表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空色のカナリア  作者: 山門芳彦
第一章 旅の終わり
8/44

コロシアムの動揺


 奇跡が起きた。そうとしか言いようがない。

 前脚の折れたビーストが後脚のみで立ち上がったのだ。

 ジュードには、殻内(コックピット)の中でビーストが独りでに動くのが分かった。

 四脚の機械が後脚二本で立つには、構造上の無理がある。ビーストは、安定しようと上体を反る。馬が蹴り立つような体勢になり、殻内(コックピット)は後ろに大きく傾いた。

 (いなな)きの代わりに汽笛が鳴り、ジュードは、殻内(コックピット)が緑色に光ったのを見た。

 ジュードは、この光に見覚えがある。これは、目前のヴァルキリーと同じ光だ。

 ジュードは失望した。

 最も忌むべき力を、よりによって彼女との決闘で使うことになるとは思いもしなかった。


「魔力だと!」


 ブレーキレバーを引いて、蒸気機関を止める。


「これじゃ勝っても、意味が無くなる……!」


 機関は黙る。だが、ビーストは逆らうように動き続ける。

 緑の光は、魔力だ。誰が仕掛けたものかは分からない。ただ、膨大な力であることはジュードにも分かった。

 ビーストは、後脚で地面を蹴った。

 そして直立したヴァルキリーにのしかかり、二機は雪崩れるように地面に倒れ込んだ。

 その時には、ビーストに這入った緑の光は消えていた。


「――だ! ――族が――ぞ!」


 観客の誰かが叫んでいる。

 ジュードは外の異様な空気を感じ、辛うじてキャノピーを開けた。

シャーロットも同じだったようで、仰向けに倒れた〈ヴァルキリー〉の腹から出ていた。

針のような彼女の視線が、ジュードに刺さる。

 ジュードは目を逸らしたくなる衝動を抑えて、シャーロットに言った。


「勝負はお流れだ」

「いいえ、あなたの反則負けよ」


 その返しにジュードは苦笑した。


「ああ違いない。油断を突いたのが反則ならな」

「言うだけ言ってなさい。事情は後で聞かせてもらうから」


 シャーロットは少し頬を膨らませて、左手を腰にあてている。明らかに不機嫌だった。


「それよりも」


 ジュードは異様な空気が気になっていた。


「何かしら?」

「観衆の雰囲気、おかしくないか」

「あなたが魔術を使ったからじゃないの?」

「あれは俺じゃない。俺が使える訳ないだろ」

「ふぅん……」


 シャーロットは納得いかない様子だった。


「なんだよ?」

「馬鹿ね。私が考えていたのは他の可能性。あなたがマギア族の協力者を使ったって線よ」

「何言ってんだ。それこそ有り得ない」

「どうだか。あなた、そこまでして私と手を切りたかったのね」

「勝手に決めつけるなよ」

「じゃあ何? マギア族が興味本位であなたに力を貸したっていうの?」

「それは知らない。だが俺としてはそんな感じだった」


 シャーロットには、言い訳じみた言葉に聞こえた。彼女は深いため息をした。


「呆れたものね」

「そうかい」


 二人のもとに、立会人が駆け寄ってきた。慌てた様子だ。


「どうもマギア族の横やりが入ったようです。あのままミス・マーキュリーが勝利したかもしれませんが、如何せんマギア族のことで勝敗どころではありません」


 コロシアムは不穏な空気に晒されている。恐れや不信が生む、危険な状態だ。

 ジュードは、彼の言葉に気に入らないところがあったが耐えて話を聞くことにした。


「ですから決着は改めて後日に。今はトラブルに遭う前に、ここから出て下さい」


 二人は黙って了承した。

 互いをじっと見つめてから、二人はマキナを放棄して、互いの待機場に駆け戻った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ