誰も知らない伴奏者 ②
〜音楽室〜
いつも吹奏楽部の子達や合唱部の子達が使っているため、賑やかな音楽室も今日はしんとしていた。
物静かな音楽室と夏の終わりを感じさせるヒグラシの鳴き声が良く合っていた。
「音楽室にとーちゃーく!!」
そんな雰囲気をぶち壊すユキの声が音楽室中に響いた。
やかましいわ!!
人がおセンチな気分に浸ってたのに!!
「はいはい。
じゃあ聴かせてよ、ユキのピアノ。」
「おっけい!
任せろい!!」
そう言うと、ユキはピアノの前に座り鍵盤に指を置いた。
ちょっとした緊張が走る。
ユキのピアノの演奏は初めて聴くので少し楽しみだ。
「じゃあ、合唱コンクールの曲を弾く前に十八番を弾くな!!」
「うん、聴かせて。」
ユキはピアノを弾き始めた。
風になりたい、を弾き始めた。
意外にもピアノは上手やし、ユキの性格と良く合った曲で躍動感溢れる演奏だった。
「上手やん。」
「やろ??
これ弾きながら歌うと最高やねんで!!」
ちょっと待てーい!!!
歌うな!!
頼むから歌わんといて!!
「風にーなりーたい♪」
うわぁぁぁあ!!
めちゃくちゃ台無しになったわ!!
私の感動を返せーー!!!!
「歌うのは禁止やで。」
「なんでよーー!!
楽しい時は歌わな!!」
私は泣きたくなった。
なぜピアノは上手くて歌は下手なのか、、、。
「曲が台無しになる」
思わずそう言ってしまった。
「ひどっ!
泣くで!」
勝手に泣いとけ。
そんなこんなで合唱コンクールの曲を練習する事になった。
「ユキのクラスは何歌うのん?」
「ウチの所はYellやで! 」
あの放牧宣言した生き物ばかりの歌か。
ユキが弾いたらどんな感じになるんやろ?
「ええ曲やんね。」
「そうやろ!
この曲昔練習した事あるから実はもう弾けるねん!」
「聴かせてよ。」
「ええで!」
私はユキのピアノ演奏を聴きながら夕焼け空を眺めて過ごした。
「もうこんな時間やん!!」
気づいたら17時を回っていた。
「ほんまやね。」
「ピアノ弾いてたら時間経つの早いわ!」
「そうやな、じゃあそろそろ帰ろか。」
「うん、そうしよ!」
私たちは荷物を持って音楽室を後にした。