屋敷
エマは息を吞んだ。シャーロットの屋敷の離れには、スラムの家とは比べ物にならない立派なガレージがあったのだ。マキナを四機ほど並べても余裕がある空間の中に、その主のように佇む一機のマキナがあった。
「大きい……」
エマが思わず呟いたのも無理はない。通常のマキナが四メートル程度の大きさであるのに対し、そこに座り込む一機はさらに大きいものだった。全長は目算で十メートルくらいか。
傍らで手をつなぐメグも、目を丸くしていた。
「シャーロットさん、これは……」
「秘蔵っ子。ジュードがここを去る前に作ってくれた一機よ」
「ジュードさん、こんなすごい物を作ってたんですね」
「ええ……」
その白亜の容姿は、ヴァルキリーのように勇壮であった。手首足首の袖には金色の装飾が巻かれており、左胸にはシャーロットの瞳と同じ青い花の装飾があった。
「何で、この前のデュオマキナで使わなかったんですか?」
「……ちょっとね。このマキナは特殊なの。何たって、この機体の名前は――〈マギアマキナ〉というのよ?」
「マギアマキナ? 魔法の機械……クランカーのジュードさんがどうしてそんな名前を?」
「この機械が魔力で動くからよ」
「魔力で……?」
「そう。実はね、私はマギア族なの」
「シャーロットさんが……?」
いままでジュードにも教えてもらえなかった事だった。シャーロットの髪は金色で、眼は青い。メグのような純粋なマギア族とは全く違うその容姿からは信じられなかった。
「嘘ですよね?」
シャーロットは、首を振る。
「エマちゃん、私のヴァルキリーの剣が光り輝くのは、どうしてだと思う?」
「それは……武器が赤熱化して……」
「違うわ。私の武器は、魔力を通して光っているの」
「そんな……」
「マギア族は、聖典教徒のあなたにとって忌むべき敵かも知れない。けどね、私たちは大変な思いをしてきているのよ」
しばしの間、無言が交わされる。エマに、明かされた事実への実感はない。彼女は、せめて言葉の上だけでも人は平等であると信じていた。
「……私にとって血族は関係ないです。シャーロットさんは、シャーロットさんです。私が憧れ続けた、戦う女性です。メグちゃんだって私にとって大事な妹ですから。それに、私は港育ちです。いろんな人を見てきました。だから分かります。クランカーも、聖典教徒も、マギア族も、みんな同じ人間なんです」
こんな時に言う大義に、説得力などない。
そうわかっていても、エマはそれ以外の言葉を選べなかった。
「エマちゃん……」
「シャーロットさんは魔力で勝って来たんですね」
「そうなるわ」
「マキナの動力は別に蒸気機関とはかぎりません。だから、私はそれでもいいと思ってます」
「……ありがとう」
「それで、このマギアマキナを使わなかったのはなぜですか? 詳しく聞いてみたいです」
ここでエマは話題を逸らしてみた。彼女の中に純粋な興味と、過去への邪な興味が混在していたのだ。シャーロットもそれを解してか、静かに言葉を紡ぎ出す。
「……いいわ。実はそのことについて話したかったの。メグちゃんにも教えてあげる」
マギアマキナの暗い双眸が、これから始まる彼女の語りを見届けていた。




