~二人の兄弟~
城を見つめるある二人の兄弟。
彼らが起こす行動はどのような結末を見せてくれるのだろうか。
今、古城の外は暗闇に包まれていた。
その古城はある丘の上にある。周りは森だらけではなく草原が見渡せる。丘に森はあるが、古城からは少し離れて囲むようにある。古城はいくつもの柱が建ち並ぶ構造だ。
これでは城としてこの構造の立地では敵に状況が見られやすく致命的に感じる。
しかし、まず城に行くまでの間の森には凄まじい猛獣達がいる。それが城に行き着くまでに敵を妨害する。さらに城側の動きが見られやすいとしても、この平坦な立地だ。城に侵入するものを視認しやすい。弱り切った相手の動きを読めば対処は簡単だ。
この城の穴を考えるとすれば昼までに森を抜け、夜に襲うことが有効だろう。何しろ侵入者の動きは見えにくく、城の明かりで城側の位置はすぐにわかる。
ただし、これを普通の城と思っている時点でこの考えは間違っている。この城は人は関わるべきではない人ならざる者達の古城だ。そのような穴などある程度は破ってしまう。
そんな城を森の木の上からある2人の少年達が双眼鏡で覗き込んでいた。
「ねぇ、お兄ちゃん。これは一体どういう状況なの?」
「あん?」
日本人の顔だ。制服を着ている。高校生くらいだろうか。携帯の明かりをつけていた。
話しかけた1人の少年は髪が短く、童顔な男の子に見える。そしてその少年が話しかけたのは横にいる少年の兄だ。髪はボサボサでちゃらちゃらしている印象だ。顔は全く似てないがお揃いの茶髪だった。
「兄弟2人で城の観察」
「そんなことはわかってるよ。何なのこの状況。どうしてこんなことになったの?」
弟は兄に向かって声を大にして話しかける。たが兄は軽く返す。
「なぜって、修学旅行でイギリスに来たけど、俺達だけ離れ離れになって、途中お金も底をつき、帰れなくなった。だからこの城の宝の事を聞いて猛獣に襲われながらも木に登りながらここまでたどり着き、城の潜入方法を考えているんだろう」
「わかりやすい経緯の説明ありがとう。でもそんなことは聞いてないよ。なんで僕らはこんなことになってるの? この城に山ほどの宝石があるって聞いたけど金を稼ぐ方法ならもっと沢山あるでしょう」
弟の意見はもっともだ。この二人は金がなくなり、この城の宝のことを聞いて来たらしいがまず普通の高校生くらいの少年がわざわざ危険を冒してまで来るところではない。ただそんな森の木の上にいる時点ですでに危険な目にあっているのはお察しの通りだが。
そんな状況において理由を聞いた弟は今から言う兄の言葉に驚愕する。
「古城のお宝とかって冒険心をくすぐられるだろ!?」
キラ~~~~ン
兄はグットサインをして歯を光らせた。
「ふざけんなーーーーーー!!!」
弟は激怒した。実はここに来る理由はこの場所にたどり着くまでぼかされていたのだ。
どうせろくでもない理由でないかと弟は薄々わかっていた。なのに弟がここまでついて来たのは兄への優しさからだろうか。もしそうだとするととんでもない事だ。
しかしだからこそ弟は願っていた。ろくでもない理由でないことを。しかしその願いは打ち砕かれたのだった。
「そんな理由でここに来たのかばかやろう!!」
「まぁまぁ、怒りを静めろ。別にそれだけが理由じゃない」
「本当に?」
「うむ、それはこの冒険を経てより一層兄弟愛を深めるためだ」
「逆に粉々に崩れさっているわ!」
兄の一言で余計弟はぶち切れてしまう。だが兄はそんな弟を完全に無視して古城に目を向いていた。
「………はぁ」
ここまで露骨に関心を示されないと自分は何をしているんだろうと思ってしまう。弟は怒りが覚めてしまった。
「しかし、よくここまで来れたね。みんなかなり心配しているはずだよ」
「ふん、俺達兄弟は最強だ、問題いらん」
その自信はどこから来るのか、兄の考えに弟は呆れて深く溜息をついた。だがそんな馬鹿な兄の言葉を気にしている暇はない。状況を進めるために弟は城潜入について兄に問いただす。
「どうするの? 辺りは暗いから城にこっそり近づけそうだけど」
「甘い。今城の中に複数の影が見えた。それでは城の奴らにすぐに見つかり、やられてしまう。奴らは吸血鬼なんだぞ。闇夜でもすぐに俺達を見つけられる」
「来る前に聞いた噂のことだね。お兄ちゃんはっきり言うけど吸血鬼なんてそんな非現実的なものはいないよ」
「ふん、そう思っとけ。後で吠え面吠えてもしれねえぞ」
「へいへい」
「まぁ、どっちにしろと馬鹿正直に入るのでは芸がない。なにか隠し通路があればいいが……」
「芸はいらないと思うけど……。まぁ確かに正面から入るのは危ないいかもね。一応どんな城でも敵の襲来や仲間の裏切りに備えて隠し通路があるものだけど、そんなものすぐに見つからないよ」
それは当たり前のことだ。隠し通路がすぐに見つかる場所にあればそれは隠し通路ではない。見えにくく、分かりにくい所に設置されていることがほとんどだ。しかもこの暗さである。見つけることはほぼ不可能に近いだろう。
なのだがこの兄弟達ここまで来れた時点でかなりの強運だ。そしてその強運が再び発揮された。
「お、おい! 優樹あそこの岩なんか光ってないか? 双眼鏡で見てみろ」
「お兄ちゃん。岩が光るわけ……」
弟は疑いながらも双眼鏡で言われた場所を見てみる。すると本当に岩が光っていた。より正確には岩の下に穴が 見え、そこから光が漏れていたのだ。
★
「まさか本当に隠し通路があるとは思わなかったぜ」
「でもお兄ちゃん。城の地下通路を進んでたのになんでこんなところにいるの?」
兄弟達は現在古城の屋根裏を這いずっていた。辺りは暗いが、兄が持っていた携帯でその場を照らしている。
「そんなこと知らん。普通に進んでただけだ」
弟はなぜ普通に進んだら地下通路から屋根裏に着くのだろう と不思議に思いながらも今は考えても仕方ないと気にせず進むことにした。しかしここはじめじめして虫やらネズミやらが沢山いて陰気な所だ。
「ねぇお兄ちゃん。こんなところに宝なんてあるの?」
「あぁ、俺もすごく自信なくしてきた」
「止めてよ。最も自信をなくしてはいけない人でしょ!」
「だが発見はあった。見ろここを。屋根の下が見える。数人が血眼になって何かを探している。これはきっとお宝を探しているに違いない」
「本当?」
兄は天井に開いた穴を覗きながらそう言っていた。弟は疑いながらながら兄に促され、そこを覗いてみる。すると本当に複数の人影が何かを血眼になって探していた。
ただし英語で「ぶっ殺せ!!」「血祭りにあげろ」「火あぶりだ」などと物騒な言葉も飛び交っている。
「あれは確実にお宝は探してないよ。それだけはわかるよ」
「俺英語わかんねぇしな。まぁなんにせよ余程重要なものを探しているな。だが絶対にこんな豪華な城だ。宝は絶対にある! この隙に奪うんだ。しかも証拠にさっき『女騎士の顔が掘られたルビーの指輪』を見つけた」
「流石だね、ルビーの指輪か……」
「ふん、俺を褒め称えよ!!」
とその時弟は不意に兄が言ったことが思い切り気になった。
「ねぇ今ルビーの指輪って言わなかった?」
「あぁ、さっきそこら辺に転がってた」
兄は拾ったルビーの指輪を弟に見せた。女騎士の紋章が掘られており、かなりの大きさだった。
「これ本物? だとしたらもう宝を探す意味ないじゃない。帰ろうよ!」
「ふっ、お前はまだまだだな。これくらいで満足していてはトレジャーハンターの名が廃る。行くぜ! 世界の宝は俺のものだ!!」
そう言うと、兄は猛スピードで屋根裏を進み始めた。
「ちょっと待てぃ! 帰るつってんだろ! バカ兄ぃぃ!」
呆れ果てる弟。夢に向かって邁進する兄。
2人のトレジャーハンターズは宝を求めて突き進む。
主人公は先ほどの少女、そして今回登場したこの男子高校生の兄弟たちです。それぞれの視点を切り替えてこの章は進んでいきます。次は再び少女視点です。