夜明け
ガレージには、ジュードとシャーロットが残り、シャーロット用のマキナにギリギリまで手を加えることになった。ヴァルキリーのようなマキナを作ろうとするには、もう時間がない。戦争用の補強をする程度しかできないが、ジュードはそれだけでもやっておきたかった。
「ジュード」
「なんだ? 君ももう寝た方がいい」
「もう『お前』じゃないのね」
作業の手が止まる。
「……改めて分かったから」
「何が?」
ジュードは殻内から降りて、少し離れた所に立つ彼女に近づいた。一歩、一歩。長い金髪の一本一本が良く見えるまで。
ランプに火照る、白く滑らかな肌。深く、青に輝く瞳。長い睫毛の一つ一つが良く見えて、微かな息遣いが、なだらかな胸にかかる。
「……もうすぐ出発だ。みんなを起こしてくる」
ジュードは、言うべきことをはぐらかしてガレージを出て行った。
シャーロットは、遠くなる背に何も言わないでおいた。名残惜しい心持ちで、ジュードが手を加えていたマキナの殻内に乗り込む。右の操縦桿に何かが結び付けられていった。手にとって確かめる。お守りだった。シャーロットの中に、沸き立つものがあった。何かしないことには、踏ん切りがつかない気がしてならなかった。そして、一つ思い立って自室へと駆けだした。
十分後、目を覚ましたエマ、マルボル、メグと、ジュードはマギアマキナに乗り込んだ。ジュードの膝上に座るメグが操縦桿に触れてると、マギアマキナに火が入った。エマとマルボルは、座席の裏に立っている。
マギアマキナの足元に、数日分の食料や日用品をまとめた箱がある。機体がそれを拾うと、ジュードが言った。
「マルボルさん、頼みます」
「分かりました」
マルボルが念じると、マギアマキナの背に布状の物が出てきた。そこに箱を持っていくと、布は箱を包み込み、機体の背中にピッタリと付いた。
「さ、行こう」
機体が立ち上がる。マギアマキナが跳躍のために屈むと、シャーロットが走ってきた。彼女の特徴だった長髪が、肩までバッサリと切られている。
「ジュード!」
「シャーロット、その髪は……!?」
「これを!」
シャーロットが何か投げる構えを見せたので、ジュードは慌ててハッチを開けた。
放り込まれた小物をキャッチした。柔らかく握れるそれは、お守りだった。
「シャーロット……」
ジュードはもう、彼女に言い残すことはなかった。けじめはつけたのだ。静かにハッチを閉めはじめる。閉まっていく間、彼女は何も言わなかった。
殻内のスコープから、シャーロットの姿がまだ見える。ジュードもまた、黙っていた。
「いいんですか、ジュードさん?」
「ああ。別れはもう済ませた。今は出発のときだ。行くぞ! マギアマキナ‼」
魔力が十分に入り、神の化身は勝どきの叫びをあげる。
「オオオオオオオオオオォ――――――――――――――――――――ン‼」
マギアマキナは、夜明け前の東の空へ綺羅星の如く飛んで行った。
シャーロットは大きく輝くその星を見上げて、ジュードからのお守りを握った。
お守りといっても、金属片に言葉が刻まれただけのものだ。それは、彼女にとってどんなガラクタよりも価値のあるものだった。お守りには、言葉が刻まれていた。
『俺は君を信じている。君も僕を信じてほしい』
『私は君を信じてる。あなたも私を信じて』
ジュードが握るお守りは、彼女の髪の毛を衣服の布に入れたものだった。布にインクで、この言葉が書かれていたのだった。急場合わせで作ってくれたのだろう。
振り向かず前へ行こうと、ジュードは膝上のメグに話かけた。
「メグ、具合はどうだ?」
「大丈夫だよ。ジュード兄さま」
「無理に兄さまって言うことはないんだぞ?」
「これがいいの。私にとって、ジュードはお兄さまだから」
「……そうか」
マントを広げて滑空。そののち、着陸。再度跳躍して、滑空。
マギアマキナは、オリジンの街を外に向かって、スムーズに移動していく。
「ジュードさん。今度、私にも操縦させて下さい」
「いいぞ。道は長いからな。普通のマキナよりも動かしやすいから、練習には持ってこいだ」
「やった! オリジンに戻ったら、今度こそデュオマキナ代理人になりますよ!」
「エマ殿がデュオマキナをやるのですか? 私、少々心配ですな」
「マルボルさん! そんなこと言わないでくださいよ!」
「これはこれは。失礼しましたな」
「見て! 夜明けだわ!」
東の空、はるか遠くの山の端に、新しい日が昇る。
マギアマキナは、国境の壁を飛び越えて、新しい大地へとその翼を広げていった。
〈完〉
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
一応、物語の区切りが着いたので「空色のカナリア」はここで完結です。
続編の構想も一応あるのですが、現在は新しい作品づくりを始めておりますので、続編の執筆があるとしたら、また先になるかもしれません。
ご感想、お待ちしております。




