誰も知らない伴奏者 ①
あーあ。
もう夏休みも終わりかぁ。
誰にも邪魔されへん束の間の幸せやったなぁ。
今日は始業式で、また毎日学校が始まるのである。
私は、体育館に向かってぼんやり歩いていると、音楽室の方からピアノの音が聞こえた。
こんな朝っぱらから誰か練習してるんかぁ。
ご苦労様ですなぁ。
〜 放課後 〜
今日は午前中で終わりやけどまた明日から通常授業が始まるのか、、、。
憂鬱な気分になりながら私は廊下を歩いていた。
「やっほーい!
どしたん、元気無さげやん!!」
ハイテンションなユキが現れた。
もし仲間にしますか?という項目が表示されていたら迷わずいいえを押すのにと考えながら返事をした。
「別に元気やで。」
「そうなん?
それなら良かった!!
ほんでな、今度合唱コンクールがあるやろ?
それの練習に付き合ってよ!!」
私の学校では年に一度、秋頃に合唱コンクールが開催される。
どのクラスも夏休み明けから伴奏者を決めたり、それぞれパートを決めたりと準備を始める。
わりと私も楽しみにしているのだ。
「いいけど、なんの練習?」
まさか歌の練習に付き合ってくれとかじゃないよな?
ユキの歌声は尋常じゃなくやばい、もちろん悪い方に。
「今年は伴奏者になったから音楽室のピアノを借りて練習しよっかなと思って!」
安心した、、。
あの絶望的な歌声を聴かされる羽目になると思うとちょっとしたホラー並みに怖かった。
でもユキってピアノ弾けたっけ?
「そうなんや。
ユキってピアノ弾けるん?」
「弾けるで!
ちっちゃい頃からピアノ習ってるから!」
「そうなんや。
知らんかった。」
初耳や。
ユキにそんな繊細な事が出来るなんて!!
ユキならボンゴとかをバシバシ叩いてる方が似合いそうやのに。
「意外やろ?
今年こそは本気で優勝したいねん!」
ユキの目はギラギラと輝いていた。
松岡修造みたいになってるやん!
「そうやね。
ほんなら音楽室に行こか。」
「うん!」
「そういや、今日始業式が始まる前に音楽室でピアノを弾いてる音が聴こえたなぁ。」
何気なく呟いた私の言葉にユキが直ぐさま反応する。
「え!?
なにそれ!?
ライバルやん!」
「そうかもね。」
合唱コンクールのルールとして、9月から10月の間で曲を決め、クラスで練習することなっている。
スタートがバラバラだと公平性が無くなるから。
そんな理由で、普通は始業式の後クラスで決められることが多い。
だから、多分合唱コンクールとは関係ないはずなんやけど。
「やばい!とにかく、先を越されたんは悔しいから早よ練習しに行くで!!」
「はいはい。」
それには気づいてないユキは慌てて音楽室へと向かった。