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空色のカナリア  作者: 山門芳彦
第四章 開戦
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覚悟を問う

 空襲の混乱は、瞬く間にオリジン中に伝播し、ジュードたちは屋敷を飛び出していた。帝国軍の飛行船が燃え上がる城の上にあった。船は、工場区の方に船首を向けていた。


「予想よりも大分早い。マルボルさん、知っていたのか?」

「電撃作戦でしょう。ご主人から少し聞いたことがあります。シュンム帝国は宣戦布告のずっと前から軍を近づけていたでしょうから。オリジンの軍隊は、国境付近の哨戒すらしていなかったようですし……」

「油断が招いた空襲か。城が燃えたなら、オリジンは終わりだ」


 ジュードは、大きな事実を述べたことに抵抗もなかった。オリジンが滅びることよりも、あの炎の中にシャーロットとメグがいるかもしれないことが不安で仕方なかった。


「旦那様の暗殺は計画の内だった。むざむざオリジンに行ったのが間違いだったのか……」

「マルボルさん。今更嘆いたところでどうしようもないんだ。今は、どうやってあの城に行くかを考えるんだよ」


 この老人だってそんなことは分かっていただろう。ただ、嘆かずにいられなかったのだ。老人は、僅かでも隙を見せた自分の心に鞭を打った。


「……ジュード殿。城に行くならば、社に放られたマキナが使えないでしょうか?」

「あなたが雷を落としたマキナか。確かに、軍隊に手を加えられた痕もなかった。それで行ってみよう」


 ジュードは、傍らのエマの肩を叩いた。彼女は城を見たまま呆然としいる。


「エマ。お前はここに残れ。この場所なら空襲は来ない。敵兵が上陸して来たとしても、出来るだけ身を隠し――」

「嫌です! 私だって戦います!」


 これまで押し黙っていたエマは、慌てて叫んだ。ジュードは冷静に返す。


「駄目だ。お前は――」

「『女だから』なんて言わせませんよ……!」

「そうじゃない。お前まで戦場に行ったら、誰が俺たちの帰りを待ってくれるんだ?」

「帰る場所って……もう、私たちの帰る家はないじゃないですか」

「エマ……」


 その目は、いつになく燃えていた。


「私がここに来たのは、シャーロットさんのようなマキナ乗りになるためです」

「今はそういう場合じゃないだろ」

「そういう場合です。ジュードさんだけがマキナに乗っても、戦力不足です。私だって、マキナに乗って戦います! オリジンから逃げてしまったら、私の夢は叶わない! もしも、シャーロットさんとメグちゃんに何かあったら! 私は、私の目標を果たせなくなっちゃいます!」


 エマは、その語気を荒げて徐々にまくし立ててきた。生意気な、とジュードは激昂した。


「戦争に夢を持ち込むな!」

「あなたが言うことですかッ! 自分のマキナで恋人を危険な目に合わせて……!」


 的確な言葉がジュードの神経を逆撫でた。


「黙れ! あいつのことは俺に任せりゃいいんだ!」

「ジュード殿、彼女の言葉にも一理ありますよ」


 その声に、両者は黙る。諫めたのはマルボルだった。キッと睨みつけるジュードに、飽くまで穏やかな瞳を向ける。


「敵が来るからこそ、まとまって行動した方が安全です。当然、いざという時には戦ってもらいますが」


 二人は黙って彼の言葉を聞いた。


「ですからエマ殿、あなたに確かめたいことがあります。あなたには、人を撃つ覚悟がありますか?」


 マルボルは、彼女の瞳の奥に、避けようのない真っ直ぐな志を探る。エマは、一度目蓋を閉じてから大きく開き、答えた。


「やります。シャーロットさんとメグちゃんのためなら、私は敵を撃ちます」

「何に誓いますか?」

「……我らの世界を治める、唯一神コスモスに」


 マルボルは暫し黙ったのち、その誓いを受けた。


「では社にいきましょう。戦場に行くなら、マキナで赴くのが的確です」



 城には黒煙が立ち昇っている。それを背に、三人はマーキュリー邸の敷地を後にした。


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