は血族の全てを知っているんですか?」


「……いや、全て、ではないが……」


渋い表情でマカは言葉を区切る。


何せ血族は謎が多い。


その上、マカは途中から表の世界に出てきているせいで、内情に少々疎いところがある。


それを今までルナやソウマにカバーしてもらっていたが…。


「だが能力者の種類については詳しいつもりだ。そんな体質の持ち主、いれば私と面会させるはずだしな」


「なるほど。強かったり特殊な能力者であれば、マカ先輩と面会可能なんですね」


「…と言いつつ、何をメモしているっ!?」


リリスはどこからか手帳を取り出し、書き込んでいた。


「何でもありませんって。ですが困りましたね。八方塞がりじゃありませんか」


「…いや。とりあえず先程の体質のことを、ソウマに聞いてみる。道具の可能性も含めてな」


「新作っていつ、どこで出ても不思議じゃありませんものね」


「…厄介だな」


マカはため息をつきながら、芋ようかんを頬張った。


「んっ、んまいな。この茶も美味い」


「ありがとうございます。マナが和菓子と緑茶が好きでしてね。良いものを買っておくよう、言われているんですよ」


マカとリリスはじっとミツルを見た。


「店主、随分とマナに甘いんだな」


「もしかして甘い仲ですか?」


リリスの言葉を聞いて、マナはキッと睨みつけてきた。


「私はコイツの監視役だっ! 妙な物を客に売り付けないよう、見張っているんだ!」


「…と言うことで、俺の片想いです」


「ミツルっ!」


「あはは。まあそれは置いておきまして。引き続き調査をした方が良いですか?」


「ん~、いや。今回はここまでで良い。後はウチの情報屋に任せてみる。ところで報酬だが、金と貸し借り、どちらが良い?」


「ウチはどちらも扱っていますが…初対面ですからね。これからもご贔屓にしていただきたいので、貸し借りの方で」


「なら、コレで良いか?」


マカは再び名刺を取り出し、テーブルの上に置いた。


「私が裏のモノと連絡を取っている時に使っている、連絡先だ。カガミにも同じモノを渡してある」


「そうですか。では今回はこれで構いません」


ミツルは面白い物を手に入れたという表情で、名刺を手に取った。


「これからもご縁ができると嬉しいです」


「まっ、どうなるかは運次第だろう。リリス、そろそろ行くぞ」


「ですね」


二人は綺麗に芋ようかんと緑茶を片付け、立ち上がった。


ミツルとマナは店の外まで見送りに来た。


「ところでそのサクヤという人物、あなたに何かしてきましたか?」


「今のところは特に。私が逃げ出したというのもあるがな」


サクヤのことを思い出し、マカは苦々しい気持ちにさせられる。


「いくら私でも、見知らぬモノを知人として扱うことは難しいし、突然過ぎた」


「そうですね…。まああなたが目的ならば、そう遠くないうちに何かやるでしょう。くれぐれもご注意を」


「ああ、分かっている」


ミツルの言ったような体質ならば、余計に警戒した方が良いだろう。


下手をすればクラスメート全員を人質に、何か要求されるかもしれないからだ。


「もしもの時は、ぜひご連絡ください。お力になりますよ? ―報酬次第では」


「最後がなければ良かったんだがな。まっ、最後の手段としては考えといてやる」


「ありがとうございます。ではお気を付けて」


ミツルは笑顔で手を振り、マナは黙って頭を下げた。


帰り道、マカは険しい表情で腕を組む。


「血による体質能力、か…。確かに同属と考えた方が良さそうだ」


「血族、全てを知っているのは現当主だけですか?」


「どうだろうなぁ…。数は少ないが種類は豊富だからな、ウチの血族」



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