アンドロイド日和4話〜ひぐらしな日和〜
朝、日和を起こして、彼女はリビングに着替えと朝の準備をしに行った。少しは上達したとはいえ、家事の能力は相変わらず低い彼女に不安を覚えつつ、僕は出かける準備をした。
そして、彼女から着替えが終わったと言われ、リビングに入ると、彼女はなんと下に何も身につけずに自分のワイシャツを着ていたのだ。
注意するのだが、日和は泣き出してしまう。仕方なく強引にワイシャツを脱がし、何も身につけていない彼女の姿をチラ見しつつ、彼女に白色のワンピースを着せた。
そして、彼女にこっちの方が可愛いよと言って、ようやく泣き止んでくれた。実際に可愛い。
そんなことをしていたら、7時50分。大急ぎで出かける準備をして家を出る準備をして出ようとしたら、日和に引き止められ、いつものをしてと言われた。
そして、僕はいつもの、彼女の頭を撫で、行ってくるよと一言言って、出かけるのだった。
学校から帰って、僕はアパートの自分の部屋の玄関で立ちすくんでいた。部屋じゃ……ない。正確にいえば壁や扉は破られ家具も散乱して部屋の原型をとどめていない、という状況だ。そして僕の目の前にはエプロン姿の日和がムッとした表情をして立っていた。
「おかえりなさい、お兄ちゃん。」
「日和、この状況を説明してくれるかな?」
拗ねたような声をする彼女に対し、ここは落ち着いて、彼女に問うた。
「じつは……」
「おぉ、僕っ子じゃん、久しぶり〜。」
日和の言葉を遮って奥から声が聞こえた。この弾んだような声。そしてその声の主が奥から出てきた。
「お前、古河か。」
「もう、古河じゃなくて、みやこだよ〜僕っ子。」
このリクルートスーツを着たショートヘアで日和とは対照的な黒髮、長身なボーイッシュな女の子。名前は古河みやこ。僕が田舎にいた時からの幼馴染で、同級生だった。機械いじりが得意で、同じ高校を卒業した後は父親の提案で日和研究所で働いていると聞いている。
「今日はどうしてきたんだ。それと、もしかしてこの家の有様はお前か。」
「有様とは酷いな〜。今日は日和ちゃんの定期メンテナンスにきたんだよ〜。」
「だからといって、なんでボロボロなんだよ。」
「何って、メンテナンスのために日和ちゃんの服を脱がそうとしたんだよ。そしたら嫌だっていって走り回るんだよ。」
全てを悟った。わざわざ田舎からメンテナンスのためにきた古河は、服を脱ぐのを嫌がる日和を追いかけ回してその結果この部屋の有様になったというわけか。一体どうしたらこんなにしっちゃかめっちゃかにできるのだろうか。
「だからといって乱暴だ。いい加減その辺りなんとかしてくれ。」
「乱暴なんてそんな、なんもしてないよ〜。追いかけ回したら部屋がこんなんになっちゃって、ごめんね。」
そういって舌を出す彼女に若干の殺意がわくがぐっと抑えよう。昔から彼女は乱暴で、何度とばっちりを食らったことか。
「とはいえ、日和にも非はあるよね。」
「え、お兄ちゃん……お兄ちゃん……私…グスッ……私……」
あ、またやってしまった。
「ちょっと僕っ子。女の子泣かせるってどういうことよ〜。こんなやつこうしてやる。」
そのまま彼女に押し倒され、倒れる一瞬を突いて後ろに回り、倒れ込んだ僕をそのまま手足で首を押さえつけ、頭を彼女の胸でホールドされ……うむ、気づいたら僕はいわゆる羽交い絞めを食らっていた。
「う……苦しい、古河苦しい……あ……やめろ……」
「おいおい、反省しろ〜女の子を泣かせた罰だ〜。」
なんだか嬉しそうな口調で言っているように聞こえる。ま、とにかく彼女に技を解いてもらうように懇願するも聞き入れてもらえない。だが、その時だった。
「やめてください。」
その声に一瞬古河の手足が緩んだ。声のあった方向に顔を向けると、右手に包丁を持ち、鋭い目つきで古河を睨みつけている日和がいた。
「お兄ちゃんをいじめるなんて、私は絶対に許しません。早く手足を解いてください。出ないと私……」
今まで見たことがない、怖い表情を浮かべる日和。本当に日和なのか……ついそう思ってしまうほどだった。
「もし、今すぐお兄ちゃんからその忌まわしい手足を解かないと私、あなたをこの包丁を腹部に突き刺したくなります。」
日和は荒々しい狂気じみた声でそう言い放った。ふと見上げた時に見えた古河でさえ、表情がこわばるくらいの殺気を、日和は放っていた。
「わ、わかったよ、日和ちゃん。いう通りにするから、ね。」
慌てて古河は技を解き、僕はようやく自由になった。
「ふぅ、やっと自由になった。」
「お兄ちゃ〜ん。」
包丁を床に落とした日和は僕に抱きついてきた。僕は彼女の頭を優しく撫でてあげた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん。」
「日和、日和、日和。」
日和は、僕が解放された瞬間に一瞬で落ち着きを取り戻した。やはり彼女は可愛い。こんな可愛い子が今にも人を殺すようなまねをするわけない。あれは幻覚だ。きっと勘違いだ。そう思っとくようにした。
「あの〜、外野が失礼するけど、メンテナン……」
「嫌です。それにそもそもあなたのようなお兄ちゃんに危害を加えるような人にメンテナンスしてもらう体はここにはありません。ここから消えてください。さもないと……」
現実だった。彼女の顔は笑っている。だけどまた、先ほどと同じ身震いするようなオーラを発している。
「なぁ、日和。こいつに殺意が沸くのは理解するけど、どちらにせよ定期メンテナンスを受けないと壊れるかもしれないよね。」
「でも、お兄ちゃんをいじめる相手ですし、、そもそもあんなこと、他人の前であまりやりたくありません。」
とは言っても、やはりメンテナンスは必要だし……
「うーん、仕方ない。ちょっと待って。」
急に古河が呆れ顔でそう言って、ポケットからスマートフォンを取り出し、どこかに電話を始めた。
5分ほどで古河は電話を切った。
「今社長に連絡して、僕っ子にもメンテナンスの仕方を教えてもいいことになったから。」
「はい?」
「私がメンテナンスできないんだし、仕方ないじゃん。それにあんたがちゃんと管理できるんならこっちとしても助かるし。」
「え?」
「じゃ、そういうことだから、はいこれ、メンテナンスのマニュアル。じゃぁ私は帰るよ。じゃね。」
彼女はかばんから分厚い冊子を取り出して僕に渡してそのままそそくさと帰ってしまった。
「やりました。お兄ちゃん。悪はさりました。」
彼女は満面の笑みを浮かべ、僕を見つめていた。
可愛い妹の裏の顔、僕の妹は怒らせると怖い、今日はいろんな意味でそれを学習したのだった。
「とりあえず、メンテナンスしようか。」
「はい、お兄ちゃん。」
あ、このボロボロの部屋、どうしよう。
次回予告
マニュアル通り、日和のメンテナンスを始める。メンテナンスの際、服を脱がなくてはならないのだが、彼女は恥じらいを見せない。せめて隠せというのだが、日和はまた泣き出してしまう。
とはいえメンテナンス、僕は彼女の背中にある蓋を開けた。
そしたら彼女が悲鳴をあげ、全身が震えだした。