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空色のカナリア  作者: 山門芳彦
第一章 旅の終わり
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客席の少女


 魔力だ。


 少女には一目で分かった。

 白亜の大きな鎧騎士は、魔力のオーラを纏っている。

〈スカートの下〉で見たようなガラクタで出来た極彩色の蜘蛛は、頑張ったけど勝てない。きっと、あのガラクタと同じように城の下に捨てられるだろう。


「かわいそう」


 少女はそう呟いた。

 コロシアムの観衆の波に、ポツリと降った一粒の雫。ちっぽけな存在が、ちっぽけな声が、少女だった。波に呑まれてもなお、その哀情は消えないで在る。


「おまえは悲しい?」


 ガラクタ蜘蛛は何も言わない。

 節足をもがれた蜘蛛がそれでも足掻くように、ただ動いている。

 少女は手を組み、瞳を閉じて問いかける。


「私は悲しい。おまえは生きたい?」


 周囲の拍手喝采も、今の彼女には聞こえない。

 真暗にした世界の奥に、一つ熱い鼓動を感じる。



――動け!



「誰……?」


 予想外の声がした。人だ。あの蜘蛛の中には人がいる。鎧騎士の中に人の魔力があるように、蜘蛛の中に人間の熱い生命がある。


(魔力を持つ者が、人間を殺そうとしている……!)


「ダメ! 殺さないで!」


 少女の胸に、故郷の景色が浮かぶ。緑の野と、風と山。潮騒と、お母さまの温もり。

 枯草に火をつけるように、憧憬が燃え広がるイメージ。 

 火は敵の影。

 少女は、火を逃れてここ(オリジン)に来た。

 火を消す水は、少女の一滴。

 水は星の脈を巡り、力を得て膨らむ。

雫はやがて雲海となり、集まれば大河の流れに。

 星を覆う海の力を、一点に寄せて注ぎ込む。


「――――!」


 目を見開く。

 それは高尚な術式を唱えたものでも、おぞましい呪文でもない。

 少女は、ただの想いを叫んだ。


「蜘蛛よ、動け!」


 コロシアムの人海から、一点の閃光が奔る。

 少女の肢体がフードの下で輝き、緑色の光が天へと伸びた。

 直後、群集の喝采は止み、幾つかの悲鳴が響く。

 少女にそれは聞こえない。

ましてや悲鳴の内に父の驚きが混じっていたことなど、知る由もない。

 緑の光は、狭い放物線の頂点に達した後、蜘蛛の機械に向かって真っ先に落ちた。

 光は機械を包むと、染み入るように機械の中に消えた。

 同時に、少女は青白い光の源を見た。

 五感のどこでもない感覚で捉えた言葉を、少女は「聞いた」と感じた。


 ――私のもとに帰りなさい! ジュード!


 その声の真意に気付いた時、蜘蛛の機械は既に力を得ていた。


(しまった。彼女の邪魔をしてしまった)


 この女性(ひと)は、彼を――。


「マギア族だ! マギア族がいるぞ!」


「……えっ?」



 少女の思考は、群集の怒号に遮られた。


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