アンドロイド日和番外編1〜日和が生まれて1年間〜(後編)
ある日研究所にやって来た少女、日和。最初は人見知りをして私とも話してくれませんでしたが、私が実験に連れて行かれる時、彼女はものすごい怖い表情と声色で、「友達はずっと一緒」と言って、私を止めにかかりました。あまりの恐怖に、私は初めて涙というものを流しました。そして晴れて友達になれました。
日和と私が親友となり、半年。
「あなた、これはズボン、着るものじゃないよ。」
「え、そうなんですか。穴が二つしかないのでどうすればいいのかと……」
服の着方を教えてもらったり。
「ほら、ここにキュウリがあるでしょ。こうやって包丁を振り上げて、思いっきりストンと切るんだよ。」
「なるほど、やってみます……えい!あ、イタタ。指から赤い……血っていうものですか?アンドロイドなのに……」
「いけない、止血!」
料理の仕方や血の止め方。彼女はいろんなことを教えてくれました。そしてなにより、楽しいんです。気づいたら、彼女は私の憧れ、ずっと一緒にいたような、そんな気さえしました。
そんなある日。彼女が暗い顔をして私のところに来ました。
「こんにちは、日和ちゃん。」
「うん……」
私は心配になりました。
「どうしたんですか、顔が暗いです。」
「……実は、私、ここを離れることになったの……」
「え、それって……」
「ごめん、両親の仕事が落ち着いて、また都会で一緒に住むことになったんだ……」
「うそ……ですよね……」
「ごめん」
言葉が出ませんでした。親友、いやきっと私の中ではその範囲を超えていたように感じます。そんな彼女がいなくなるなんて信じることができませんでした。
「前、友達ならずっと離れないものだって言ったけど、私が破っちゃうんだ。ごめん……ッ……グスッ……本当に……ごめん……」
私も、悲しくて、悲しくて、別れるのが辛い。けど、私はアンドロイド。そう、アンドロイド、なんです。誰かが決めたことは、絶対に守らないと……でも、もう……
「日和ちゃんッ!」
「へっ」
気づいたら、私は彼女に抱きついていました。そして、目からまた水滴、もう分かります。涙です。大粒の涙が、一気に溢れ出たのです。
「日和ちゃぁぁん……!いや……いやよ……別れたくないです……グスッ……一緒って……約束……」
私は泣き続けました。
「グスッ……ごめん……ごめんなさい……ごめんなさい……ずっと、一緒なのに……」
そして私たちは抱き合ったまま泣き続けました。お互い顔は見合わせていません。どんな表情かも分かりません。前も歪んで見えます。ただ、私たちは別れなくてはいけないという事実に対し、深い悲しみに襲われました。
そして大体、抱き合ったまま1時間近く泣き続け、涙が止まり、私たちは抱き合うのをやめ、お互いの顔を見合いました。
「泣いたね。」
「そうですね。」
「ね、私はあなたのこと、親友だと思ってた。」
「え、思っていた……?」
「うん、でも少し違う気がするんだ。」
「どういうことですか?」
「……妹……かな……背はあなたの方が絶対高いのにね。」
「……妹……」
「あなたがいてくれて、楽しかった。いろんなことを教えて、いろんなことをして、本当に、楽しかった。」
この時、私は社長が言っていた、妹の意味、これの真意かは分かりませんが、少しわかった気がしました。
「日和ちゃん……私も、一緒に入られて、本当に嬉しかった。だから……お願いがあります。」
私はそう言って、姿勢を整え、真面目な顔で言いました。
「私に日和ちゃんの名前をください。」
「……へ……」
なんでしょう。変なことを言ったのか、沈黙が流れました。でもそんなもの、私たちにかかればすぐに終わってしまいます。
「ふふ……いやや、まさか真面目な顔で言うから私もつい真面目に聞いちゃったけど、名前が欲しいって……ハハ。」
「もう、私は真面目に言ってるんですから。」
「ごめんごめん……いいよ。あなたは今日から日和。私と同じ名前ね。ずっと一緒、お揃い。」
「はい!」
このあと、日和は社長に連れられて、研究所を後にしました。私は笑って去っていく彼女を、ドアの外に出るまで見送り続けました。
これが私がお兄ちゃんに出会う前にあった出来事です。彼女との日々は本当に楽しかった。私が妹ですので、彼女はお姉ちゃんですね。さて、この番外編ですが、本編的にはこれでおしまいです。ですが実はまだ続きがあります。考えてみてください。私がお兄ちゃんのところに来た時、私は服の着方もわからないぐらいの無知になっていました。実はこの後大事件が起こってしまいます。何があったのか。それは本編second storyをまたいだ後の番外編で、お話ししますね。
end(続く)