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空色のカナリア  作者: 山門芳彦
第四章 開戦
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戦略的撤退

 サピエンティア城には数百の帝国兵が侵入していた。一都市を陥落させるには少なすぎるようにみえるが、先行隊の所業としては十二分である。シャーロットの目の前は戦場であった。が、彼女は頭の中でこの事態を俯瞰しようと試みている。


「……落ちなさい!」


 マキナの銃口が火を噴く。帝国兵は、魔術紛いの攻撃と防御をしてきている。あの武器は五年前の戦争では持っていなかった。間違いなく生命鉱脈を用いたものだろう。

 銃弾の雨に、三人一組の帝国兵は光の防護膜を張って対抗する。光が実弾と接する度に閃光が迸り、光が止んだときには帝国兵はその場から動いている。


「貰った!」


 シャーロットは、照準をさっきより左に三十度をずらして一射した。五、六発連射したところで、遂に機関砲の弾が切れた。走行モードにして、撃ち込んだ方向に滑走する。

 閃光が収まり視界が戻ると、三人の帝国兵はマキナの足元で轢かれていた。シャーロットは、機体への鈍い揺れで、見るよりも早く察した。これで十組目。

 サピエンティア城の中は、四メートルのマキナが動くにはやや狭い。高い天井のおかげで侵入こそ出来るが、人間にとって広すぎる道もマキナにとっては狭い一本道となる。さきの兵隊とは、比較的動きやすい中庭で戦った。シャーロットが城に入って一時間。万全を期して持ち出したマキナは、外装も損壊し弾切れも起こしていた。他のマキナがどうなっているのかは分からない。シャーロットが戦う間に、城内の戦闘はかなり収まってきたようだった。


(城が陥落した? いや、まだ戦闘は続いている……)


 まばらだが、銃声と光学兵器の閃光が城内に残っている。戦場が静まっていると感じたのは、動けるマキナが減ったからなのだろうか。少なくとも、戦況は劣勢と見て間違いない。


「この機体もそろそろダメね……」


 長期戦を想定していないマキナの構造的欠点が、ここにきて露わになっていた。マキナ同士の決闘を想定したデュオマキナでさえ一試合が長くて十分。軍用機が開発される際に想定していた運用方法は、一チーム三機編成による機動力と火力を活かした短時間での敵陣制圧であった。さらに言えば、軍用機は対マキナ戦を想定していないため格闘武器がない。

この機体はジュードがデュオマキナを想定して造ったカスタム機だが、やはり長期戦は考えられていない。歩兵との戦闘を単機で一時間続けることができたのは、ひとえにシャーロットが魔術を使えたからに他ならない。

 シャーロットの選択肢は二つ。退くか、進むか。懸念事項は、敵の数とメグの居場所が不明であること。迷いに反し、機体だけは真っ直ぐ城内の上を目指している。目的は一つだからだ。


「退いたところで、代わりのマキナなんて――あぁ」


 ……脳裏に浮かぶ巨躯。蒼い双眸に白亜の機体。ジュードに乗るなと言われたあのマキナ。

 取りに戻るにはあまりにも遠い。今となっては、プレートから脱出することすら至難の業なのだ。そう、もとより退くという選択肢はなかったのだ。

 頭を振って邪念を払う。

 ローラーが、段差を無視して階段を蹴る。マキナ一体分の幅の螺旋階段を、終わるまで登り続け、最上階に着いた。

 階段を抜けた勢いで、ヒョイと機体が跳ねる。機体は四つ足を器用に曲げて着地した。

 人影がない。それどころか、荒れた形跡すらなかった。

真っ直ぐ続く廊下の壁には、いくつかの扉がある。その中で最も大きなものを、マキナの上腕で突き破って入った。

 向かいの壁一面がガラス張りになっている部屋。噂には聞いたことがあるが、恐らくここは首長室だ。嫌に整然としている。


「逃げた……?」


 急襲であったにもかかわらず、城の人間がどこにもいない。それどころか、帝国兵が一人としていないのはおかしい。オリジンを占拠しようというのなら、真っ先に狙うのはここのはずだ。


(帝国兵の目的はこの城ではない? とすると……)


 直後、地面(プレート)が大きく揺れた。

 否、傾いた。

 水平だった廊下は坂に変貌し、壁へと滑りだしたマキナを、脚部の杭打機で固定させて留める。プレートは、徐々に元の水平へと戻っていった。


(そうだ、地下管制室!)


 サピエンティア城の地下――プレートの内部には、プレートの飛行状態を管理する管制室がある。恐らく帝国兵はそこに向かっている。


「あの子もきっと……」


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