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2話

 2


 巧―――景山巧かげやまたくみはカフェから外へ出た。まだ午前中だと言うのに容赦ない強い日差しが降り注いできた。まだ夏本番と言えない時期のはずだが、今日は急に暑さが上昇しているようだ。

 巧はクーラー対策の為に長袖を着ていたが、暑くて袖を捲りあげた。


 それにしても、と歩きながらさっきの頭に浮かんだ映像を思い出す。

 聞こえた会話から分かった事は、彼女はパティシエを目指している高校生で、名前は「菜々」と言う事。

 彼女が兄に対して話す言葉はテンポが早くて、遠慮と言うものが無かったが仲はいいのだろう。買い物を一緒にしているぐらいだ。

 背は割と高い方で、化粧は休日だからか多少していたみたいだが、ほぼノーメイクに近かった。高校生と言うよりは二十代前半と言われた方がしっくりとする位に大人びて見えた。

 彼女の目は大きく、表情が豊か。くるくる変わるその表情は、より彼女を生き生きとさせて見えて、若さも含めて魅力をさらに上げていた。

「高校生、か。この先何時会えるのか分からないけど、まあ、そのうち会えるだろう」

 視た映像では、二人の距離感は恋人のものとしか見えなかった。

 本当に恋人となるか、ならないか。そんなことは今の時点では誰にも分からないことだ。巧が今の時点では、視たものを好ましいものとして受け入れられるものだったからゆっくりと楽しみを待つ事にした。

 相手がまさか高校生とは驚きだが、そんな関係になるのは数年後も有りうるなと考えながら自宅へと帰るのだった。


 一度自宅へ戻った後、着替えてジョギングへと出かけた。毎日しているわけじゃないけれど、なるべく走るようにしている。

 それというのも、普段している仕事と言うのが小説を書くことだからだ。

 どうしても普段は運動不足になりがちだから解消するために、出来るだけ夕方や夜に一人で走る事にしている。

 それに、ずっと部屋に籠りがちないい気分回転にもなる。

 巧は、基本的に朝起きて夜寝るという生活スタイルを送っている。

 書いている場所は、自宅や、自宅の隣にある自身がオーナーをしているコーヒーショップ・Clematisクレマチスの店の中だったりする。

 話に煮詰まると店でコーヒーを啜りつつ、周りの話声を聞いたりして話題作りに役立ててみたり、人間観察もしたり、スカッとする為に走ったりしているのだ。

 オーナーをしている店は、大学から付き合いがある友人にやってもらえないかと声を掛けて店長をしてもらっている。店長というが、今の所従業員は彼一人しかいないのだが。

 その店長は巧と同い年で、中崎浩介なかさきこうすけと言う。大学の頃にコーヒーショップでのバリスタのバイトをしていたが、それが大学卒業後に就職した商社を数年で退職した。

 やっぱりバリスタの仕事に就きたいと転職を決意し、他のカフェでアルバイトをしながら、資格を取ったりして今の店で働き始めたのだ。

 巧が執筆活動をしているP・Nは『拓海』で、読みは同じ『たくみ』で活動している。その小説によくイラストを描いて貰っている人物でP・N『了』は、本名が秋庭遼一と言い、浩介と同様巧とは大学からの付き合いだ。


 巧はいつものコースを走っていると、ジョギングコース終盤としている公園の中を通って帰ろうとして、細い横道を走っているとサツキの木の下に小さな黒い猫がゴロゴロと転がって遊んでいるのが見えた。

 野良猫だと思い、通り過ぎようとした時に、猫が転がっている後ろの茂みからは、男女の営み特有の喘ぎ声が聞こえたかと思うと、今度は何やら言い争っている喧嘩のような声が聞こえてきた。

 合意の上での行為ではなく、もしや強姦か!?と思い足を止めた。

 けれど、それは巧の勘違いかも知れないので、堂々二人の前に姿を見せるのを躊躇していると、足元から少し離れた所にまだ転がっている黒猫は、体に薄いピンク色の糸に絡ませてジタバタしているのが見えた。暫くすると暴れすぎた為にとうとう絡まっていた糸は切れたらしい。

 やれやれとため息でも吐いてそうにして、よろりと立ち上がる黒猫の姿が見えた。

 すると茂みからは先ほどよりも男女の喧嘩は更にヒートアップして聞こえ、頬を叩くような派手な音が聞こえてきた。

「いい加減にしてよね!!」

 そのセリフに、犯罪では無く、どうやら二人は知り合い同士で、ただの喧嘩らしいと思ってほっとした。

 犯罪ではないのなら、この場所から早く去ろうと思い走り始めようとしたところ、黒い猫はなんと体に巻きついていた千切れた糸を前足を使ってコネコネしたかと思うと、どんな技を使ったのか一本の糸となって繋がっていた。

 そのピンクの糸は、世間でよく言う所の所謂『赤い糸』と呼ばれる類のものだった。

 猫の体に絡まっていた運命の赤い糸は切れたが、今は猫によって繋げられた。すると、今度は茂みからは仲直りをしたらしい甘える女の声が聞こえてきた。

「・・・もう、外で無理にしない?こんなとこじゃヤだ」

 そう言って暫くすると、腕を組みながら茂みから出てきたカップルは、巧には気付くことなく公園から出て行った。


 不思議なものを視る事は出来ても触る事なんて出来ない巧は、その猫を捕まえた。

「ふーん、お前、面白いこと出来るんだな」

 急に捕まえられた猫はジタバタ暴れていたが、巧が話した言葉にピタッと動きを止めて固まった。その様子は、言葉と言うものを理解している動きに巧にはそう見えた。

「おっ。おまえ言葉分かってるみたいだな」

 違うーっっ、離してーっと猫は再び暴れ出した。

「こら、暴れるな。お前、飼い猫じゃなさそうだな。よし、ちゃんと飼ってくれるとこに連れて行ってやるから、大人しくしてろ」

 なんでっ!?と質問をするように目を見開いている黒猫は、耳と前足が白い変わった模様だった。

「面白そうだから」

 嫌-っっと言わんばかりに腕の中で暴れている。

 行きたくないって?

 そんな事を言われても、こんな変わった猫を見つけたのだ。逃がすわけがないだろう?

「そういうな。たぶんお前にとっても、俺にとっても今の出会いは『いい事に繋がる未来』だぞ。さ、行くぞ」

 猫の顎下を指で撫でてやると、暴れていたのも治まり、気持ちよさそうにしてゴロゴロ音を鳴らした。


 巧は、自分で拾ったにも関わらず、浩介に猫を押し付けた後、必要となる猫道具一式をホームセンターへと買いに行ったのだった。


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