最終話
深い深い森の奥に、とても美しい小さな国がありました。
この国に住む一人の心優しき王子は、森の魔女を連れて、国を旅立ちました。
国中では様々な人達が、頭を悩ませる日々が続いていました。
森の魔女は悪い者と聞いて育った人達に、王子がそれは間違いだと言ったからです。
それに王妃が、今まで王子に何をしたのかを懇切丁寧に語りました。獣と王子がどのように生き、自分が何をしてしまったのかを。
町の人達は考え続けます。
王妃も考え続けます。
そして聖導師さえも、何が正しく、何が間違っていたのかを考え続けました。
ある者は言います。
「やはり王子は狂っていたのだ」と。
またある者は言います。
「命は等しく大切なもので、そこに人と獣の優劣は無い」と。
様々な人達が様々な意見を持ち、国中はある意味では混乱していました。
皆一様に王子と話をしたくてたまりません。それぞれが出した答えが正しいのか、王子が何を思うのか知りたくて仕方ないのです。
これほど王子が誰かに求められたのは初めての事で、彼が知ったらきっと喜ぶに違いありません。
しかし王子は未だに戻らず、何処へ行ったかも誰にもわかりませんでした。
季節が一巡り、二巡りし、人々が諦めかけた頃、深い深い森の奥の小さな国の上に、一羽の白い鳥が飛びました。
それを見つけた一人の少年は、鳥を見上げながら、ぼんやりと王子の事を思いました。
「早く帰ってこい」
声にならないぐらいの呟きは、空に消えていきました。
深い深い森の奥に、美しい小さな国がありました。
いくつかの季節が木々を彩らせていました。
小さな国の入口に三人の人影がありました。
背の高い一人の青年は静かに呟きました。
「西風の便り、確かに受け取ったよ。ありがとう獣」
おしまい