誰も知らない伴奏者 ③
〜校門前〜
「ユキがあんなにピアノ弾けるとは思わんかった。」
「まだ言うかー!
そういや、今日の朝聴いたピアノってもしかしてピアノの幽霊ちゃう!?」
ユキは思い出したようにそう言った。
ピアノの幽霊って、
古いピアノが一人でに鳴り出し、4回そのピアノを聴くと死ぬってやつか。
いや、なんでやねん!
「さっき、ライバルや!とか言うてたやん。」
「そうなんやけどさ!
よく考えたら、どのクラスも今日合唱コンクールの曲決めるやん!
おかしくない?」
ユキにしては鋭いやん。
明日、槍でも降るんちゃう?
「でも夏休み前に決めたんかもしれんで。」
「なんやてー!!!
そんなクラスがあるなんて、ズルイぞ!!
フライングや!!
そんなクラスには絶対負けへんぞ!!」
ギャンギャン吠えるユキはほんまにチワワみたいやわ。
気持ちは分かるけど、熱くなりすぎてそろそろウザいな。
「分かったから。
けどユキも、合唱コンクールの曲弾けるやつやったやん。」
「そうやけど、それはええの!!」
ええんかい!
自分勝手やなぁ!
私は呆れながらユキを見た。
私たちはこんな話をしながら学校を出ようとしていた。
あれ?無い!
鞄の中をゴソゴソと漁っても無かった。
「ユキ、ごめん。
音楽室に忘れ物したから取りに戻るわ。」
「なんやのん!
何忘れたん?」
「リップクリーム。」
「あー、さっき音楽室で塗りたくってたな!」
塗りたくるってなんやねん!!
ちょっと唇が乾燥してたから塗っただけやん!
「音楽室に戻るから先帰ってて。」
「ドジな所もあるんやなぁ!
ほんならまた明日ー!」
ユキはニヤニヤと笑い、手を振って帰って行った。
人の弱みに付け込んで!
いつも何かしら忘れたり、勝手に約束したりして付き合ってあげてる恩を忘れてるんちゃうか?
着いて行ったろかの一言でもあればええのに。
薄情やなぁ。
と思いながら一人で音楽室に戻った。
音楽室に戻ると、またあのピアノの演奏が聞こえた。どこか物悲しい、それでいて懐かしい曲、何故かそんな事を思った。
そっとドアを開け、ピアノを弾いている人を確かめてみた。
逆光で顔は見えないが男の子のようだった。
突然ピタリとピアノの音が止まった。
やばっ
覗きがバレた!?
べ、別に見てたわけじゃないんだからね!
勘違いしないでよね!!!
そう思いつつ、ドアをそっと閉めようとしたがバレた訳ではなかった。
男の子は、「姉さん。」
そうポツリと呟いた。
その光景を見ながら、私は思い出した。
そうや、私は。