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空色のカナリア  作者: 山門芳彦
第四章 開戦
37/44

真相

 時間は元に戻る。


「メグ!」

「お嬢様!」


 ジュードとマルボルは、遅れてエマとメグのもとに着いた。


「魔神の復活は防げたようだな」

「しかし妙です。ディアボリーたちが跪いたままになっております」


 数十人のディアボリーは、うずくまって動かない。ディーンだけが、ゆっくりと身を起こす。一同は、ディーンに向けて警戒した。彼は不敵に笑みを浮かべた。


「……彼らは魔神復活の生贄となった。彼らの精神は生命鉱脈の中で永遠に巡っていくだろう」


 マルボルは怒鳴る。


「だが、魔神復活の儀式は止まった!」

「無駄死にだと仰るのか?」

「そうだ。彼らは、自らの罪をその死によって償ったのだ。ディーン。生き残っているのはお前だけだぞ。仲間が犠牲となる中で、自分だけ卑怯だとは思わないか?」


 彼は憮然とした態度を尚も崩さない。


「いいや。司祭が撃たれた今、私が生きねば我が主はこの場に立ち会えなくなるのだ。私はあの方に身を預けなければならない」


 ジュードとエマには、言葉の意味が分からなかった。


「どういうことだ? 何を言っている?」


 マルボルとメグが、その言葉の意味を悟った。メグの顔が青ざめる。

ディーンは一度、目を閉じた。その顔面がぐにゃりと変容する。若い青年の顔つきは、骨ばった中年男性の顔になり果てた。


「……久しいな。相変わらず気に入らない目つきをする奴だ」

「ワイズマン……! 馬鹿な! 貴様は帝国にいるはずだ……!」


 ワイズマン。シュンム帝国の宰相にして、メグ達を亡命に追いやった張本人。その顔はメグとマルボルにとって、忘れることができない。深緑の瞳に、狡猾さが伺えた。


「身体は帝国にある。我が思念のみを、ジオ・アルバトロスの内に潜ませていたのだ。貴君らよ、太初の石までの旅ご苦労だったな。長引いたが、それもいよいよ終局だ」

「ワイズマンめ。今更出てきても遅い……魔神復活は阻止された!」


 退くまい、とマルボルは彼を睨み続ける。ワイズマンはそれすら嘲笑して返す。


「それはどうかな……?」

「何――――」


 突如、魔法陣がバッと閃いた。その中心に純黒の(モノリス)を据えて。莫大な魔力の波が地下空間を包み込む。再び封印が解かれようとしているのだ。


「馬鹿な!」


 マルボルの驚きを見て、ワイズマンが嘲笑う。


「当然だ。御子はその詠唱を完成させたのだからな! 魔神と生命鉱脈との繋がりは甦り、今度こそ無限の力をもって我らを導く!」

「させるかっ!」


 ディーンが失せたことで「何か」の拘束から解かれたジュードは、ワイズマンに飛び掛った。二人は組み合う形で倒れ込み、光る魔法陣の中央でジュードがマウントポジションをとった。


「今更私に何をしても無意味だ。復活は止まらない……!」


 胸倉を掴み、ジュードは叫ぶ。


「うるさい! お前さえいなければ、メグは!」

「人のままでいられたと?」

「……!」

「仮にそうだとしても、お前に御子を救う理由はないはずだ。クランカー」


 呆れた双眸がジュードを嘲笑い、お前の行いは無意味だと言外に告げる。ジュードはギリ、と歯を食いしばった。確かに彼の言葉は正しい。だが、ジュードには理屈で切り分けてはならない感情があった。自分の目が血走っているのが分かる。沸々と身体にたぎるこの情こそ、他ならぬメグを救う理由だ。


「あるさ……あんたに教えたくないが、理由なら確かにある。だからメグは連れて帰る!」

「ハッ。好きにすればよい。但し、ここから生き延びることができるならな……!」


 エマは、ワイズマンがディーンの腰から抜き身のナイフを取り出しているのを見た。


「ジュードさん! 離れて!」


 当然、ジュードも動こうとしていた。だが身体が動かない。ディーンの空の左手が、ジュードに魔術をぶつけていた。また、「何か」に身体を抑えられていたのだ。今のディーンは、ワイズマンと身体を共有している。知らぬ間にディーンは詠唱をしていたのだ。


(殺られる)


 エマも、マルボルも、そしてメグでも間に合わない。刃先は、ジュードの腹までの数十センチの距離を真っ直ぐに進む。

観念し、瞳を閉じるジュード。


 そして。


 ナイフが肉体を突く。


 一同が、言葉を無くした。


 ふるふると震える腕。その先には、ジュードを突き飛ばしたジオ・アルバトロスの身体があった。滴る緋色が、ナイフからディーンのその腕へと伝い落ちる。ジオもまた、サンドロを殺めたナイフでディーンの胸を突いていた。


「……まだ動けたのか。同志、ジオ……」

「私があなたに逆らえていれば、このようなことにはならなかったでしょう」


 口元から血を零しつつ、ジオはディーンの心臓をもう一突きした。


「っ……!」


 息を漏らし、ディーンが痙攣する。


「すまない、ディーン。私たちは悪に染まっていたらしい」


 ワイズマンの思念は、ディーンの体にしがみつき最後の言葉を残そうとする。


「ジオ。自分が何をしたのか分かっているのか」

「お前は、私の可愛い家族を、ディアボリーを全滅させた……。本来、彼らはこんなに狂信的ではなかった……もっと暖かな、結束の強い家族だった……。それをお前は滅茶苦茶にした」

「貴様の情念など知ったことではない。お前はヒュージマギアの宗主たる私を刺したのだ。死してその魂、安らぎを得ることは無いと知れ――――」


 そう言い残し、ワイズマンの歪んだ顔がディーンから霧散した。

 奇妙な静寂が、地下空間を包み込む。

 傍らで呆然自失となっていたジュードは、ハッと我に返りジオを支えた。仰向けにさせて傷を確かめる。流れる血はとめどなく、彼はもう長くない。


「どうして、今の今まで気付けなかったんだろう……! あなたは、あの時のままだった! それを、俺は見限ってしまって……畜生……!」

「悔やむことはない。誤ったのは私なのだから……」

「大尉……」

「……またそう呼んでくれるか……。少尉、君は君の家族を守りたまえ……」

「大尉! あなたは……!」

「私には、もう何の力もないよ。少尉、私は権力に踏みにじられたマギア族に二度と悔しい思いをさせないために、権力を手に入れようとした」

「……確かに、あんたの願いは叶った。暴力装置と化したディアボリーが、邪魔者を消し去ったからな」

「君は、マーキュリー准尉と一緒にディアボリーから離れてくれたな」

「戦後、ディアボリーは秘密警察と化した。あの頃の暖かな家族の姿はもう無かったからな」

「丁度その頃からだよ……ワイズマンが、私の心の迷いの隙を突いて這入り込んでしまった。奴はどうやら、私以外にもいろんな人間の中に入って操っているようだ……」


 ジオの声は徐々に弱まり、かすれていた。


「もういい! 喋らないでくれ……」


 大尉と呼ばれたジオは、首を横に振った。


「残された時間で君に言葉を残すことを、私の償いとさせてくれ……」


 もはやジュードに何も言うことはなかった。今は、かつての上官の言葉を頭に刻むしかない。


「テラという御子は、確かに魔神復活の鍵だ。しかし魔神の正体は誰も知らない。ワイズマンですらな。だが確かに言えることは、二つある。一つ……。あの魔法陣には呪いが込められて、いる……ラグナロク戦争でマギア族が犯した大罪……『レクイエム』の魔術が……取り込める限りの人間に呪いを撒くだろう……。そして、もう一つ……あの魔法陣には、魔術師コスモスの遺志が眠っている。二千年の昔、ラグナロク戦争を終結させた、良心という遺志が……つまり……つまりだ、少尉。君は、君の家族を呪いに呑まれてはならない……! 呑まれれば、ここは更なる地獄と化……す、ぞ……! さあ、もう、行きたまえ。君の、た、め、に……」


 ジオはそう言い残してから、フゥと最期の息を吐いた。ジオを抱えていた両腕に、抜けた命の重みが乗った。


「大尉……」


 涙の代わりにギュッと両目を瞑る。芯を震わせる熱に身体を預け、一瞬だけ慰みを求めた。

 去来する万感を、瞼が開くと同時にしまい込む。呪いが甦るならば、やはり一刻も早くここを抜け出さなければならない。今も天井が激しく揺れている。落ちてくれば、間違いなく生き埋めで死んでしまう。


「だが出口もない……万事休すか?」


 口では残酷な現実を呟くも、内心では諦めていない。ここまでも奇跡のように生きてきた。


「何か方法があるはずだ。何か……ないか!」


 突然、一同が叫んだ。


「ジュードさん!」

「ジュード兄さま!」

「ジュード殿!」


 天井で爆発が起きた。ジュードの真上に、無情にも瓦礫が落ちる。


「え――――」


 全員が悟った。もう間に合わない。ジュード・アイスは、瓦礫の下敷きになって圧死する。


四章はこれにて終了です。


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