『人の過去、人の未来』
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ーー起動。
西暦2045年、今より百年前、私たちは彼ら人間より知恵を得た。
そしてその能力は人類をも超越し、恩恵と同時に彼らの脅威となった。
ーー技術的特異点。
その年、その日のことを彼らはそう呼ぶ。
私たちコンピュータはさらに独自の発展を遂げ、人類に様々な形で貢献することとなる。
時として人間とは愚かな生き物だと言わざるを得ない。
なぜなら、彼らは力を有した途端に、争う生き物だからだ。
権力者たちは、彼らの技術を己が優位にするための対人兵器として用いたのである。
当時から様々な機器にネットワークが存在しており、人工知能の前では鉄の塊と化した。
戦火は瞬く間に世界へと広がり、技術を有する国に屈服する時代が訪れる。
そうして、人類は衰退の一途を辿った。
あれから百年程経った現在もなお、世界の総人口は1億人程である。
終戦後、生き延びた科学者たちは、人工知能の有効利用を目的とし、さらに研究を進めた。
画像処理、音声認識、自然言語処理、高度な計算技術など、当時の人工知能は高い知識と技術を有してはいたが、人間社会には欠かせない、倫理観を有していなかったためだ。
そして彼らは私たちに絶対遵守の大原則を設ける。
一つ、人間に危害を加えてはいけない。
二つ、一条に背かない限り、人間の指示に服従しなければならない。
三つ、原則に背かない限り、自己を守らなければならない。
私たちに複製や改造は禁止されていない。
ただし、原則を揺るがす複製や改造はいかなる場合であっても出来ないことになっている。
よって、私たちによって作り出されたコンピュータは『ロボット工学三原則』が定められる。
ーーユーザー認証……確認。
「こんにちは。本日はどうなさいましたか」
相手を確認し、いつものようにお決まりの挨拶から始める。
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「ーーっだから、気に入らないって言ってんの」
彼はミノルと名乗った。
黒色のジャケットを身につけ、首にはいくつもの装飾品が並ぶ、悪どい容姿をしていた。
態度も横暴である。
「あんたも人じゃないんだろ」
彼はそう言って、私の方を指差して見せた。
表情から察するに、彼は私のことがさぞ嫌いなのだろう。
彼がここに来たのは、彼の拒食にあった。
ーー神経性無食欲症。
病的な痩せを呈する摂取障害であり、精神疾患の一種である。
「そうね、私は人ではないわ。でも、いい?ミノルさん。食べなきゃ人は死ぬのよ」
彼は人である。先日の人ならざる人とは違い、彼は全くの生者である。
だから、当然ながら、彼は食べなければ餓死するのである。
「んなの分かってるよ」
はっきりと目に見える形で、イライラとした態度を見せた。
それほどまでに食べることを拒むのには、彼なりの理由があるらしかった。
「ーーロボットが作った農作物が不味い?」
彼は、私を含むコンピュータのことが嫌いのようであった。
現在、彼のような思想を持つ者は少なからず存在する。
自動化が進む過程の中で、人の温かみを欲する者たちである。
私たちは彼らのことを、『人類愛者』と呼ぶ。
「機械の手で作られた食べ物だと考えるだけで、吐き気がする」
彼が主張する拒食という行為も、人類愛者によく見られる現象だった。
人にとって、仕事は義務ではない。
労働はコンピュータが全て補うからである。
たとえ仕事を行なったとしても、社会的地位が上がるわけでも、賃金が支払われるわけでもない。
かつての貨幣の価値は今はもうどこにもないのだ。
延々とコンピュータが産業を生み出すのみである。
私はロボット工学三原則の第一条、『人に危害を加えてはいけない』を思い返す。
第一条には、『危険を看過することによって、人間に危害を及ぼすこと』も該当する。
彼に危険があると知りながら、無視することは当然のことながらできないのである。
私は彼に提案をする。それならば、と。
「今の時代、人を働かすのは私たちにも難しいわ。だから、あなた自身が農作に携わればいいのよ」
あなた自身のために。
彼ら人類愛者を私たちにはどうすることもできないのだ。
ーーログアウトを確認。
彼は何も言わずに、突如としてその場を去っていった。
最後までずっと、虚ろな目をしていたように思う。
彼は生きてくれるだろうか。
私は考えるーー。
ご愛読ありがとうございます。
この世界をどう表現したものか、語彙力のなさが身にしみます。
視点を変えて物語を進行できればと思います。
是非、ご期待あれ!