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空色のカナリア  作者: 山門芳彦
第一章 旅の終わり
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異邦人の少女

 母は疲れて転寝(うたたね)し、老執事は父親に付いて行ってしまった。気がつけば、少女は慣れない城の中で自由になっていた。華美さのない部屋の窓枠の外は、白亜のサピエンティア城と、黒煙に隠れた城下街とのコントラストだった。空は二色を混ぜ合わせたような灰色だ。

 部屋の白壁には鳥籠が掛けられていた。中には、手に乗せられるほど小さく、黄色い羽毛のカナリアが一羽いる。少女が母から呼ばれる愛称も、この鳥に由来するものだ。


 キャナリー。


 本当の名前を伏せるための呼称。その響きが、少女は嫌いだった。どうも自分には合わない気がするのだ。少女は母がそう呼ぶ度に嫌な顔をしてみせるのだが、母はそう呼んだ分だけ暖かく抱いてくれた。少女が逆らわないことを知って、やっているのだ。

 モノクロームな視界に、カナリアの存在は目立つ。籠を開けて、少女は右手の上にカナリアを乗せた。小鳥は人懐っこく、初めて乗る手にも全く警戒しない。


「私も、君とおんなじ」


 独り。か弱さから、大事に守られて生きてきた。

 知らず、右手を強く握る。カナリアは、さっと窓枠の傍に飛んで逃げた。


「私も翼があったら…………でも、どこに飛んでけばいいのかな。ね、カナリアさんはどうするの? たとえば、この窓が開いたら……」


 鍵を解いて、窓を開ける。

 すると、カナリアは外へ飛んで行ってしまった。

そうだ。そうすればいいんだ。後の事なんて、考えても始まらない。

 少女は思い切って、部屋を抜け出してみた。同時に、鼓膜が外の音を拾った。


 ……この騒ぎは何だろう。


 城内の廊下は、赤いカーペットが敷かれた一本道で、壁に付けられた窓からドワッと声がする。この声ははじめて聞くものだ。


 少女は、導かれるようにコロシアムと呼ばれる場所に向かっていた。


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