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bloody princess  作者: クオン ユウト
第一章 〜裏切りと半純血の姫〜
1/9

~半純血の姫 ~

 ある少女がいた。

 

 あるか弱い少女がいた。


 ある痛みを持った少女がいた。


 ある強い少女がいた。


 少女は運命を抗い、必死に生きようとしていた。

2010年5月28日(金)

イギリス 某古城


「は、はぁ、はぁ」


 一人の少女は長く暗い石造りの通路を走っていた。白と紅のドレスを纏った長くて黒い髪の少女だ。

 その通路には様々な肖像画が飾られている。どれも不気味なものばかり。肖像画はこちらを見下出し、蔑み、畏怖しているように見える。とにかく気持ち悪い。

 少女はそれらを気にしながらもひたすら通路を走っていた。


 そう少女は追っ手から逃げている所だ。汗を額から垂れ流し、腕や足にはあざや流血が見られる。


「お嬢様、こちらでしたか」


 突然、柱の影から男が現れた。柱に隠れていたのではなく、影の中から姿を現したのだ。

 しかし、少女はさほど驚かない。まるでいつも見ている光景かのように。とりあえず走りながら話しかける。


「オシリスか。どうだった?」


「何人かは殺せました。しかし他はまくのが精一杯で……」


「いい、とにかく今はこの城から脱出することだ。時間さえ稼げればそれでいい」


 少女は男を促して走る。少女と並行して男も一緒に走り出した。

 この男、この少女の執事で名はオシリスと言う。背は高く黒いスーツを纏っている。かなりの二枚目だ。だが瞳は黄色く光り、まるで猛獣の様。爪や犬歯も少し長い。どうやら人間ではないようだ。

「くそ、やつらわたしの血がそんなに醜いものだと言うのか。母様が死ぬと同時にわたしを殺しに来るなんて」


「仕方ありません。我々は昔から血を重んじて来たのです。まして貴方の父君は……」


「うるさい! わかっている」


 少女は傍らで走る執事の言葉に感情的になり、目に涙を浮かべる。

 それも束の間のこと、それを拭うと何事もなかったかのように廊下を駆け抜ける。


「姫様。今回の首謀者はお嬢様の母君の弟リューク様です。前々から主乗っ取りの情報は微かに入っておりましたが首謀者は先程の戦闘で聞き出せました。確かな情報です」


 少女はため息をついた。


「やはりか。あいつは昔から好かなかった。昔からわたしを主の器ではないと母様といつもごねていた。それで母様が死んでわたしを殺しに来たわけか」


「しかし、いくら血を重んじると言っても最近はその考えも薄まってきていますのに、まさか城の者の8割近くに矢を向けられる事になるとは思いませんでしたが……」


それを聞き、少女は一瞬思いつめた顔をした。心がくじけ、足が止まりそうになる。だがそれは出来ない。生きるためには逃げるしかない。 

 少女は顔を前にあげ、走り続けようとした。しかし、その行動は執事の腕に遮られる。


「どうした?」


「前から来ます。一旦右手の部屋に隠れましょう」


 少女は執事に言われ、耳を澄ませる。確かに追っ手の足音がした。このままでは危険だ。

 執事に促されて右手を見る。通路の右手には先程の肖像画が飾って辺りとは違い多くの部屋の扉があった。


 なるほど、隠れるにはちょうどいいが……


「しかし、相手も隠れやすいとわかるだろう。すぐに捜し出される」


「大丈夫です。部屋のクローゼットに隠れましょう。いざとなればクローゼットの中の影を伝い、相手を闇討ち出来ますから」


「それでも殺したら仲間を呼ばれて二人いっぺんに場所がばれる」


「考えるのは後にしましょう。とりあえず中には誰もいません。早く中へ!」


 そう言われ、少女は執事と一番近くの部屋に入り、その中にあったクローゼットの中に隠れた。

 クローゼットはちょうど人が2人が収まるギリギリの広さだったのでなんとか入る事が出来た。


 入ってすぐに複数の足音が聞こえて来た。


「ち、見つかんねぇな。なんであんな力がないガキにこんだけ逃げきれるんだ?」


「一応、元お嬢様だ。言葉遣いくらいはせめて考えろ」


「でも、元でしょ。もういいじゃないそれくらい。本当に律義よねあなた。」


 やって来たのは元部下の数名だ。クローゼットを一瞬、わずかに開けて二人は状況を確認する。そこにいたのは逆立った赤髪の柄が悪く雑そうな男と青髪の真面目そうな長身の大男2人と強気そうな黒い長髪で長身の女の三人だった。


 少女は震え、クローゼットの中で執事の体を強く抱きしめる。執事の方も自身のお嬢様を強く抱きしめ、声を潜める。


「あの半人間はリューク様の言う通り私たちの主になる器ではないわ」


「まぁ、そうだかな」


 真面目な男は強気な女に言われ、渋々納得した。


 この時、少女は女の言った言葉でまた涙を流してしまっていた。

 半人間。それが少女の心にずっしりと響いていた。


「そんなことはいい。とりあえずここいら一帯は部屋だらけだ。隠れるにはちょうどいい。早くこの辺りを手分けして捜すぞ」


 雑そうな男は周りを促す。


「そうね。でもおそらくあの子は1人ではないわ。何人かはあちら側についているけど複数で守ってたらすぐに場所がばれるわ。かと言って1人でこんなに逃げられない」


「側についているとすれば最も信頼する1人だろう。おそらく、オシリスがお嬢様についてる。用心して同じ部屋を同時に捜す」


「ちっ、やつがそんなに強いとは思わんがな」


 そう言われ、雑そうな男は気に入らなそうながらも一応注意を聞いて他のメンバーと一緒に周りの部屋を捜し始めた。


「はぁ、奴らこんな状況でも用心深いですね。1人ずつなら気づかれないものの……」


 執事の聞こえないよう小さな声を出しながら、注意深く外の様子を伺っている。だがそんな時、執事は手になにか冷たいものを感じた。

 ふと前を見ると、少女は顔を赤くし、目から大粒の涙を流していたのだ。


「お嬢、様……?」


 執事は静かに少女に話しかける。


「すまない。ワタシなんかのために。こんな出来損ないのワタシのために。ワタシのために」


「お嬢様……」


 気づくと少女は大粒の涙を流しながら執事の胸に強く抱きついていた。

 執事はそんな涙を流す少女の様子を眺める傍ら、少女自身の瞳を観察していた。少女の瞳は黒いものから少し紅いものに変わっていたのだ。


「…………」


 執事は少し落ち着いたあと後、自らのお嬢様に話しかけた。


「お嬢様。そんなに自分を下に見てはいけません。お嬢様は立派なお方です」



「なにが立派だ。ワタシはいつも周りに蔑まれ、嘲られ、そして憎まれていた。ワタシは一族の邪魔者。半端な存在だ!」


 少女は歯をくいしばり、強く執事に言い放った。そのせいで声が少し響く。周りに気づかれてしまう。慌てて執事は少女の口を抑えた。

 だが連中が他の部屋を物色している音は鳴り止まない。どうやら気づかれていないようだ。執事し少女をなだめ、また静かに少女に話しかける。


「お嬢様は半端な存在などではありません。どうして自分をそこまで卑下されるのです」


「だから半端な存在だからだ。完全な力も使えず、ましてや人の血があるから皆を遠ざける。人間からも化け物と比喩された。お前もどうせ見下しているだろ。ワタシ側についた部下も本当は母様の忠義心でついているだけだ。ワタシには何も」


 執事は少女が言った言葉を聞き、溜息をついてしまう。だがそのあと少女を今度は自分から強く抱きしめた。


「オシ……リ…ス?」


「お嬢様は本当に素晴らしいお方です。あなたは純血の一族としての血を流しながら、そして人としても生きて来られた」


 執事は続ける。


「お嬢様は母君から一族の事を教わり、父君からは人としての感情を教わった。お二人から教わった事をしっかり守り、あなたはどちらの世界でも逞しく生きた。我々の世界では普通幼少期に持ちえない人の豊かな感情。人の世界では人の子としては珍しく、時として必要な冷酷さや倫理感を持ち合わせていた」


「……………っく」


「お嬢様?」


「でもワタシは一族の力を完全に使えないし、そして人でない化け物だ」


 執事に優しくなだめられても少女はそれでも自分を卑下する言葉が出てしまう。


 執事は言葉をさらに続けた。


「一族の力なんて比になりません。それにあなたは化け物なのではない。あなたは人と一族の枠を超えた特別な存在です。そんなあなたはワタシ、いや皆にとって本当に眩しい存在だった」


「あ……」


 オシリスから出た言葉に少女は絶句してしまう。


「お嬢様には計り知れない本当に素晴らしい力がある。特別な存在というだけではありません。お嬢様は幼少期から人として一族として生きてこられた。それがどれほど過酷なものかは容易に想像がつく。しかし、あなたはあきらめず、強くたくましく生きてこられた。お嬢様に味方する者はただ母君の忠誠心だけではありません。お嬢様のその生き方にみんな惹かれたのですよ。あなたは一人などではありません」


「……」


 この言葉を聞いた少女はまた静かに大粒の涙が流し始めたそれがまた執事の手に落ちる。その涙は今までと違いとても暖かかった。


「さっき来てくれた時、本当は嬉しかった。ずっと1人だと思っていたのにオシリスが来てくれて心の底からほっとした。ワタシにはずっと皆がオシリスがいたんだな」


 そう言った少女の口を執事はまた抑える。


「お嬢様の可憐な声が周りに聞こえてしまいますよ」


 執事はニコリと微笑んだ。


「あぁ」


 それを受けて少女は小さく頷いた。

 そして執事はまた少女の顔を覗き込む。その少女の瞳はさらに紅く光り輝いていた。少女は執事が顔を覗き込む様子を見て不思議に思ったが、執事はまた微笑み、左手で自らのお嬢様の頭をさすった。


「ふふ」


 少女はくすぐったそうに笑ってしまう。涙が流していた少女に笑顔が溢れた。


 だがオシリスの右手には自分の服から取り出した鋭いナイフが握られていた。

素人ですが、自分の思う通りに書いていこうと思います。後半に行くにつれて様々な要素を取り入れていくつもりです。よろしくお願いします。

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