表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空色のカナリア  作者: 山門芳彦
第四章 開戦
36/44

戦士の胎動


 少し前に遡る。


「……死んでいる」


 シャーロットがプレート内の管制室に着いた時、既にそこは暗かった。血の匂いが鼻につき、床上に職員だった者の亡骸が二三体転がっているのを見た。正面の大きなパネルにはプレートの俯瞰図があり、鎖が断たれた地点に赤いバッテンが記されていた。壁面の黒板には、無数の計算式や殴り書きがあり、それらが全て無駄だったと嘆くように「修復不可能」の言葉がでかでかと書かれている。


「自殺、か……」


 絶望の末に命を絶ったのか。うずくまる姿勢を怪しみ、シャーロットは早足で亡骸の元へ向かった。結論として、シャーロットの予測は間違っていた。

 胸部にはナイフで刺された痕。そして、凶器は見当たらない。先ほど寄ったボイラー室にも、炉に飛び込んだ焼死体を見た。それもまた、抵抗するように手足を動かした様子だった。


「いや、殺された……ディアボリーね」


 もう一度黒板を見遣る。「修復不可能」の文字の横に、忌まわしい言葉が書き残されていた。


――唯一となりし神が消え、知恵より生まれし力にて、知恵の国滅びし時。封印は解かれ、彼の地にて復活を果たさん――


メグはここにはいなかった。心当たりがあるとすれば、あとはもう地下しかない。魔神復活を目論む彼らは、きっと手当たり次第に人を殺しているのだろう。復活の糧として、この都市を道連れにするつもりなのだ。


(手段を選ばず殺し続ける……。なんという卑劣……! 外道め!)


 途端、歯嚙みするシャーロットの足元が激しく揺れた。爆発の揺れだと察すると、シャーロットは一目散に室の外に停めたマキナに戻った。

 みるみるうちに、天井が落ち、地面が抜けていく。潰されないように、落ちないように、マキナは最後の力を振り絞って外へ走った。プレートの上に出ると、地表は赤く燃えていた。シャーロットは、飛び降りてでもプレートから降りようと外へ急いだ。それしかなかったのだ。

 そして、プレートは崩落した。シャーロットは、生き延びたい一心で最後の手段に出る。


「もうひと踏ん張り、頼むわよ!」


 マキナの両腕をパージする。


「ありったけの魔力で――」


 四脚を縮めて、


「とべえっ!」


 空高く跳んだ。いや、飛んだ。


 マキナは四脚を青白く光らせ、沈むプレートを優に見下ろせるまで飛んだ。背部のパラシュートを展開し、緩やかに滑空していく。

天まで昇らんとする黒煙はマキナに絡み付き、この世界から離すことは無い。シャーロットの視線は、自然と地面に向かった。たった今、プレートが粉塵を巻き上げて墜落していた。オリジンは、ものの数時間のうちに陥落したのだ。都市の頭脳は死に、工場は潰れて、人間も焼かれた。これが、今の彼女の故郷だ。

 シャーロットに、次の言葉は浮かばなかった。ただ、漠然とした虚しさや哀しみが、煙のように彼女の胸を苦しめた。

 もう、自分にできることはないのだろうか。ただ、戦火から離れることしかできないのか。

シャーロットは、地上が波に揺れているのを認めた。震源地は、サピエンティア城の辺り。二つ、三つと波が大地を揺るがせる。


(波がある……どうして、波があるってわかったのかしら……)


 揺れがある、といっても目に見えるものではない。そう、これは魔力の波なのだ。だから彼女は感じることができた。

 彼方に、豆粒ほどの大きさの自分の屋敷を見つけた。魔力の波は、屋敷をも揺らす。ここまで離れているにもかかわらず感知できるということは、この波は相当強い魔力を帯びているに違いない。

屋敷の傍に、ガレージがある。そして、シャーロットの脳裏に稲妻が閃いた……!

 シャーロットは、左手の薬指に嵌めた指環に魔力を通した。指輪の石が、青く光る。


「そうよ! あの魔力を吸い上げれば!」



 ――――ガレージの闇の中、蒼眼が呼応して輝きを帯びる。



吸い上げるのは、自分ではない。さきの光が、ガレージに眠るあの機体を遠くから目覚めさせたのだ。魔力の波が、ガレージへと集約されるのが、シャーロットには良く見えた。


(立ち上がれ、魔導機械(マギア・マキナ)!)


 指環は、彼女と機械を繋ぐもの。ジュードが屋敷を去ってからもずっと嵌め続けた絆。命を削るものと知っていても、シャーロットは魔力を通して念じ続ける。


「その魔力の波は、この星の物! あなたを動かすには充分なはず! ジュードを、私たちを救って見せなさい!」


 シャーロットの内に、過去の記憶が過る。

 五年前の戦争。両親の死。ジュードとの出会い。戦い、別れ。そして、メグ。

 瞋り、恐れ、哀しみ。あらゆる劣情を糧にして力は起こり、やがてそれらを深い優しみが包み込む。守る力。それこそ、かの戦士の存在意義である……!


 ガレージの窓から、遠めにも分かる閃光が漏れた。


「オオオオオオオオオォォ―――――――――――――――――ン‼」


 彼の戦士は、空高く吼えた。

 轟音が、戦火の闇を切り拓く。

 戦士は起った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ